琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート179 師走の上州 群馬県半日探検

2008.12.13
埼玉県深谷市~群馬県高崎市~安中市~富岡市~甘楽町~前橋市


探検レポート179

二日酔いの重い頭を抱えて、東京は赤羽のカプセルホテルで目覚めた。
快適なビジネスホテルには泊まれない金欠の身には、宿代をケチってでもホーロー探険の回数をこなしたいが、その欲求にかなう選択肢は、必然、貧乏旅しかないというわけだ。
赤羽駅からは青春18切符を使っての鈍行電車の旅である。上野からの始発電車は、外はまだ暗いというのにほぼ満員状態。
朝帰りの若者や深夜勤務の人たちでごったがえしていた。 スーツにビジネスシューズという出で立ちで、朝を迎えたばかりの岡部駅で下りる。
早朝の犬の散歩をする人と何度もすれ違いながら、高崎線の線路に沿って歩き出す。 狙いは「オマタのドロップス」という看板である。
2年前に一度訪れているのだが、どうしても見つけることができなかった。今回は正確な情報を駆っての探索である。
狙いのお宝はJR高崎線に沿って500㍍ほど歩いた集落にあった。「オマタ」のロゴが欠落しているが、昭和20~30年代に発売されていた「オマタ製菓」のドロップ看板である。
ドロップといえば、昔から「サクマ式」が有名であるが、この看板は「…タ」である。「サクマ」も当てはまらないし、一体何だろう?という疑問がずっとあった。

探検レポート179

掲示板にその疑問を問いかけると、ジョニーさんという方から早速連絡をいただくことができた。ヤフオクに画像が出ていたというのだ。 それはまさししく「オマタのドロップス」であった。ちょっぴり妖しくヒワイなネーミングだが、こんな疑問が解けただけでもうれしい。
再び岡部駅に戻り、いよいよ本命の群馬県入りをする。高崎駅からはレンタカーに乗り換え、夕方までの時間、高崎を中心に縦横無尽に走り回るのだ。
まず向かったのが高崎市内。上州街道が通る本町筋には古い町並みが残っていた。その中の一軒である醤油の醸造元を何気なく覗くと、まぶしく反射するお宝の姿があった。
店に入り、撮影許可を貰うために店主に声をかけた。醤油蔵特有のひんやりと張り詰めた空気の中に、ほんの少しカビ臭いすえた香りが漂ってくる。
話によると、この店は明治3年創業という老舗の醤油屋ということだった。すでに製造はしていないが3枚の味噌の看板は、歴史の重みを感じるお宝だった。
また、この店はテレビの旅番組でも紹介されたことがあり、それを見て看板を譲って欲しいという人もいたようだが、、店の歴史の生き証人だということで、断わったそうだ。
スタート早々の収穫に気をよくして、すでに冬の準備に入った妙義山を間近に仰ぎながら、安中、松井田、下仁田町と回った。
過去にも訪れている町だが、消失してしまった看板も多く、その状況を確認する探険になってしまった。
甘楽町に入り、古い町並みが残る小幡地区の雑貨屋の前に立った。鍵がかかっているが、ガラス越しに見た店内には「花王石鹸」の看板。これを見たくて、ここまではるばる来たのだ。
2年前の探険では見逃していたが、埼玉のホーローマニア・ウシ君さんの情報でこの店にある珠玉のお宝たちのことを聞いていた。

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しかし、鍵が閉まっていて、中には入れない、(このまま諦めて帰るしかないか…どうしよう…)。
半ば諦めながら、ブザーを何度か押してみると、店主と思われるお婆さんが中から鍵を開けてくれた。 地獄に仏とはこのことである。
お婆さんは耳が遠いらしく、それに気づいた私は、手まねで写真を撮らせて欲しいとお願いした。
撮影後、少し話をさせていただいたが、すでに店はやっていないということだった。創業150年も経つ店だということだが、このまま廃業してしまうのは勿体ない。
しかし、時代の流れには逆らえまい。国中で、こうした店がまた一軒と消えていくのだ。
さて、ひとりホーロー探険隊は、再び高崎市に戻り、宿題だった看板屋敷を撮影した後、冬枯れの梨畑が続く道を前橋市に向かった。
この日最後のターゲットは、「うきわかもめマッチ」である。 これもウシ君さんから教えていただいた看板であるが、「マッチ」を「燐寸」と表現するレトロ感と、かもめがデザインされた色合いが素晴らしい。ぜひこの目で見たいお宝だった。
しかし、犬がいるではないか。看板の前に(笑)。
近づいてくる私を睨みつけ、すでに低く唸りながら威嚇体勢に入っている。
よく見れば白くのっぺりとした雑種のようだが、顔が憎らしい。「不審者を見たら吠えるんだよ」と、よく教育されているのだ。その目つきが明らかに私を嫌っている(笑)。
(こりゃあ、正面から撮れないなぁ…残念)と思いつつ、少し距離を置いて、斜めの角度でシャッターを切った。
それを待ってましたとばかりに、ヤツは飛び掛らんとばかりに吠え始めた。 あまりうるさいので、何気なくポケットにあったのど飴を投げてやると、尻尾を千切れんばかりに振って、長い鎖を引きずり、飴が落ちたほうへ一目散。
この瞬間を待ってましたとばかりに、真正面から貴重な一枚を撮ることができた。
最後は、ヤレヤレであった。
(2008.12.28記)
※画像上/旧妙義町から見た妙義山(1103㍍)。ノコギリのような特徴的なギザギザを見ると、上州にやって来たことを改めて感じる。
※画像中/城下町として有名な甘楽町には、心が癒されるような古い町並みが残っていた。
※宿泊/「コスモプラザ赤羽東口」 東京都赤羽 ☆☆☆★★ カプセル素泊まり3300円。ごく普通のカプセルホテル。埼玉県内のビジネスホテルに泊まるなら、少々遠くても都内のほうが安い。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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