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ホーローの旅

レポート158 北へ、2800キロ野宿旅3 秋田~青森編

2008.5.3
秋田県男鹿市~三種町~能代市~八峰町~青森県深浦町~鯵ヶ沢町~つがる市~中泊町~五所川原市


探検レポート158

「どこさから、来た?」
眠い目をこすりながらテントから顔を出すと、近づいてきた長靴にいきなり言われた。
よく見ると犬を連れたおじさんだった。真っ黒に日焼けした顔に、白い歯が笑っている
。タオルを首に巻き、ジャージに長靴というヘンな姿である。
どうやら散歩の途中らしく、岐阜県ナンバーのクルマの横で、テントを張っていた私に興味をもったらしい。
それにしてもまだ朝の5時だというのに、迷惑な話だ。
ぶっきらぼうに、岐阜から来たと答えると、飛騨高山に行ったことがあるとか、味噌カツが旨かったとか(味噌カツは名古屋だぎゃぁ…笑)…更に、私がこれから青森を目指すと言ったら、それからが大変だった。
延々と、おじさんの青森ガイドに付き合わされてしまった。
今日の予定は男鹿半島を回ってから再び八郎潟に戻り、日本海に沿って五所川原までの約400キロである。
キャンプ場から西進し、男鹿半島を海沿いに回る国道101号線に入ると、すぐに熊笹が風になびく原野となった。
荒涼とした景色の中、傾斜した土地にへばりつくような集落がポツリポツリと出てくるが、地酒の看板を見つけたくらいで、お宝の姿をほとんど見ることがなかった。

探検レポート158

男鹿市の中心部に着くと、醤油の醸造元に下がるホーロー看板を一枚見つけた。閑散とした市内中心部を回るも、他にめぼしいお宝はなく、期待をしていただけに残念だった。
再びスタート点のキャンプ場に戻り、八郎潟町に向かう。八郎潟の真ん中を突っ切る直線道路は、一面の菜の花とサクラ並木がどこまでも続く。
過去に地平線というものを見た記憶は北海道くらいしかないが、広大な八郎潟には遥か彼方まで地平線が続く。牧歌的な雰囲気が満点だが、変化がない風景だけに、退屈なドライブとなった。
八郎潟をぐるりと囲む用水路(東部承水路)を渡り、国道7号線に出ると、八郎潟町の中心だ。国道と並行して走る旧道を伝っていくが、お目当てのお宝は一枚も出てこない。
秋田県北部は大いに期待していたエリアであるが、このまだと昨日に続き不完全燃焼になりそうな予感がよぎる。
旧・山本町のある三種町から能代市に向かう小さな集落で、「雪の元」というクスリ看板を見つけた。食料品店の自販機の陰に2枚の看板が隠れていた。
しかし、井戸端会議の真っ最中なのか、自販機の前におばさん二人が立ち話をしており、しばらく待ってみるが、おしゃべりは加熱する一方だ。 (ええ~い、待てんわい!)としびれを切らして、おばさんの間に割り込んでシャッターを切った。
能代市からはJR五能線に沿った旅である。八峰町(旧・峰浜村、八森町)から青森県に入っても、お宝の姿はまったくない。ただ、真っ青な海と荒涼とした景色を見るだけで、時間がどんどん過ぎていく。
白神岳登山口がある陸奥黒崎駅でしばらくまどろんでみた。10年前の1998年8月に、山仲間と白神山地を流れる追良瀬川を4日間かけて溯行し、白神岳(1235㍍)の頂に立ち、黒崎駅に下りた。
しかし、秋田駅に向かう汽車は2時間前に出ており、次の汽車までは何と4時間半もの待ち時間があった。メシを炊いたり、ふらふらと港まで歩いたり、何もない駅舎でごろりとうたた寝をしたり、ゆっくりと流れていく悠久の時間だった。
今、ねっとりとした潮風が肌にまといつく駅舎で、ひとりまどろんでいる。10年前の楽しかった思い出が、運転に疲れた模糊とした脳裏をかすめていく。
一人旅がいくら好きとは言え、話し相手もいない旅はさすがに寂しい。静かな駅舎に聴こえるのは、耳鳴りの音だけだ。 (ううーん、センチメンタルになってしまった…)
気を取り直して、出発した。五所川原に向かう国道101号線は相変わらず紺碧の海を見ていく。

探検レポート158

不老不死温泉で汗を流し、更に北を目指す。お宝の姿はまったくなく、正直言ってホーロー探険など、どうでもよくなってきた。
深浦町を過ぎ鯵ヶ沢の町に入ると、港にずらりと係留されたイカ釣り船がゆらゆらと揺れていた。焼いたイカをパクつきながらつがる市から五所川原市へ。
一面のりんご畑の向こうに、岩木山(1624㍍)が間近に迫ってきた。 (来ちまったなぁ…ついに、青森に)自宅を出てから1600キロ、岩木山をこうして仰いでいる自分の存在が不思議だった。
つがる市から中泊町にかけての県道で、お茶や学生服の看板などをゲットしていくが、どちらかというと、看板を探すことよりも、角度を変えて少しづつ変化していく岩木山の山容が気になって仕方がなかった。
まだ夕暮れには早かったが、今夜の宿を五所川原市の芦野公園にあるオートキャンプ場にした。無料というのは魅力だが、さすがに連休とあって、家族連れのキャンパーで溢れていた。
子供たちが走り回り、カラオケの騒音や、にぎやかなバーベキュー…まぁ、ロケーションは悪いが我慢するしかないようだ。
テントを組立てから、買い物がてら、中泊町の中心部や十三湖の近くまで足を伸ばしてみた。
津軽鉄道の津軽中里駅には太宰治にちなんだ「走れメロス号」というディーゼル車が止まっていた。
そういえば、金木駅の近くには斜陽館という太宰の記念館があると聞いていたが、太宰嫌いな僕には興味もなく、今夜の酒のアテを求めて、ひたすらハンドルを握るのだった。(つづく)
(2008.6.21記)
※画像上/日本一のイカ漁の町、鯵ヶ沢港にはずらりとイカ焼の屋台が並ぶ。で炭焼きしたイカはイッパイ200円。七味をかけたマヨネーズをつけて食べる。口の中で甘く溶ける食感は絶品だ。
※画像中/不老不死温泉の露天風呂(深浦町黄金崎)。入浴料600円。露天風呂は女性用と混浴がある。この日は妙齢の女性が入っていて、目のやり場に困った(笑)。
※画像下/津軽鉄道津軽中里駅に停車していた「走れメロス号」
※宿泊/芦野公園オートキャンプ場(五所川原市)無料 ☆☆★★★ 水場、トイレ、ゴミ処理等の設備は充実している。無料だけにデイキャンプを楽しむ家族連れが多い。公園内ではイベントの真っ最中で、深夜まで大音量でFMラジオがスピーカーから流れていた。人家が近いのもマイナス。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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