ホーローの旅
レポート132 東北ホーローの旅5 秋田→長野直行便
2007.5.6
秋田県仙北市~大仙市~横手市~長野県飯山市
親父の実家がある秋田県角館(現・仙北市)を後にする。
わずか一日の滞在だったが、爺さん、婆さんの墓参りもできたし、何よりも従兄弟たちと心行くまで酒を酌み交わせたのが良かった。
そして何といっても桜吹雪の桧木内川が素晴らしく、風に乗った微かな甘い香りに包まれて、のんびりと桜並木を歩いたことが最高のぜいたくだった。
ちょっとばかしこじつけだが、春先から桜前線の北上と共にホーロー探検をしてきたが、日本でも有数の桜の名所、角館の桜が最後のトリを飾ってくれた。
そんな角館であるが、古き町に古き看板があれば尚良いが、東北地方でも指折りの観光地になってしまった今では、残念だがお宝の姿を見ることはできない。戦前の街角の風景を撮った資料を見ると、商店街の酒屋には「ユニオンビール」や「味の素」の看板が見えるし、薬局には「仁丹」の大礼服姿の軍人看板が下がっていた。
観光客でごった返す武家屋敷通りや、古い商店が残る本町筋を歩いても、そんな面影はどこにもない。「ノーシン」の木製看板が掲げられた薬局あたりで、我慢するしかないようだ。
さて、東北ホーローの旅も最終日である。秋田から岐阜の自宅までの約1000キロを走るドライブが残っている。天気もあいにくの雨とあって先が思いやられるが、秋田県内の探検は時間が許すかぎりやってみたい。
地図を検討しながら、秋田自動車道の横手ICまでの区間を探検に当てることにし、出発した。
大曲までは国道105号線、更に横手までを国道13号線に繋ぐが、そこは探検隊の本領発揮とあって、旧道と脇道を拾いながら走っていく。
横手市内に入ったところで、国道沿いにホーロー看板が大量に貼られた物件を発見。選挙のポスターを貼るような板塀に、ジクソーパズルのピースのようにびっしりと貼られている。その数およそ300枚。
更に驚いたのは、脇道のすぐ裏にある家屋の壁にもざっと300枚。貼りきれずに積み上げてあるものもある。どうやら骨董屋のようだが、野ざらしにされたお宝たちは、文字どおり「持ってけ、ドロボー!」状態だった。
横手市内はじっくりと探したかったが、緩慢に降り続ける雨にヤル気をそがれた。それでもレアモノのミシンとくすりの看板がゲットでき、“お宝の匂う町”という印象を持った。次回訪れるチャンスがあれば、市街地の奥深くまで潜入して探検をしてみたいと思う。
さて、クルマは東北道北上ICから一路、岐阜へひた走る。 雨は激しく降り続いたが、長野を過ぎたあたりで小雨になってきたこともあり、以前から気になっていた飯山市内の宿題を撮りに行くことに決定。
これまで何度か訪ねている飯山市だが、1年ほど前に、ある情報がきっかけで、レアモノのせっけんや調味料が貼られた看板商店が存在することを掴んでいた。すでに月日も経過しており、(まだ残っているだろうか…)と半信半疑だったが、目的の商店はすんなり見つけることができた。
煙のようにまとわりつく雨の中、緩やかな坂道の途中に、まるで辺りの空気に同化してしまったかのようにぽつんとたたずんでいた。 入口には“廃業”を匂わすお知らせの紙が貼られ、更にベニヤ板が無造作にガラスドアに打ち付けられ、テントシートがかけられている。
お宝は3枚。中でも「ハウスわさび」と「オンセン石鹸マルセル」は初見だし、保存状態もよくポイントが高い。よくぞ残っていてくれたと感謝しながらカメラに収めた。
期待していた天気は大きく予報がはずれ、雨→晴→晴→雨→雨と3日間も悪天候に阻まれたホーロー探検だった。
しかし、これまで未回訪のエリアである、宮城県、岩手県の沿岸部、山間部での看板探しという、当初の目的はある程度クリアできたことには満足している。
走行距離も2600キロを超え、1000CCのトヨタヴィッツはフル回転で走ってくれたし、食い物も旨かった。
ホーローの旅から帰って2ヶ月も経ってからこのレポートを書いているが、旅の余韻はまだ残っている。付箋がびっしり貼られた東北の地図を眺めるうちに、今度は更に北を目指したくなった。(おわり)
(2007.7.21記)
※画像上/秋田県角館。桧内川のサクラ並木を歩く。