琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート401 雨に祟られた18キップ春の旅 前編

2024.3.21-24
岡山県岡山市~福岡県北九州市~糸島市~福岡市~小郡市~久留米市~大分県日田市


探検レポート401

2月に亡くなった父の四十九日法要が終わり、長かった喪が明けた。
昨年暮れから介護に追われ、それこそ小さな旅行ひとつできる気分でなく、自分に取ってもライフワークとしているホーロー探検という趣味の活動さえままならなかった。
ようやく忌明けなのだ。ここはなんとしても気分を一新したい。 少しくらい冒険をしても亡き父は許してくれるだろう。
ということで、昨年11月に計画を立てるも棚上げになっていた九州への旅を実行に移すことにした。
九州は遠い。青春18キップを使う貧乏旅とあれば尚更だ。
旅の計画を一週間とし、一日だけレンタカーでの探検を挟んで、JR沿線からできるだけ徒歩で看板を探すことにした。
巷は春の装い、桜のたよりもそろそろ。いざ、九州へ。

探検レポート401

▼3月21日
まず目指すのは岡山である。 自宅からJRで名古屋に出て岡山までは、18キップを使った一日の行程としてはちょうどよい。
名古屋→大垣→米原のルートは、いつものことながら乗り継ぎ時間もほとんどなくすさまじい混雑だ。
18キップを握りしめた老若男女が、座席を確保したい一心で、停車している電車に向かっていっせいにホームを走りだす。
(なんと、あさましい…)と思いつつも、老体に鞭打ってつられて走ってしまう己の姿があった。
雪がたたきつける車窓の風景を見ながら、米原から姫路までは新快速で一気に向かう。
山陽本線が面倒なのはそこから。快速はないので、岡山までは相生経由で普通電車を乗り継いでいく。
14時11分、岡山駅の一つ手前にある東岡山駅に到着。自宅からここまで6時間の鉄道旅だった。
さて、何もない駅に下りておもむろに歩き出すが、目的は岡山市内に散らばる町名看板だ。
看板のスポンサーは『ニッコーサラダ油天ぷら油』で知られる日本興油である。全国的に見てもこの企業がスポンサーの町名看板は岡山県にしかないようだ。
まずはウォーミングアップのように3㎞ほどのんびりと歩いて、小さな集落で『今谷』をゲット。
民家の壁際に貼られた看板にスマホを向けると、すぐ近くでトラクターの点検作業?をしていた若い兄ちゃんが怪訝な表情を見せた。
一瞬、注意されるかと思ったが、何も言われることなく、その場をそそくさと次のポイントに向かって通り抜けた。
『澤田』の町名看板はこの地方特有の焼杉外壁の民家の玄関に、それこそ表札と間違えるくらいの位置にあった。
本来ならインターフォンごしに許可をもらってから撮りたいところだが、このロケーションでは宅配業者どころか押し売りセールスと間違いかねない。 心苦しいが、そっと撮り逃げをさせてもらう。

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2枚の町名看板を撮影したところで、待っていたかのように小雨が降りだした。
冬のような冷たい雨である。「春に三日の晴れなし」と格言にあるように、今回の旅では衣類については悩みに悩んだ。 結局、ダウンは見送り、中厚手のパーカーと薄手のウインドブレーカー、ジャージの上着とした。
しかし、この寒さ。3月下旬とはとても思えない。天気は冷たい雨からみぞれに変わってきた。
あわてて全部を着込み、ネックウォーマーと手袋を着けてフードを被った。 このまま5㎞先の岡山市内にある看板屋敷まで寒さをこらえて歩く。
『エスビーカレー』と『まるほ醤油』の短冊看板が貼られた民家は、事前にストリートビューでチェックしていたのですぐに分かった。
これまで何度も岡山の探検をしているが、この屋敷の存在は知らなかった。
ついでに触れると、ここから数キロ先の山陽本線沿いには『白ダイ』を貼った朽ちかけた民家があるが、中途半端な場所にあるので、これは食指が動かない。 そのうち鉄道から見えるホーロー看板がある風景として無くなってしまうだろう。
初日の最後は『福田』の町名看板を撮影した。イレギュラーな出費になるが時間には代えられない。岡山駅からバスに乗車し、最寄り停留所で下りて往復した。日没寸前でセーフだった。

