琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート110 深まる秋に、山陰ホーロー紀行2 島根編

2006.10.21
鳥取県倉吉市~琴浦町~大山町~米子市~島根県安来市~松江市~出雲市~太田市~温泉津町~江津市


探検レポート110

思ったとおり、山陰の空は鉛色に淀んでいた。
そんな天気と裏腹に今日は島根県に突入するとあって、「よーし!」と地図を眺めながら気合を入れる。
最も、同行者ののぶ太郎さんは何度も島根を訪れているので今更かもしれないが、気合充分ではしゃぐおやじを許して欲しい(笑)。
まずは早朝の倉吉市内をぐるりと回る。日経新聞の「散策したい町並みランク」5位に選ばれただけあって、静かなたたずまいの町もさることながら、玉川沿いの赤瓦の白壁土蔵群やレトロな商家が哀愁を誘う。
いかにもお宝が潜んでいそうな雰囲気がぷんぷんするが、世の中そんなには甘くない。時間をかけて回ってようやく数枚という成果だった。
クルマは琴浦町から大山町に向かう。国道8号線から旧道に入ると、海岸べりの町は板壁の古い家屋が当たり前のように続く。どんよりと重く立ち込めた暗い空に、山陰独特の寒村の風景がよく似合う。
小さな集落の生活道を、潮の香りをかぎながら風に吹かれて走っていくと、雲の切れ目から見え隠れする青空に、干したスルメイカがゆらゆらと揺れていた。 「風流だよなぁ、山陰だよなぁ」なんて言いながら、ふたりしてシャッターを切りまくる。
対象はホーロー看板ばかりでなく、のぶ太郎さんは古びた木造駅舎や線路、猫や古い自販機まで守備範囲が広い。

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かたや私は古い家屋や町並み、このところ意識して撮り始めている漁村や山村の日常の風物に目が向く。
洗濯ばさみにぶら下がって揺れるイカは恰好のモチーフだ。角度を変えて何枚も撮る。
二人三脚の琺瑯の旅は、島根県に突入しても安来から東出雲、松江から宍道と、こんな感じでのんびりと進んだ。
しかし、さすがに琺瑯王国島根県だ。あくせく探さなくても相手から飛び込んでくる。 なかでも安来で見つけた「ゼネラル洗濯機」は最高だった。
脱水用のハンドルがついた絵柄を見ると、遠い昔を思い出さずにいられない。
亡き母の手伝いで、脱水用のローラーに洗った衣類を挟んで得意気にハンドルを回したことを思い出す。脱水された洗濯物がべしゃんこになって出てくる様子がなんともおかしくて、子供には重いハンドルを何度も何度も両手でしがみつくように回して楽しんでいた。
全自動全盛の今ではついぞ考えられないことだが、三種の神器ともてはやされた当時は、洗濯という家事にすら親と子の楽しいコミュニケーションがあったのだ。
午後も過ぎ鉛色の空もすっかり晴れ上がると、イカ釣り船が浮かぶ遠い入り江を眺めたり、ノーマークの看板屋敷と出会ったりした。
2日をかけて島根県を攻めるつもりなので急ぐことはないが、温泉津温泉の町に入ると、温泉好きの僕としてはだまっておれず、無性に湯に浸かりたくなった。のぶ太郎さんと相談の上、お宝探しを中断して湯船に飛び込む。

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歴史を感じる建物もすばらしいが、番台のあばあちゃんが印象的だった。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」「シャンプーやせっけん、持ってないなら貸してあげるよ」…なんて言いながら、旅人の私に世話を焼いてくれる。
風流な湯治場と人情、ほんの一瞬の関わりだったけど、旅はいいもんだなぁとつくづく感じた。 夕暮れが近づき、今夜の宿を浜田市の公園の駐車場に決めた。
テントの中で一杯始めると、あっという間にホロ酔い気分だ。遠くで浜田名物の「石見神楽」の太鼓の音が響いている。
今日2回目の「風流だなぁ」…だ。 しかし、寝入り始めると…「風流だなぁ」は「やかましいなぁ、なんとかしてくれぇ」に変わってしまった(笑)。それこそ朝方まで神楽の音色が大音量で一晩中鳴り響いたのだ。
私にとってはもはや風流どころか雑音にしか聞こえなくなった。のぶ太郎さんは「起きて観にいこうかと思った」というくらいだから、演奏を楽しんでいたようだが、慣れていない私はちょっと参った。
あーだこーだーと思いながらも疲れていたのか、それでも知らないうちに眠ってしまったのは、我ながら驚く磊落ぶりだった。(つづく)
(2006.11.12記)
※画像上/早朝の倉吉市「赤瓦」の風景。
※画像中/琴浦町の海岸沿いの旧道を進むと、イカの一夜干しの風景に出遭った。洗濯ばさみに挟んで下げているのが面白い。
※画像下/温泉津温泉の公共温泉
※宿泊/島根県浜田市の臨海公園駐車場で野宿。なかなか快適だったが、神楽の音で眠れず。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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