琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート157 北へ、2800キロ野宿旅2 山形~秋田編

2008.5.2
山形県酒田市~遊佐町~秋田県にかほ市~由利本庄市~羽後町~大仙市~秋田市~潟上市~大潟村


探検レポート157

乳白色の朝もやが立ち込めるキャンプ場を6時に出発。朝食はコーヒーと菓子パンで簡単に済ませた。
酒田市から県道353号線を北上し遊佐町に入ると、鳥海山の巨大な山容が迫ってきた。10年ほど前の7月にこの山を登ったことがあるが、どこの登山口から登ったのか、ルートはどうだったか、今ではほとんど忘れてしまった。
考えてみれば、つい3年前まであれだけ執着していた山登りにも、すっかり縁遠くなった。
山の仲間たちとも少し疎遠になってしまったが、まさか、レトロな看板を求めて全国を旅する自分を誰が想像しただろうか。
遊佐町から秋田県に入る手前で看板屋敷を見つけた。農家の納屋だろうか、学生服やミシンなど、7枚の看板が貼られていた。早朝から幸先の良いスタートだったが、この時点では、これが空振り続きの1日の始まりだとは思ってもいなかった。
クルマは国道7号線に入り、日本海に沿って更に北上していく。象潟町、金浦町、仁賀保町とJR羽越本線に沿って小さな集落も見逃さずに丹念に探していくが、仁賀保町で欠落した「家の光」を見つけたぐらいで、お宝はまったくヒットしない。
看板屋敷を見つけてから約2時間、すでに50キロ以上走っている。このまま由利本庄市の市街地に入るか、いっそ内陸部を横断して羽後町に出ることを検討するが、潮風が鼻をくすぐる海沿いをいくら走っても、結果は同じような気がした。
海よりも、山だ!…単純だが、内陸部の由利高原鉄道沿いや羽後町の集落を探すことに決め、のどかな田園風景と、秋田特有のまんじゅうを並べたような山々を見ながらハンドルを握った。

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しかし、ホーローの女神に見放されてしまったのか、行けども行けども、探せども探せども、お宝の姿はまったくなく、期待の羽後町も完全にボーズだった。
すでに4時間、150キロ近くを糸が切れた凧のようにウロウロしている。
秋田県南部は自分としては、今回の旅で最大のポイントだと思っていたが、結果は惨憺(さんたん)である。 そ
れにしても、なぜ一枚も見つけることができないのか…偏った推測であるが、昨年の5月に、旧大曲市から横手市に向かう国道沿いで見た風景にピンとくるものがあった。
それは、選挙のポスターを貼るような立てかけられたベニヤ板に、地酒やクスリ、学生服、肥料などのホーロー看板が隙間もないほどずらりと貼られ、貼りきれなかった看板が建物の入口に、何百枚も野ざらしにされて積み上げられていた風景である。
最近、ロードサイドに増えてきた骨董屋のようだが、店は開店休業状態で、お宝たちは雨に濡れ、まるで看板の墓場のようだった。
そのときの光景を思い出すと、ひょっとしたら県南部のお宝たちは売買目的で、あの骨董屋に売られていったのではないかと想像してしまう。
残念だが、こうしたことは方々で起こっているようだ。以前、愛知県にあるホーロー看板を専門に扱う骨董屋で聞いた話では、各県に一人づつくらいホーロー看板の“集め人”という業者がいるらしく、商店や農家を回って看板を安く仕入れてくるらしい。それを一枚いくら、あるいはダンボール一杯いくらで取引するという。
私のように、ホーロー看板を写真に撮ってデジタル収集しているマニアにとっては、“集め人”はホーロー狩りと呼ばれる輩と同じように、「敵の一味」である。

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雨に濡れて錆びていく、野ざらしの看板たちを見ていると、可哀相でならない。
話は横道に逸れてしまったが、この日はヒットどころか、バットにかすりもしない空振り三振がずっと続いた。
それを裏づけるように圧巻だったのは、旧協和町と潟上市でチャレンジしたローラー作戦。
リストアップした町内の酒屋25軒を、ナビに入力しながらしらみつぶしに訪ねたが、地酒の看板は一枚も見つからなかった。
酒屋の店先にずらりと並ぶ看板を期待していただけに、酒どころ秋田のイメージが怪しくなった。
数えてみると、酒田市から秋田県内を400キロも走ったというのに、見つけたお宝は12枚だけだった。
この日の気温は30度近くに上がり、ペットボトルを片手に、しかもお宝が見つからないので、ずっと運転のしっぱなしだった。
前日に続いて更に肩こり、腰の痛み、そして耳鳴りもひどくなった。 こんな調子で青森まで行けるのか…と少し弱気にもなったが、八郎潟にある無料のオートキャンプ場に着き、隣接した施設にある温泉に入ると、少し元気になった。
夕闇に輝く葦の湖面に、跳ねる魚をのんびりと目で追いながら、缶ビールのプルトップを引くと、(もう少し、がんばってみようか)…なんて、思うのだった。(つづく)
(2008.6.8記)
※画像上/秋田県の県境で見た春霞みに浮かぶ鳥海山(2236㍍)。豊富な残雪に覆われていた。
※画像中/まるで映画のセットになりそうな木造校舎の小学校。秋田県象潟町。
※画像下/八郎潟のど真ん中にある「南の池キャンプ場」。無料のテントサイトにはテントが3張り、主にライダーが利用するそうだ。すぐ近くには「ポルダー潟の湯」という温泉施設があり、300円で入浴できた。☆☆☆☆☆



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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