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▼3月22日
西日本は明日から停滞する前線の影響で大荒れという天気予報だが、今日は北九州までひたすら電車を乗り継いでの移動日である。憎らしくもあるが、こんな日に限って天気が良い。
岡山駅を7時前に乗車し、糸崎から広島県の八本松まで移動。そこから徒歩で山陽本線沿いの看板屋敷を往復し、北九州までの長い電車旅というのが本来の計画だった。
しかし、あろうことか、三原から岩国までの区間が架線事故のため不通。回復の見込みも立たないという(怒)。
三原駅で降ろされてしばらく待ってみたが、ホームや待合に乗客はあふれるばかりでどうしようもない。
そのうち、場内放送で「広島方面へは新幹線に乗ってください」だと(怒怒)。
この時点で、今日の計画がぶっ飛んでしまった。 極力金をかけない18キップの旅はここでとん挫である。泣く泣く新幹線の切符を買い徳山へ。18キップ2回分以上に該当する5610円の痛い出費となった。
徳山からは再び18キップの乗客となり、下関から小倉駅へ。 新幹線を使ったことで時間に余裕が生まれ、北九州の町名看板3枚を撮影することができた。
広島の看板屋敷はパスしてしまったが、結果的に少し計画の前倒しができたので、痛い出費も良しとすることにした。まぁ、時間を買ったと思うしかないだろう。


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▼3月23日
朝から予報通りの雨となった。 雨具上下に傘をさして歩き出す。
今日は北九州市内の町名看板を歩いて撮影するという前半戦のメインの日なので、できることなら雨だけは避けたかった。
しかし、ドンピシャのタイミングで大当たりなのだ。 その上、予報では警報級の暴風雨となることを告げている。
傘をひしゃげてしまうような風雨に煽られて黙々と歩く。新調したばかりの防水ウォーキングシューズは、何の役目も果たしておらず、すでに中まで水浸しで気色悪いったらない。
戸畑駅からは渡船を使って若松区に入り、8枚の町名看板を撮影した。
こんな大雨の日に歩いている人の姿があるはずもなく、グレー一色に覆われた廃墟のような無残な姿をさらすアーケード商店街で、冷たい雨がしみ込んだ体を震わせながら立ったままの雨宿りをした。
全身ずぶ濡れである。遅い昼食となったが、なにか温かいものを食べなきゃ体が持たないと思い、ぽつんと一軒だけあったラーメン屋ののれんをくぐった。

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年配のおかみさん一人できりもみしている店だが、海運や鉄鋼で栄えた賑やかだった頃の話を聞いて、ほんの束の間だが癒された気分になった。
ここまですでに20㎞近く歩いており、雨は一向に止む気配もないので早々と予約してある小倉の宿に向かうことにした。
今回の旅は18キップの貧乏旅である。 だから、当然のごとく宿の料金も底辺を狙う。
この日の宿となったのは、ストリップ小屋や風俗店が軒を並べる繁華街にあるカプセルホテル。
春休み、しかも野球のオープン戦開催と重なれば、カプセルといえども料金は高い。普段なら一泊3000円程度がこの日は4400円だった。
それはともかく、上段に寝ている客が一晩中ゴホゴホと咳き込んでおり、気になって寝られやしない。
もしやコイツはコロナじゃないか?と疑ってしまい、すでに時遅しだが途中からはマスクで防御して眠った。
※【後日談】やはりというか伝ってしまったのか、その二日後から咳と鼻水が止まらなくなった。熱はないのでコロナではなさそうだが、安宿を選んだばかりに高くつくことになった。

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▼3月24日
春の雨はしつこい。一向に止む気配もないまま旅に出て四日目を迎えた。
小倉から博多に向かう。博多からは市営地下鉄に乗り換えるが、この電車は姪浜からJR筑肥線となり筑前前原で下車した。ちょっと納得できないが、姪浜駅までの区間には18キップは使えず300円を要した。
筑前前原駅を出ると、歩き始めてすぐに全身ずぶ濡れになった。
昨日に劣らず風雨が強い。靴は乾かず濡れたままだ。折りたたみ傘も役に立たず、雨具のフードを被って歩く。
今日最初の一枚は、年季が入った商店にあるバス乗車券の看板。スポンサーは東芝。初見の看板なので、これは素直にうれしい。
筑前前原駅から往路を戻り、再び博多駅に向かった。
駅を出て空を見上げると、どんよりとした暗く垂れこめた雲が幾重にも層をなして、重くうっとうしい。雨は間断なく落ちてくるし、とにかく寒い。背中を丸めて足早に目的地に急ぐしかない。
カネボウ化粧品をスポンサーとする町名看板は住宅街の中にあった。旅に出てから同好のTMさんに急遽メールしたのが功を奏して、電柱に貼られた看板を無事に発見することができた。
3枚目の「清川3丁目1」も見つけることができた。これまで何度も博多を訪ねていたのに、なぜか立ち寄ることができなかった看板である。
博多からはJR鹿児島本線に乗車し、基山駅で下車。更に甘木鉄道に乗り換えて看板商店へ。
さすがに空腹は我慢できず、途中で見つけたうどん屋に入った。 久留米と言えば久留米ラーメンが有名だが、どうしてどうして、うどんも侮れない。 ごぼう肉天うどんを注文したが、これがめっぽううまく絶品だった。

