琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート121 春一番も吹いて 関東ホーロー紀行 前編

2007.3.2-3
埼玉県越谷市~上尾市~東松山市~行田市~群馬県館林市~栃木県佐野市~鹿沼市~足利市


探検レポート121

春の訪れが近いのか、東海地方では昨年よりひと月以上も早く春一番が吹いた。
滅入ってしまうような陰鬱な冬をじっと耐えてきたが、重いコートはもう必要ないようだ。 金曜日の夕方、東京で仕事を終え、ひとり上野から埼玉に向かう。スーツ姿が野暮ったいが、ここからは自分の時間だ。ネクタイをはずし、ビジネスカバンを肩にかけて喧騒と雑踏の中に突入する。
南浦和駅から武蔵野線に乗り換え、南越谷駅下車。そこから更に東武伊勢崎線につなぎ、ようやく降り立ったのが、越谷駅だ。
すでに18時を回り、時間との勝負となった。 越谷駅から北に伸びる旧日光街道を急ぎ足で歩くと、見るからに匂う旧家や商店が現れた。
金物屋や雑貨屋が目立つが、越谷の産業と何か関係があるのだろうか。 常連投稿者のウシ君さんに教えていただいた金物屋はすぐに見つかった。
波が打ったような瓦屋根も素晴らしいが、何よりも懐かしさの中に落ち着きと情緒を感じる店構えがいい。お宝は入口の柱に貼られて、全体の景観に溶け込んでいる。夜のとばりと競争するようにシャッターを押すと、フラッシュが走り、ホーロー引きの鉄板に反射した。
初日の成果にまずは満足し、そのまま北越谷駅まで歩き、春日部行きの電車に乗った。春日部からは東武野田線に乗り換え、大宮へ。
今夜の宿は駅裏のカプセルホテル。初めての経験だが、車中泊やテント泊が多い身には、懐かしさを感じる空間だった。しばらくは隣のオヤジのいびきが気になったが、まるでカイコの蛹になったような気分で、すぐに深い眠りに落ちた。

探検レポート121

▼3月3日
ひな祭りだ。といっても、場末のカプセルホテルで浴衣をはだけてひとり目覚めた中年オヤジには、まったく関係がない(笑)。
大宮駅から上尾駅まで電車に乗り、これもウシ君さんから教えてもらった看板屋敷に向かう。
台風が来たらひとたまりもないような廃屋の壁に「ポマドール」や「ローズふとん」が貼られていた。どちらも初見の看板なので、早朝にもかかわらず胸が踊り、シャッターを押す指にも力が入る。
しかし、朝飯はチューブゼリーを食べただけなので、お腹には力が入らない。
上尾駅からは予約しておいたレンタカーに乗り換え、いよいよ関東ホーローの旅の本格スタートを切る。
今回の探検は2日間で目いっぱい回ろうという欲張りスケジュールなので、ウシ君さんからの情報をベースにコースを組立てた。
まずは東松山市から行田市を回る。中山道や日光街道といった旧街道が通る埼玉県は、都心にあっても意外にも古い家屋や商店が残っている。
お宝の姿は確かに少ないが、じっくりと探せばまだまだ見つけることができそうである。
行田市で見つけた今にも倒壊しそうな廃屋には、右から左に書かれた虫下しや殺虫剤の看板が屋根代わりに使われていた。
明らかに昭和20~30年代の看板だが、道路が拡張整備された傍らに、こうした看板屋敷が取り残されたようにぽつんと残っていることに驚く。
車は利根川を渡り、群馬県館林市に入った。館林には正田醤油の醸造元があり、お宝の姿を期待したが、アウト。市の中心部の目抜き通りから路地を調べて、ようやく2枚を見つけただけにとどまった。
更に群馬県から栃木県佐野市に突入。看板探しでは初めての県だが、情報を繋ぎ合わせると、看板が少ない県らしい。果たして本当なのだろうか。
今回の探検では栃木県の一部しか行けないが、のどかな田園風景と山の連なりを見ていると、お宝の匂いが漂ってくるような気配を感じた。

探検レポート121

私が住む岐阜県にどこか似たような雰囲気があり、そこだけ見ていると、大いに期待してしまうのである。 佐野の市街には古い家屋も並び、期待通りにお宝を何枚か見つけた。
ちょうど昼になったこともあり、噂の佐野ラーメンを食す。派手な造りと演出に釣られて入った店が失敗だった。期待していたほど旨くないのだ。
麺はコシがないうどんのような平打ち、スープは薄くて塩っ辛い醤油味で、ギトギトのとんこつや味噌味が好きな僕にはさっぱりすぎて物足らない。
佐野ラーメンは青竹で打った麺に、澄んだスープが特徴といわれているが、佐野ラーメンって、こんなものなのか? 店を出てからも、ラーメンのことを考えながらハンドルを握ると(笑)、行列ができているラーメン屋を発見。しまった!…後悔することしきりだった。
佐野からは岩舟町~栃木市と経由して、鹿沼市に向かった。期待のお宝はぼつりぼつりと出てくる程度で、“濃い”とは言えないが、まぁ、こんなものなのだろうか。
それでも、醤油ハンターの私としては、「フジセイ醤油」の看板を見つけて、「栃木県もまんざらじゃないなぁ」なんて思いながら、ひとり悦に入った。単純なものである(笑)。
鹿沼市からは峠越えで葛生町に入るが、さすがに石灰岩の産地であるだけに、セメントを積んだ大型トラックがひっきりなしに走り、ホコリっぽくて仕方がない。
窓を締め切り、なんとなく殺風景な葛生の町に下りると、すぐに金物屋の店先にホーロー看板を見つけた。更に、大きな旧家が並ぶ目抜き通りでたばこ看板をゲット。
葛生は「葛生原人」と名づけられた人骨化石が発見されたことで知られており、町の中心に近いところに遺跡があった。これも古代史や古生物好きの僕にとってはうれしいロケーションだった。
さて、関東ホーロー探検隊のクルマは、渋滞が始まった国道293号線から足利市を経由して、埼玉県熊谷市に着いた。
栃木県についてはかすめただけで終わってしまったが、次の機会には北部も含めてじっくり回ってみたいと思う。何よりも食いしん坊の私としては、ホーロー看板はさておき、宇都宮の餃子が気になって仕方がないのだ。
佐野ラーメンの失敗を宇都宮餃子で返したくなったのが本音かもしれない(笑)。
関東探検の2日目は熊谷駅近くのビジネスホテルに投宿した。カイコのように眠ったカプセルホテルと比べると段違いの広さで、返って落ち着かなかった。(つづく)
(2007.3.25記)
※画像上/埼玉県越谷市 旧日光街道の商店。
※画像中/佐野ラーメン550円。コテコテ系に慣れた身にはさっぱりしすぎて物足らない!?



2007年探検レポートへ

Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


琺瑯看板探検隊が行く
SINCE 2005.3.17