琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート247 山陰→瀬戸内縦断ホーロー旅3 兵庫~京都編

2011.5.2
兵庫県たつの市~太子町~高砂市~姫路市~市川町~神河町~京都府福知山市


探検レポート247

日本海から瀬戸内海に抜けた旅も今日で終わり。快晴となった相生市のホテルを出た。
早朝の空気がまだ残るたつの市の古い町並みを訪ねると、久しぶりに見る風景が広がった。
8枚もの看板をずらと並べた酒屋・菊屋商店は龍野を代表する看板商店である。
明治元年創業という老舗で、歴史を感じる建物も素晴らしい。 私にとっては三度目の訪問だが、よく見ると看板の数が減っているのに気づいた。
初めて訪れた2005年には10枚あった看板も、6年で2枚の看板がなくなっていた。
最も平成になるときには「蜂ブドー酒」など12枚の看板が貼られていたことも分かってるので、年々看板の数が減っていくのも時代の流れとはいえ、寂しいばかりだ。
龍野から太子町に向かうと、田んぼの中にぽつんと建つ看板酒屋が見えた。ぺんぺん草が生えた棟続きの倉庫(?)の壁に、「キリンビール」と「サッポロビール」に並んで地酒の看板が貼られていた。
「龍力」と「旭龍」は地元兵庫県の酒。力強い筆致のデザインはいかにもお酒の看板らしくてかっこいい。
店は営業をしていないようなので、店主に断ることもできず撮影をした。

探検レポート247

私のホーロー探検のスタイルはできるだけ撮影許可を貰うのが基本だが、店主や家人がいないとどうしても“撮り逃げ”となってしまう。
心苦しいが、再訪のチャンスも少ないのでいたしかたない。
高砂市でJR山陽本線沿いの看板屋敷を撮った後、平成の大合併で面積が広がった姫路市を北上した。
「清酒真名井乃鶴」と「清酒富久錦」が貼られた酒屋の塀を回り込むと、どっしりとした蔵の壁に肥料の看板がずらりと並んでいた。
酒屋と肥料屋は結びつかないが、田舎にはどちらも欠かせない店である。この店も例外でなく、集落の外れにぽつんと建っていた。
“のんべい大国”日本には、どんな山奥に行っても酒屋はある。おそらく小売業の中でも酒屋がいちばん多いのではないかと思う。
午後を回り、国道沿いのコンビニで軽く昼食を済ませ先を急ぐ。市川町から国道312号線を北上し神河町に入ると、レトロな雰囲気に包まれた町並みを見つけた。
大昔、今は亡き母に手を引かれて歩いた商店街をほうふつとさせる風景があった。
衣料品や履物、雑貨を扱う店には「菅公学生服」の電飾看板や錆で判読もできない「福助足袋」の吊り看板が下がり、新聞店の壁には「神戸新聞」を初めとした看板が並んでいた。
町並みを歩く楽しみは人それぞれだろうが、私の場合は、幼い頃に見たことや、経験したことの“思い出のカケラ”を集めることが町歩きの楽しみになっている。
それがホーロー看板であったり、牛乳箱や放置されたままになっている古い自販機だったりする。

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考えてみれば、モノ心ついてからすでに50年近く経っているので、少年の日に見た風景に出会うことなど奇跡的といってもいいし、それを繋ぐ“カケラ”であるホーロー看板のような“パーツ”も今ではほとんど見ることができなくなってしまった。
そんなことを考えながらハンドルを握っていると、カーステレオの音楽も、横に座るカミさんのおしゃべりも耳に届かなくなった。のどかな旅の午後である。
さて、旅の終わりは京都府福知山市。3日前に丹後半島からスタートしたので、これで山陰から山陽をぐるりと一周したことになる。
福知山市の市街地に向かう山間ルートは、対向車のすれ違いも稀な道が続いていた。時折出てくる集落の民家の屋根はまるでピラミッドのごとく尖った独特の形状。
この辺りは積雪地帯なのだろうか、雪下ろしの手間が省けて良いかもしれない。 そんな山の中にもお宝たちの姿があった。
「強力虫下しムシオニン」は、2005年に滋賀県の琵琶湖湖畔の小さな集落で見つけているが、草に埋もれた朽ち果てた建物の壁に貼られたそれを見ると、旧知の友に会ったような気がして、懐かしかった。
突発的に、それもカミさん連れで出かけた今回のホーロー探検だったが、鉛色の空に重たく波打つ群青色の日本海と、鮮やかなコバルトブルーの瀬戸内海を見ることができて、3月の震災以後鬱屈とした気分も少しは晴れた旅となった。
震災は被災した人ばかりでなく、すべての国民の心に寂寞とした暗い影を落としているが、一日も早い復興の日が来ることを願って止まない。(おわり)
(2011.11.23記)
※画像上/たつの市中心部の古い町並み。早朝の町に人の姿はなく、用水路の水が緩やかに流れていた。
※画像中/兵庫県篠山市から京都府福知山市に抜ける国道沿いで見つけた集落。まるでピラミッドのような鋭角的な屋根が面白い。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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