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空腹が満たされた勢いなのか、雨を切り裂くように黙々と歩き、看板商店を往復した。甘木鉄道に再び乗車して基山に戻り、更に久留米からJR九大本線に乗り換えて大分県の日田を目指した。
九大本線は1時間に一本程度しか走っていないので時間に余裕もなく、日田を出る帰りの時間をチェックしてから乗り込んだ。
電車に乗れば、これはもう習性といってよいが、車窓から見えるホーロー看板のチェックを忘れない。
久留米駅を出てすぐに「大楠公学生服」の看板が貼られた民家を見つけて心が踊った。位置をしっかりと頭に刻み付け、スマホのメモ帳に記録しておく。明日のターゲットが一つ増えた。
日田駅の改札を出ると雨は小降りになっていた。 これまで何度かホーロー探検で訪ねた町だが、まだまだ見落としはあったようで、町を歩きながら醤油の看板や薬の看板を見つけることができた。
古い町並みで有名な日田の観光ルートとしては、大きく分けて隈町と豆田町のブロックがある。二つの町をつなげて歩くとざっと5㎞程だが、看板を探しながら歩いていくので、これは時間を忘れるぐらい楽しい。
豆田町の老舗の薬店は二度目の訪店だったが、併設された資料室も見学でき、当時から店で使われていたホーロー看板や医療器具、薬の小袋といった資料を見学することができた。
また圧巻だったのは、展示されていた明治時代からの雛飾り。さすがに豪商のお宝である。目がくらむような気らびかさだった。
日田からは再び九大本線に乗車し、JR久留米駅で下車し、バスで西鉄久留米駅前の宿に向かった。 駅前のデパ地下で晩メシのお惣菜を調達し投宿。
探検四日目も雨の一日で終わった。そろそろ体にカビが生えるかもしれない。(つづく)
(2024.3.28記)
※画像上/JR基山駅から甘木鉄道に乗り換える。松崎駅のホームで。福岡県小郡市。3月24日
※画像中/梅の花が咲く岡山市の山里を歩く。みぞれ混じりの冷たい雨に寒さが身に染みた。岡山市。3月21日
※画像中/戸畑駅から渡船で若松区に渡った。料金は100円。雨風が強くなってきた。福岡県北九州市。3月23日
※画像中/若松区のアーケード街。昔は賑やかだったという。今では数店舗しか営業していない。福岡県北九州市。3月23日
※画像中/小倉駅前の繁華街の路地を歩く。福岡県北九州市。3月23日
※画像中/小倉名物の焼うどん。甘辛ソース味が美味い。『きつね』773円。福岡県北九州市。3月23日
※画像中/古い町並みが残る日田市豆田町。大分県日田市。3月24日
※画像下/日田市の老舗薬店に展示されている雛飾り。当時の豪商の繁栄を物語っている。大分県日田市。3月24日
※宿泊/3月21日「ホテルリブマックス岡山」素泊まり4781円。岡山駅至近で快適なホテル☆☆☆☆★/3月22日「ディライトスティ黒崎駅前」素泊まり4800円。黒崎駅前にあるマンション型ホテル。キッチンもあって部屋も広い。☆☆☆☆☆/3月23日「スパ&カプセルグリーンランド小倉」素泊まり4400円。大浴場は狭いし、カプセルの設備は古く、ロッカーも狭く荷物が入りきらなかった。☆★★★★/3月24日「ホテルイルファーロ久留米」朝食付3870円。洗練されたデザインとインテリアの清潔なホステル。壁が薄いので隣のいびきが聞こえる。それを除いても居心地とコストパフォーマンスは最高。☆☆☆☆☆

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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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