琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート125 福島県へ、サクラ吹雪の関東紀行 前編

2007.4.12-13
東京都板橋区~茨城県常陸太田市~日立市~福島県矢祭町~塙町~鮫川村~古殿町~石川町~矢吹町~白河市


探検レポート125

直線と鋭角で描かれた都庁の壁に、一瞬のきらめきを残して、夕陽が落ちていく。
今年二度目となる関東ホーローの旅が始まったのだ。
今回は、福島県まで足を伸ばすことに決めた。と言っても、南部をかすめるだけだが、これまで一度も探検を行っていない県だけに、期待は大きい。
看板探しを始めた頃は、全国規模で探検をすることなど思ってもみなかったが、2年が経過して、すでに残すところ9県となった。
その中のひとつ、東京都については、今回の探検で都心のど真ん中にある看板をゲットした。池袋からわずかな距離にある板橋区の商店街をぶらぶらと歩き、シャッターを押した。
まさか都内で看板探しをするとは思わなかったが、あるところにはある。洒落たマンションに囲まれた一角にあった看板商店は、実に不思議な空間だった。
昭和の名残りが静かに余生を送っていることに、驚かずにはいられなかった。

探検レポート125

▼4月13日
土浦駅を遠くに望むビジネスホテルで目が覚めた。自分が選んだだけに文句は言えないが、ラブホテルを改造したらしい部屋が、なんと言っても凄かった。
廊下を歩くとぎしぎしと鳴り、部屋中にすえたカビ臭さが漂う。シミができた壁紙、配水管からはひっきりなしに水が流れる音。ベッドに置かれたアダルトビデオの棚。「どれでも一本500円」とある。
野宿よりはましなので、ホーロー探検では安い宿を探して泊まっているが、こうした宿に当ると、思わず「やった~」だ(笑)。
悪趣味と言われるかもしれないが、“ひどい宿ベスト10”を更新するのが楽しみなのだ。こんなことで喜んでいる、自虐的な自分が呪わしい(笑)。
土浦駅から水戸駅まで移動し、レンタカーを借りた。いよいよ福島県に向けてスタートするのだ。最初に目指すは常陸太田市。昨年の夏にも訪れているが、今回はできるだけ国道を避けて走ることにした。
常陸太田市内から県道を旧水府村に向かう。平成の大合併でこのあたりも常陸太田市になってしまった。水府村も合併を繰り返してきたようだが、「天下野診療所」と書かれた看板にある天下野村は、50年も前に水府村に併合されたことにより、今では集落に地名をとどめるだけだ。
山が迫った地形に、のどかな田園が広がる景色を走り、旧水府村から国道349号線に出て、再び常陸太田市を目指す。国道から脇道に入ると、思ったとおり、そっと息づくお宝たちの姿があった。
「みやこ染」や「中将湯」が既に廃業した商店に、うぶな娘のごとく、控えめにひっそりと隠れていた。
再び国道349号線を北上し、福島県に入った。塙町から鮫川村、古殿町と回る。塙町では酒屋の前に、酒と味噌醤油の看板が貼られた倉庫を見つけたが、クルマを止めてカメラをかまえた瞬間、ちょうど店から出てきた店主のいぶかしげな視線に捉えられてしまった。
「……」
「珍しい看板なんで、写真を撮りたくて…」 店主が口を出す前に、すかさずいつものセリフを言う。
「あっ、そ~」。私と同年輩の店主は、あっけなくOKしてくれた。

探検レポート125

石川町から今日のゴールである白河市に向かう。阿武隈川の支流にある小さな堤防を走ると、そこにはサクラ吹雪が待っていた。のんびりと犬の散歩をするお年寄りや、そろばん塾の帰りだろうか、楽しげな子供たちの声が僕の前を過ぎる。
改めて、「俺はこんなところで、何してるんだろう」と自問自答してしまう。ホーローの旅に出ると、これまで何度も自分に問いかけてきたことだ。
ホーロー看板を探すという目的のためだけに、自宅から何百キロも離れたところにいる自分が分からなくなる。
ひょっとしたら、自分の人生にとっての貴重な時間を浪費しているのではないのか、他にやるべきことがあるのではないのか…クルマを止めてシートにもたれ、しばらくの間、風に乗ってはらはらと舞い落ちる、花びらを見つめていた。
陽が傾き始めた頃、白河市に着いた。小さな町だが、古い町並みも残り、ホーロー探検には大票田たる風格を感じる。一方通行がやたらと多い駅前を中心に探検を開始。
しかし、目指すお宝はさっぱりで、倒壊しそうな家屋に貼られた「富士ヨット学生服」一枚のみ。
このまま不完全燃焼に終わってしまうのではないかと、頭をよぎったとき、ようやく見つけた看板が「戦没遺族の家」だった。
一日目の最後を飾るには、あまりにもシリアスな展開だった。(つづく)
(2007.5.12記)
※画像上/福島県白河市。遅咲きのサクラが今が盛りと咲いていた。
※画像中/どこか懐かしい雰囲気を感じる板橋区の商店街を歩く。
※画像下/日没が過ぎ薄暗くなった町で見つけた看板屋敷。福島県白河市



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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