琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート361 鞆の浦で仁丹スタンプラリー

2018.11.7-8
広島県尾道市~福山市


探検レポート361

仙台を去る日が秒読みに迫った11月初め。広島への遠征を決める。
目指すは福山市鞆の浦。2006年以来の再訪となるが、今回の目的は明確である。 それは、森下仁丹㈱の創業120年事業の一環として、鞆の浦に2014年に設置された15枚の仁丹の町名看板を撮影すること。
鞆の浦は森下仁丹の創始者森下博氏の出身地であり、小津安二郎監督『東京物語』の舞台となったことでも有名。更に、古い町並みは国内にあっても稀有な存在。
京都にも匹敵するそんな町並みに仁丹の看板は思いっきり似合っているに違いない。
15枚の看板が貼られた場所はガイドマップにも記されているので、スタンプラリーのようなノリでウォーキングができるのではないだろうか。
もちろん看板の前にスタンプなど置いてないので、その代わりは一枚一枚カメラに収めていくことになるが、果たしてすべての看板を見つけ出すことができるだろうか…。 そんな思いを乗せ、広島に向かった。
鞆の浦の探検は翌日とし、仙台から空路で広島空港、更にレンタカーで尾道へ向かう。尾道を訪ねるのは1年ぶりだが、今回はホーロー探検よりも町の散策をメインにするつもりだ。

探検レポート361

尾道ラーメンの人気店『東珍康』で遅い昼食を取り、まずは千光寺に向かう。大同元年(806年)創建と伝えられる真言宗の名刹で、随所に散らばる花崗岩の巨石群も素晴らしいが、眼下に広がる尾道水道や瀬戸内の島々の遠望が珠玉。
これまで何度も尾道を訪れているが、ここに来なかったのはうかつだったかもしれない。
これに気をよくして、日没までは尾道の路地裏散策。 今更ながらに尾道は坂と路地の町。つくづくそう思う。
迷路のような路地を彷徨うと、今は居酒屋に模様替え、その昔は遊郭だったという建物も残っており、路地のどんづまりには苔むした小さな祠もあった。
古き良き町、尾道はのんびりと歩くにはもってこいの町だと改めて思う。 とはいえ、…のんびりと歩く…そんな散策にも飽きた頃、年季が入った酒屋を見つけた。
入口にはキリンビールのホーロー看板が貼られ、いかにもお宝の匂いがプンプンする。 店内に足を踏み入れると、思ったとおり壁面には『白玉ホワイトワイン』の看板がかかっていた。はやる気持ちを抑え店主に声をかけ、看板をカメラに収めた。
店主の話では店は明治42年創業で、以前は他にもホーロー看板があったそうだ。 結局、尾道ではこれといった収穫もないまま散策を終えたが、町全体に漂うレトロな雰囲気に包まれてのんびりと町歩きを楽しめたことが、ホーロー探検以上の収穫だったと思う。

探検レポート361

翌日、レンタカーで鞆の浦に向かう。
願ってもない快晴。頬に触れる晩秋の風が爽やかである。 鞆の浦港の駐車場にクルマを止め、観光地図を開きながら探検を開始した。
地図を見ると、15枚の仁丹看板はかなりの広範囲に散らばっている。徒歩ではちょっと厳しそうな『鞆中学校入口』や『淀姫神社前』はクルマを使うとして、町の中心部に集中している看板はウォーキングで片付けることにした。
港から狭い路地をくぐり抜け、最初にゲットしたのが『小鳥神社前』。看板には鍛冶町と書かれており、この神社は地名と同じ鍛冶職人の氏神様という。
続いて同じ鍛冶町にある『鞆の津ミュージアム前』を撮影。見学はパスし、足早に『備後国安国寺前』に向かう。
しかし、お寺を一周し境内に入ってもなかなか見つけられない。焦り始めた頃ようやく発見。結果的には15枚の中で一番難易度が高い看板だった。
続く祇園町にある『沼名前神社前』、江の浦町の『ささやき橋前』『鞆小学校前』は距離も近いので簡単に見つけることができた。
更に進むと見覚えのある廃業した薬局の前を通過。2006年の探検では『太田胃散』や『引起散』、『メンソレータム』『神農湯』といったレアな看板も残っていたが、二階の欄干に貼られた2枚の『オロナイン軟膏』以外はすべて消失していた。
まさか盗難に遭ったとも思えないが、鞆の浦のレトロな町並みに華を添えていた看板だけに残念である。
歩き始めて1時間が経過し、7枚目の『岡本家長屋門前』を撮り、『常夜燈広場前』へ。常夜燈と丸ポストのツーショットは言わずもがな『東京物語』のフィルムに映し出された風景。

探検レポート361

常夜燈は安政6年(1859年)に建立されたそうで、おそらく、鞆の浦ゆかりの彼の坂本龍馬も見ていただろうと思う。鞆の浦を代表する風景だけに感慨ひとしおだった。
西町にある8枚目の『太田家住宅前』から11枚目の『桝屋清衛門宅前』までは、鞆の浦の白眉とも言える古い家屋が軒を連ねる路地裏をのんびりと歩きながら撮影していく。
途中で見つけた古びた金物屋の店内を覗くと、『日本ペイント花錨印特約販賣店』の初見看板を見つけることができた。
歩数計のスコアを確認すると、ここまでで1万2千歩。早朝からのウォーキングとしては健康的なスコアだ。 ここでクルマを置いた駐車場に戻り、『鞆中学校入口』に向かう。
おそらく15枚の看板の中でも一番離れた位置にあるロケーションだと思うが、中学校の前に出る分かりにくい坂道を登って無事にゲットすることができた。
残りは『焚場跡入口』と『淀姫神社前』。 鞆中学校から中心部に戻り、湾をぐるりと回り込むように海岸線を南下していく。
『焚場跡入口』の看板が貼られた建物はちょうどリフォームの真っ最中で、足場が組まれ、看板は防護ネットに隠されていた。ロケーションは悪いが14枚目をゲットできた。
さて、最後の1枚である。『淀姫神社前』はそかこらすぐの場所にあった。
神社の石段横のフェンスに貼られたそれは、レトロ感も何もなく、貼るべき場所を深く考えずに貼ったような頼りないロケーションだった。考えてみると、100年以上前に貼られた京都の仁丹看板と比べる由もなく、改めて平成の看板だということを実感するのであった。
とはいえ、現代に蘇った仁丹町名看板。 たとえカタカナの文字が使われていようとも、そこは仁丹看板。
あと何十年もしたら鞆の町並みにすっかり同化し、まぶしいくらいのレトロな看板になっているに違いない。
(2019.7.3記)
※画像上/鞆の浦の港と常夜燈。小津安二郎神作作品『東京物語』のロケ地となったことでも有名。
※画像中/尾道の坂の上より尾道水道を望む。近くには旧志賀直哉邸もある遠望抜群のロケーション。
※画像中/福山市鞆の浦の風景。古い民家や商店が軒を連ねるレトロな界隈を歩くと、昭和初期の町にタイムスリップしたような錯覚を感じる。
※画像下/鞆の浦港には小さな漁船が係留されていた。
※宿泊/『リッチモンドホテル福山駅前』素泊まり8000円。鞆の浦探検を考慮し、駅前立地を優先し宿泊。快適さは文句なし。☆☆☆☆☆



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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