琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート151 早春の越中富山ホーロー探検

2008.3.8
石川県金沢市~能美市~富山県上市町~立山町~富山市~射水市~砺波市~高岡市


探検レポート151

毎週のように北陸に出かけていると、季節の変化に疎くなる。
路傍に積み上げられた雪もいつのまにか消え、肌を刺す冷たい風もうららかになり、確実に春はやってきているというのに、私は相変わらず重いコートに身を包んでいる。
いつものように、金沢駅でクエストⅢさんと合流。彼との探険もこれが三度目である。私の都合に合わせて案内してくれる優しさに、心の中で手を合わせながら、今日の探険の行方を占った。
金沢市内のお宝を何枚かカメラに収め、鶴来町(現・能美市)を目指す。北陸在住の投稿者S-31さんから教えていただいた肥料看板が狙いだが、なかなか見つからない。
目的の物件は、北陸鉄道石川線の線路に沿って何度も走り回るうちにようやく見つけた。製材所に積み上げられたヒノキの香りがツンと鼻をつく広い敷地の一角に、看板を貼った倉庫があった。
真っ青な空にホーローの輝きが映えていた。黄色の「電化セメント」やブルーの「小野田セメント」、赤い「多木肥料」が、羽化したばかりの春の女神・ギフ蝶のように、早春の淡い景色に輝いている。
雪が残った背景の山に包み込まれて、看板が貼られた倉庫が孤高に建つ姿は、感動的なロケーションだった。
何もなければ寂寥感しかない風景が、看板のきらめきで、そこだけがゴージャスに見えるから不思議である。

探検レポート151

さて、クエストⅢ&つちのこを乗せた探険隊のクルマは、富山県を目指した。上市町、射水市、富山市、砺波市と回りながら、未撮影のお宝を次々にゲットしていく。
富山地方鉄道の駅舎にあった「金紋皇国晴」の清酒看板は、駅名表示と一体になっていてなかなか素晴らしい。その上、駅舎も凄い。
木造の寺田駅や越中三郷駅は、駅舎に掲げられた看板が右から左に読む「驛田寺」になっていて、レトロ感バツグンなのだ。
待合室から楊枝をくわえたフーテンの寅さんが、「よぉっ!」と言いながら、片手を上げてそのまま出てきそうな雰囲気が漂っていた。
高岡市に入り、銭湯に貼られた中将湯の看板や清酒の蔵元にあったお宝を撮った。ツムラの中将姫は、看板が製作された年代によって微妙に絵のタッチが違うが、高岡の看板は、津村順天堂のロゴが「TSUMURA」と英字になっており、中将姫も可愛い絵柄である。
戦後から昭和37年まで使われた商標のようだ(参考・伝統薬物語)。
高岡市についてはこれまでも何度も訪れているが、そのたびに新しい発見があるからうれしい。古い町並みが渾然一体となって残る景観も素晴らしく、その静かな雰囲気が、僕にして京都を連想させるのだ。
琺瑯探険隊にとっても魅力的なエリアだが、そこに住んでいるわけでもないので、細道や路地のひとつひとつまでしらみつぶしに探し回るというわけにもいかない。
看板探しばかりではないが、できることなら転勤を希望してでも住んでみたい町の候補だ。
夕暮れが近づき、高岡駅発18時台の「特急しらさぎ」に乗り帰宅する私のために、クエストⅢさんが時間の許す限り案内してくれた。
高岡市内にあった「清酒ワカツル」の看板が貼られた酒屋は、探険の最後を飾るにふさわしいパフォーマンスだった。
「ずっと、昔からあるんだょぉ、どこから来なさった?」 酒屋の店番のお婆さんが、撮影を頼んだ私たちに話しかけてくれた。

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「ワカツル」の看板を指でなぞると、冷んやりとした感触の中に、一瞬の吐息のような、おぼろげな記憶がよみがえった。
幼い頃、決まって夕刻になると、酒好きだった祖父に手を引かれ、近所の酒屋によく出かけた覚えがある。毎日の立ち飲みが楽しみだったのだろうか。
黙ってコップ酒を流し込む祖父の横顔が忘れられない。今となっては聞くこともできないが、その店の壁にあった、ずらりと並んだ酒看板の姿が、記憶の隅っこにおぼろげに残っている。
汗だくになって、原っぱでキリギリスやトンボを追ったことも幼い頃の記憶なら、ホーロー看板が貼られたひんやりとした空気が漂う店内で、木製の丸イスにちょこんと座って、トコロテンやスルメをかじっていたこともセピア色の思い出だ。
あと10年もすれば、私も祖父の年になるだろう。まだ見ぬ孫たちに、そんな思い出を残してやれるだろうか。 私のホーローの旅は、まだまだ続く。
(2008.4.6記)
※画像上/富山地方鉄道寺田駅。右から読む駅舎の看板がレトロである。駅舎は小さいが、本線と立山線が分岐する要衝となっている。昭和6年(1931年)築。
※画像下/高岡市の清都酒造場。明治39年創業。清酒勝駒が銘柄。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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