琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート164 真夏の信州ホーロー記

2008.7.12-13
長野県伊那市~茅野市~富士見町~山梨県小淵沢町~長野県川上村~小海町~南相木村~北相木村~佐久穂町~佐久市~小諸市~東御市~上田市


探検レポート164

中央自動車道伊那インターを下りると、天竜川が作ったなだらかな段丘の向こうに、薄紫色の南アルプスの稜線が広がった。
幾度となく見てきた風景だが、ここ数日のうだるような暑さの中で見る涼やかな景色は、また格別だ。あらためて信州に来たと感じる瞬間である。
南北に長く碁盤の目のように仕切られた伊那の町を走ると、すぐにトタン板や肥料の看板が目に飛び込んできた。
何度か訪ねている町だが、今まで見過ごしてきたことが不思議なくらい目立つ場所にあった。
伊那駅から西に少し入ったところに、小規模だが旧宿場の町並みが残る一角がある。ホーロー探検をするようになってから、こうした古い町並みにも自然と目がいくようになったが、古い町並みにはホーロー看板の生息密度が必ずしも高いとはいえないということも、これまでの経験から掴んだ認識である。
確かに、町並み保存地区の指定を受けて、国や自治体から保護を受けるようになると、美観が損なわれるという理由から、看板のような広告物は真っ先に撤去されるケースが多いようだ。
伊那の町並みも例外ではなく、お宝の匂いを感じつつも、一枚も見つけることができなかった。
伊那の中心から国道361号線に乗り、桜の名所として全国的に有名な高遠を目指す。途中、地酒の醸造元で清酒の看板をゲット。予期しない、こうした出遭いはうれしい。
高遠については二度目の訪問となるが、前回の探検で、路地の隅々まで回ったと自負していたにも関わらず、大きな見落としがあった。

探検レポート164

数ヶ月前に、丸ポストを扱う某サイトで、地下足袋や履物の看板が貼られた雑貨屋と思われる商店の画像を見つけたことが始まりである。
それ以来ずっと気になっており、信州の探検を計画すると同時に、サイトの管理者に連絡を取り、場所を教えていただいた。
目的の商店の前に立つと、履物を中心としたレアな看板が何枚も貼られていた。以前は履物屋だったのだろうか。今ではそんな面影もなく、店構えも立派なよろず屋然とした金物屋のようだった。
店番をしていたおばさんに断り、撮影を済ますと、懸案だった宿題を終えて、ようやく肩の荷が下りたような気がした。
さて、今回の探検は、なんと民宿泊まりである。車中泊やテント泊を信条としてきた割には、このところの軟弱傾向は歯止めが利かなくなったようだ。
ゆっくりと風呂に浸かって、ビール飲んで、飯食って、ふかふかの布団に寝る…軟弱が染み付いた体には、この誘惑には勝てそうにない。
つい数年前まで、夏冬問わず、年間50泊を越える野宿をしてきたことが、今となっては幻のようである。
予約した小海駅近くの民宿に入るまでは、まだ陽も高く時間はたっぷりとある。高遠から茅野、富士見、清里、小淵沢、野辺山と経由して、川上村に入った。
ずっと以前に、両神山(1724㍍)に登ったとき訪ねた村だが、「川上犬」という純血種の日本犬のふるさとという以外は、あまり知られていない村だ。
しかし、埃っぽい国道を村の中心まで往復した甲斐があって、ミシンや編機、ビールの看板をゲットすることができた。

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▼7月13日
泊り客は私しかいないというのに、宿のご主人は、食べきれないほどの豪勢な食事でもてなしてくれた。
朝食にしても、普段は小さな茶碗一杯しか食べないのに、食事がおいしいとお代わりまでしてしまう。
その上、一人でぶらりとやってきた怪訝な中年オヤジに対して、「何しに来たの?」と聞かない気遣いもいいではないか。…久しぶりの民宿に興奮する、おろかな探検隊であった。
さて、二日目のコースだが、JR小海線に沿ってお宝を探そうという目論見と、リストアップしてきた地酒の醸造元を、佐久市から小諸市にかけてできるだけたくさん回ろうという欲張りな計画である。
収穫はまったくなかったが、以前から気になっていた南相木村、北相木村を回り、佐久穂町から佐久市にかけてのJR沿いは、投稿者のウシ君さんからの情報をフル活用し、次々にゲットしていった。
佐久市内は地酒の醸造元も多く、ナビをセットして回っていくが、5軒の蔵元すべてで撃沈された。
狙いの酒看板は一枚も残っていないとは、期待していただけに残念だった。
次に小諸市については、2軒の醸造元で酒看板をゲットしたが、ちょうどこの日、祭礼のために市内中心部が通行止めになっており、クルマを遠くに置いて、汗を拭きつつの徒歩探検となった。

探検レポート164

祭礼の太鼓や鐘の音を背中に聴きながら、小諸から東御市を経由して上田市に抜けた。以前の探検でも通ったルートだが、今回は看板探しを返上しても上田ではじっくりと時間をかけるつもりだった。
歴史好きな人にとっては、信州上田と聞けば、心の琴線に触れるものがあると思う。私にしても以前は上田には何の興味もなかったが、最近になって池波正太郎著『真田太平記』を読んでから、どうしても上田に行きたくなってきた。
ホーロー探検の合間を縫って訪ねた上田城と池波正太郎の記念館は、ずっと心にひっかかってただけにうれしかった。
留守番をしている妻に、復元された上田城の東虎口櫓門の写真を携帯メールで送ると、「よかったね~」と返事が返ってきた。
彼女も最近『真田太平記』を読み終えたばかりなので、にわかフリークになっているのだ。
ホーロー探検といえども、看板ばかりを探し回っているわけではない。生活観が溢れる日本の田舎の風景や、歴史の中に埋もれようとしている昭和の残像をこの目に焼き付けたくて、彷徨うことも旅の楽しみである。
そんな旅がいつまで続けられるのか分からないが、自分なりの感性を大切に彷徨ってみたいと思う。 そんなことをぼんやりと考えながら、岐路は別所温泉から松本市に抜けた。
涼しい信州といえども、梅雨明け間近の夏の陽射しは強烈で、ペットボトルの水を浴びるように飲みながらハンドルを握った。
いつしか、北アルプスに沈む夕陽が、一段と眩しくなった。
(2008.8.17記)
※画像上/八ヶ岳が見える長野県富士見町で。遠くから見ると、農作業をしている夫婦にしか見えなかった。
※画像中/小諸市本町通には古い町並みが軒を連ねる。歴史を感じさせる醤油味噌醸造元。 ※写真中/上田市中央の北国街道が通る旧柳町の町並み。柳が陽炎のように揺れていた。
※画像中/茅野市から小淵沢に抜けるあたりでは、八ヶ岳の稜線が間近に見えた。右の一番高い山が主峰赤岳(2,899㍍)
※宿泊/民宿大すみ屋(小海町松原湖畔)1泊2食6000円 ☆☆☆☆★ 食事はボリュームがあって旨い。部屋の掃除が行き届いていないのが残念。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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