ホーローの旅
レポート１５３ ぐるり岡山、春真っ盛りの旅 後編
2008.3.23
岡山県真庭市～高梁市～井原市～笠岡市～寄島町～倉敷市～岡山市
フロントガラスに付いた霜を指でなぞる。吐く息が白い。
天気予報は午後からの悪化を告げていたが、空模様は悪くない。今日の探険は、降り出すまでが勝負のようだ。
まずは、刑部駅からＪＲ姫新線富原駅に出て、高梁市の旧・有漢町を目指した。昨日からの探険で、幹線道路沿いでほとんどお宝の姿をみつけることができなかった教訓を生かし、遠回りでも山間の集落を狙って、有漢町に向かった。
予想は見事に当たったようで、「シグナルミシン」と「オロナミンＣ」のツーショットがあるよろず屋や、農家の倉庫の雁木に貼られた「ズバリ」の看板を見つけることができた。
平成の町村合併で有漢町や備中町も高梁市に併合されてしまったが、岡山県内にあっては、どちらも古い町並みが残る落ち着いた雰囲気がある町だ。
ホーロー看板はほとんど見かけなかったが、杉玉が下がった巨大な酒蔵や、昭和の懐かしさを残す商店が並んだ一角もあり、クルマを下りて歩いてみると、そこだけに“違う匂い”が凝縮しているようで、妙に懐しい気持ちに浸ることができた。
３年前にも訪れた高梁市の中心部を簡単に流して、旧・川上町に入ると、待っていましたとばかりに雨が降り出した。
雨よけの帽子を買うためにコンビニに寄ったが、おばさんが被るようなピンクのフリフリリボンがついた麦わら帽子しかなかった。 （まぁ、これでもいいか…）と手に取ると、レジにいる可愛い店員さんが、いかにもヘンなオヤジを見るような視線を投げてきたので、あきらめる。
しかし、雨と風はいよいよ激しくなってきているので、このままでは撮影のたびに濡れネズミになってしまう。結局、タオルをターバンのように巻いて、ホーロー探険を続行することにした（これもヘンだが・笑）。
旧・川上町から旧・芳井町下鴨に出る県道２９４号線は、林道まがいの緊張する道だ。道幅がどんどん狭くなり、崖から落ちたこぶし大の石がいくつも転がっている。
雨は激しくなっているし、土砂崩れなんてあったら笑いごとでは済まされない。対向車はまったくないが、もしぶつかったら大変だろうと思うし、それどころかこの道幅では後戻りできない！
しかし、こうした道を走っていても、突然小さな集落が現れるから驚いてしまう。どうやって建てたのだろうと思うぐらい急な斜面に家が建っている。
まして、そんなところに鯉のぼりが泳いでいると、ハンドルを握る手は緊張で汗をかいているというのに、心がジワリと穏やかになってくるのだ。
ようやく国道３１３号線に出て井原市に入ると、町を南北に貫く小田川に沿って古い町並みが残る商店街があった。
昭和の雰囲気がぷんぷんする町並みだが、期待した割りにお宝は少なく、他の町と同様、看板よりも町並みの写真を撮ってお茶を濁す。
更に、井原市の中心部から国道３１３号に沿った旧道を広島県境まで走るが、「キッコーマン」を貼った酒屋を見つけたぐらいで、これといった収穫もなく、笠岡市に向かった。
ＪＲ山陽本線笠岡駅の東で看板屋敷を撮影した。いくつかのホーロー看板サイトで取り上げられている有名な屋敷だが、一見して、気持ちが悪いと思った。
“負のオーラ”とでも言おうか、鉄道の赤錆がついた倒壊寸前の廃屋は、まるで幽霊でも出そうな不気味さ。夜はちょっと近づきたくない雰囲気。
そこに貼られた３枚の看板も、早く剥がしてくれ！とでも言っているようだ。このまま朽ち果てるのを待っているのだろうか。
笠岡市からは国道２号線の旧道を東進し、寄島町経由で倉敷市玉島町に出た。倉敷市の美観地区はやはりというか、日曜日ということもあって観光客でごった返しており、早々に引き上げることにした。
倉敷市内はじっくりと探したいところだったが、この雨ではどうしようもない。狙いを山陽本線沿いの看板屋敷や、ＪＲ瀬戸大橋線沿いの看板に絞るが、看板を見つけたらクルマから下りて走って戻るとことの繰り返しで、靴の中まで濡らしながらの撮影となった。
暗くなるまで目一杯回るつもりだったが、更に追い討ちをかけるような雷鳴に息消沈。雨と雷のダブルパンチではモチベーションは下がる一方だった。
「早く、ホテルに入って熱い風呂と冷たいビール…」まるで呪文でも唱えるように、ひとりごとを繰り返していると、最後にはそればかりが頭をよぎるようになってしまった（笑）。
まだ明るい時間だったが、彦崎駅に出てから北上し、ひたすら渋滞が続く国道を岡山市内に入って二日間の探険を終えた。
（2008.4.27記）
※画像上／旧・有漢町（高梁市）の町並み。落ち着いたたたずまいがいい。日曜日の早朝だけあって、誰も見かけなかった。
※画像中／旧・芳井町（井原市）の町並み。そぼふる雨に閉じ込められたようで静かな町だった。
※画像下／笠岡駅近くにあった看板屋敷。現在は取り壊され、看板はすべて消失。
