ホーローの旅
レポート139 秋を探して 三河山間部を行く
2007.9.22
愛知県豊田市~岡崎市~新城市
9月も終わるというのに、連日の夏日が続いている。
それにしても今年は暑かった。私が住む岐阜県T市は、国内観測史上最高の40.9度を記録した。 そんな猛暑にやられたのか、四国・中国のホーローの旅を終えてすぐに、体調を崩した。
微熱が10日以上もとれず、一週間で体重が4キロも落ちた。 頬がこけ、スーツのズボンがぶかぶかになった私を見た同僚からは、「がん?もう長くないじゃないの」なんて言われる始末。
これ以上ほっとけなくて、病院に行ったら、甲状腺の炎症と分かった。 すぐにステロイド剤投与の治療が始まり、医者からは、きつい運動はダメ、好きなお酒もダメという厳しいお達し。
予定していた鹿児島の遠征も含めて、泣く泣くホーロー探検を諦める日々が続いた。 発症から6週間後、甲状腺ホルモン分泌の数値が安定し、ようやく動けるようになった。
季節はもう秋だ。ホーローの虫がうずく。 体調も万全までとはいかないが、秋の気配と、看板を探してみたくなって、小さな旅に出ることにした。
東海環状自動車道を豊田松平インターで下り、岡崎市保九町の酒醸造元を目指す。時折出てくる小さな集落で看板を探しながら、山間の国道をどんどん登る。
清酒「孝の司」を造る柴田酒造場は、山の中腹の静かな空間にあった。時代を感じる黒板壁の酒蔵が素晴らしい。試飲と販売所を兼ねた店舗の入口には、新酒ができたことを知らせる杉玉が下がり、その横に「優等清酒コウノツカサ」と書かれたホーロー看板がつつましく下げられていた。
愛知県内の酒看板は大方ゲットしたと思っていたが、まだまだ漏れはあるのだ。実はこの看板は、酒蔵探訪サイトで偶然見つけたものだ。寂しいが、こうした情報を駆使しなければ、2007年の今日ではお宝を見つけることができなくなった。
それにしても、静かだ。山から吹き下りてくるのだろうか、肌に触れる風が涼やかに感じる。
そろそろ秋の気配が漂っていてもいいはずだが、山の樹木は青々と茂り、お彼岸だというのに、刈入れを待つ田んぼの畦には、彼岸花の姿すらない。
「まだ、夏だよなぁ~」…独り言をつぶやきながらハンドルを握ると、ピンクや紫の可憐な花が目に飛び込んできた。 「おおっ、秋だ、秋だよ~」…またも、独り言(笑)。
暑い、暑いとぼやいても、そんなに気にしなくても、癒しの秋は確実にやってきている。いくら異常気象といっても、秋を通り越して、夏からいきなり冬になることはないのだ。
今年最初に見つけた秋に小さく感動しながら、風に揺れるコスモスを撮った。 帰路は新城市を回って、東名岡崎インターより高速に乗った。
自然に朽ちる時を待つのか、廃業した商店には目に鮮やかなアデカ石鹸の看板が貼られていた。昭和の歴史を匂わす姿が、野武士のように孤高にたたずんでいた。
(2007.10.20記)
※画像上/岡崎市で見つけた秋の気配。