琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート134 ごちゃまぜミニ探検8

2006.8.27-2007.8.13
岐阜県下呂市、揖斐川町、石川県小松市、滋賀県大津市、愛知県春日井市、滋賀県彦根市、愛知県名古屋市


探検レポート134

看板探しも3年目に入ると、新たに見つけることよりも、失くなった状況を確認するほうが多くなった。
出張で通い続けている東海道本線や北陸本線沿いの車窓から見える看板もめっきり減ってきた。看板が貼られた家屋の建て直しやリフォームもあるだろうし、相変わらず暗躍しているホーロー狩りの影響もある。
そんな中、北陸本線小松駅の南で見つけたのが、「ナショナル電球」と「立川ペニシリン」が貼られた民家だ。 これまで何度も通っているのに、疾走する特急電車の車窓からは、鬱蒼と茂る庭木が邪魔をして見つけることができなかった。
しかし、冬になって枝葉が落ちた庭木の隙間から、真っ赤な看板がちらりと見えたときには、久しぶりに胸の高鳴りを覚えた。
冷たい雨が降る11月、小松駅から線路沿いに歩く。海から引き込まれた小さな運河は、鉛色をした空と水面の境目が分からないほど暗く淀んでいた。
目的の看板屋敷は、運河とJRの線路が交差する傍らにあった。 線路の間際まで近づいてファインダーを覗く。これから春がきて、夏になると、青葉が繁って看板も見えなくなってしまうだろう。 そんなことを考えると、ちょっとばかし嬉しくなってくる。
雨は相変わらず落ちてくるが、濡れるのもいとわず、シャッターを切った。

探検レポート134

5月に訪ねた滋賀県の大津は、琵琶湖に反射する溢れんばかりの陽光が街全体を包んでいるようだった。 駅前の商店街から路面電車の線路を跨いで路地に入ると、歴史を感じる落ちついた雰囲気の町家が並ぶ。
小さな酒屋の板壁にホーロー看板がずらり。昭和30年代から時が止まってしまったように、鮮やかな光沢を魅せてお宝たちが貼られていた。
名古屋市緑区の大高には、大高川の堤に沿って江戸末期~明治初年に創業された三つの酒蔵が残る。レンガ造りの煙突と、黒板壁の調和がすばらしい酒蔵のある一角を歩いてみると、そこには、猛暑の名古屋にも関わらず、夏の暑さを一瞬でも忘れるような涼しげな空気が漂っていた。
酒蔵からしばらく歩くと、肥料看板を整然と並べた商店の倉庫が見えた。 一歩外に出れば、喧騒が渦巻く都心だというのに、この界隈は、まるでエアポケットのように時が止まっていた。
広告文化の象徴として、かつては隆盛を誇ったホーロー看板も、時代の流れには逆らえない状況になった。絶滅へのスピードに加速がついた今となっては、それを止めることもできなければ、ネジを巻き戻すこともできない。
最期のときを待つ、一瞬のきらめきを放つお宝たちの姿をこの目に焼きつけ、見届けることこそが、残された者の仕事と思いたい。
(2007.8.19記)
※画像上/名古屋市緑区大高の酒蔵通りを歩く。
※画像下/滋賀県大津市の近江鉄道。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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