琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート156 北へ、2800キロ野宿旅1 新潟~山形編

2008.5.1
新潟県新発田市~村上市~山形県鶴岡市~庄内町~酒田市


探検レポート156

毎年恒例の東北探険も、今年はひとりで旅することになった。
昨年の遠征にはナビを務めてくれた妻も、長女の部活の送り迎えで行けないと言うし、探検隊副隊長のあんもんとはここ1年半ほど会っていない。
ホーロー看板を求めて、ひとりで青森県まで出かけるというのも我ながら呆れてしまうが、うずいてしょうがない探険の虫と、放浪癖からくる好奇心はどうにも抑えることができないのだ。
GW直前まで出張続きの仕事が忙しく、持病の耳鳴りも悪化して体調は良くなかったが、ひとり気ままな旅に出れば、心のリフレッシュもできるんじゃないかという、ちょっぴり期待感もあった。
▼5月1日
新潟県の黒崎SAで目覚めた。天気は上々だ。昨年は雨続きの探険となったが、これから始まる6日間の探険が、ずっと好天になって欲しいと願う。
今回は、探検隊らしく野宿にこだわってみたい。クルマにはキャンプ用具一式を積んだ。気温や天候の変化を考えて、テントも冬山用の2人用と夏用の1人用ツーリングタイプを用意した。
昨年購入したトヨタ・フィールダーは後部シートを倒せばフルフラットになるので、私の身長でも斜めに寝ればぎりぎり収まる。
黒崎SAでは、窓に内側から日除け用銀シートを張り、エアマットを敷くと、思った以上に快適な車中泊ができた。

探検レポート156

目指すは青森県だが、どこまで行けるのか皆目見当がつかない。漠然と弘前あたりまで行ってみようと考えているだけで、折り返し地点も決めていない。
疲れて体調を崩して、途中で挫折するかもしれない。何しろ岐阜県の自宅から青森までは直線距離でも約1000キロあるのだ。
(先は、遠いぞ~)と、ぼんやり思いながら、日本海東北自動車道・聖籠新発田インターを下りた。
まずは海岸沿いに新潟県村上市を目指す。 村上までは県道3号線~国道113号線を辿るが、旧・紫雲寺町の集落で水原弘&由美かおるのアースツーショットを発見。
朝一番、かつ、このところずっとご無沙汰のツーショットなので幸先が良いスタートが切れた。
村上市に近づく旧・中条町、岩船町あたりは国道から集落に入ると、いかにも北国のひなびた寒村の景色が広がった。鮭が遡上する川が近くにあるのだろうか、軒下に大きな干物が何本もぶら下がっている光景を見た。
瀬波温泉から村上市の中心を抜け、国道7号線に入った。更に旧・朝日村に道草をする。これまでの経験から、海岸沿いにお宝の姿を見つけることは難しいことを学習してきたので、ねらい目は山村の小さな集落である。
思ったとおり、懐かしさが漂う小さな辻にあるよろず屋や、バスの終着駅の建物にお宝の姿があった。
田植えが終わったばかりの、田んぼの緑が目に優しい。畑のネギ坊主には、都会では観ることができないスジグロチョウが舞っていた。
旧・朝日村から国道7号線の出羽街道に沿って走るが、もちろん集落が出てくるたびに道草、寄り道だ。
ニッポンビールやタカラビールが貼られた酒屋は、見落としてしまうような小さな集落にあったが、写真を撮って表に回ると、なんと葬式の準備の真っ最中だった。
何人もの喪服を着た人が、黒白の幕を張ったり、供花を持って忙しく働いている。
「ひぇ~、ちょっとまずいところにぶつかってしまったなぁ」…ひとり言をつぶやきながら、早々にクルマに戻った。
山形県に入ると、一段と景色が素晴らしくなった。この日の日本海は穏やかな海だった。国道7号線には海を眺めるポイントがいくつもあって、コンビニで仕入れたおにぎりを頬張りながら、奇岩に打ちつける波を見ていた。
今は編入されて鶴岡市になったが、温泉で有名な温海町には、ちょっとばかし思い入れがある。学生時代に付き合ってた女性がこの町の出身で、疎遠になってしまった後も未練がましい私は、羽越本線を走る急行「きたぐに」に乗ってこの町に向かった。
でも、どうしても駅に下りる勇気がなくて、動き出した車窓から、遠ざかるプラットホームを見つめていた…今となっては、苦い思い出である。
さて、私の看板探しの旅はまだ始まったばかりだ。自宅からすでに500キロを走ってきているが、初日の成果としては満足できるものはない。
ほとんどお宝の姿を見ない海岸沿いの集落に見切りをつけて、温海町からは内陸部を通る国道345号線を経由して鶴岡市に入った。 途中、湯田川温泉の共同浴場で汗を流すが、貸切状態の風呂は何と200円、とても安く、そしていい湯だった。
鶴岡市は、大好きな藤沢周平の作品の舞台になっている土地だけにかなり期待をしたが、市中心部は古い町並みが残っているにも関わらず収穫のほうはさっぱりだった。
看板のほうはともかく、庄内町から旧・松山町、酒田市に向かう郊外は、雪を抱いた月山(1979㍍)が間近に見えて素晴らしかった。

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庄内町では、田植えが始まったばかりの小さな集落に、老夫婦二人で営む自転車屋を見つけた。軒下には「ペン号自轉車」の看板。これまで見たこともないシロモノだ。
店先の丸イスに腰掛けた店主は、のんびりと煙草をくゆらせていた。「撮影させて欲しい」とお願いすると、一瞬の間、胡散臭そうに僕を見た眼が、すぐに、はにかんだ笑みに変わった。
写真には、物干しに下がっている洗濯したサルマタや靴下が写ってしまったのが、お笑い種である。
まだ陽は高く、初日の成果としては不本意だったが、運転の疲れが思った以上に出てきたので、今日の探険はここまでとした。
腰も肩もパンパンに張りだしているし、耳鳴りも相変わらず「ジー」と鳴っている。 地図を見ながら今日のねぐらを探すと、酒田市の南東の旧・松山町に「眺海の森」という森林公園があり、そこにキャンプ場のマークを見つけた。
かなり行き当たりばったりの選択だが、とにかく、少しでも早くテントを張って横になりたい。酒田市のジャスコで晩メシの惣菜と缶ビールを調達して、早速向かった。
キャンプ場は山の頂上に続くカラマツの林を切り開いた一角にあり、明るい芝生が敷かれたかなり広い場所だった。先客が一組いる他にテントはなく、快適な夜が過ごせそうだった。
テントを張ってビールを飲むと、他にすることもなく、あうっとい間にまどろんだ。疲れがどっと出てきたうつろな頭に、下界の町から規則的に響いてくる「ドン、ドン、ドドン」という春祭りの太鼓の音が、やがて遠ざかり、小さくなった。(つづく)
(2008.6.1記)
※画像上/国道7号線より日本海を見る 山形県鶴岡市温海町。
※画像中/新潟県村上市。大きな鮭が吊られた商店。市内のいたるところでこんな風景を見た。
※画像下/山形県酒田市の眺海の森・外山キャンプ場。この時期は管理人もおらず、無料で泊まってしまった(汗)。写真は冬山用のエスパースというテント。山登りをしているとき、私と苦楽をともにした相棒。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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