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ホーローの旅

レポート176 和歌山へ、二度目の紀伊半島一周 前編

2008.10.11
奈良県下市町~五條市~和歌山県橋本市~かつらぎ町~紀の川市~和歌山市~大阪府岬町


探検レポート176

午前5時、夜の闇にすっぽりと包まれた街にクルマを走らせる。
二度目の紀伊半島一周ホーローの旅が始まった。目指すは和歌山県だ。
東名阪に乗り、御在所サービスエリアを過ぎたあたりで長かった夜が明けた。パンを食いながら運転を続け、降圧剤を水で流しこむ。
人間ドッグで血圧の高さを指摘され、ようやく思い腰を上げて病院で診て貰った。私の場合は日中から夜にかけては正常値だが、起床時に高いという、いわゆる早朝高血圧というものらしい。
母が心筋梗塞で亡くなったこともあり、近親者にそうした病気の人がいる場合は、脳卒中や心臓病になるリスクが高いとされる。
これまで、血圧のクスリなどまったく自分には縁がないと思っていたが、いよいよ悪魔に魂を売るときがきたようだ。
朝食後に一錠というクスリを飲み始めて、まだ一週間目なのだ。 クスリが効きはじめたのか、火照った身体を外の空気で涼ませながらハンドルを握る。

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奈良県下市町を過ぎ五條市内に入ると、肥料看板を並べた商店がいきなり目に飛び込んできた。これまで何度も五條を訪ねているが、まだまだ取りこぼしがあった。
この肥料店がある市野原南町あたりは、醤油醸造元や古い商家が並び、歴史を感じる一角である。
橋本市から九度山方面に南下すると、たわわに実った柿の収穫の真っ最中だった。無人販売所で一袋200円の富有柿をゲット、数えてみると10個も入っていた。
お土産を確保し、今度は山間の道をひたすら走る。時折出てくる集落には、まるで建物と一体になったようなお宝の姿があった。
和歌山市に蔵元がある「世界一統」の看板が貼られたよろず屋には、「母之屋最上醤油」と書かれた木製看板も貼られ、大昔から商売を営んできた歴史を感じさせてくれた。
こうした店は他にもあり、小さな集落の脇道にあった廃業(?)した酒屋には「五十五万石」の焼酎の木製看板が掲げられていた。
紀州五十五万石からネーミングされたことはすぐに分かったが、それにしても年季が入った看板である。
カメラを向けてシャッターを押していると、ガラガラと引き戸が開き、お婆さんが顔を出した。 (あんた、何しとんねん?)…声には出さないが、いかにもそんな風に言いだけな怪訝な表情を僕に向ける。

探検レポート176

「すみません、珍しい看板なんで、写真撮らせてもらいました」 すかさず応酬した私に、
「こんな看板じゃなくて、昔は醤油や酒の看板がたくさんあったよ」
「ダンボール箱にいっぱい入っとったけど、捨てちゃったわ」
話を聞くと、店を廃業したときに出たホーロー看板を処分したようだ。ちょっとばかし残念だったが、私には看板を集める趣味はない。
お礼を言ってクルマに戻ろうとする私に、お婆さんは引き戸から更に身を乗り出すように「あんた、どこから来たぁ?」と、なかなか私を放そうとしない(笑)。
真面目に受け答えしていたのがまずかったのか、いよいよ話が乗ってきて、そのお婆さん、機関銃のように喋り始めるではないか。
オマケに通りかかった近所のお婆さんまで話の輪に引っ張りこんだ。 …完全に捉まっちまった。これじゃ、まるで見世物である。
井戸端会議に引っ張り込まれた私を見て、ガソリンスタンドの店員のおじさんが、気の毒そうな顔をしてニヤニヤ笑っている。
15分後、僕を肴にした井戸端会議が60数年前の戦争の話まで遡ったのを契機に、お年寄りたちから逃げ出すように、クルマに乗り込んだ。
“おババ攻撃”からようやく解放されて、紀の川市から和歌山市に向かった。投稿者のakabeさんから教えていただいた情報をたよりにポイントを回る。
中でも「かとりキング香」と「ハエナックス」が貼られた屋敷が素晴らしかった。 和歌山県は日本で最初に除虫菊によるかとり線香の製造が始まった県であるが、それを物語るように、「金鳥」で有名な大日本除虫菊㈱を始め殺虫剤メーカーが多くある。

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「かとりキング香」や「ハエナックス」の看板が残っている場所は今ではほとんどないかと思われるが、ご当地ならではのお宝であるといえようか。
この日は和歌山市内で泊まる予定だが、時間的にまだ余裕があるので大阪府の岬町まで足を伸ばした。お宝の姿はほとんどなかったが、深日港から海岸線沿いに加太の町に出ると、港に沈む夕日がまぶしかった。
和歌山市に戻り、市内一の繁華街・新内(あろち)にある場末のビジネスホテルに荷物を置き、夕暮れの町へ。
まずは腹ごしらえということで、和歌山ラーメンの有名店「丸高中華そばオロチ本店」ののれんをくぐった。 一ヶ月前の北海道ラーメン勝負(4日間で7杯)の余韻がまだ残っているのか、どろりとした濃い目のとんこつしょうゆが、さっぱり系が好きになった身体に受け付けない。
血圧とコレステロールを気にすることもあって、スープをほとんど残してしまった。 店を出てから缶ビールでも買って帰ろうと思い、コンビニを探すが、行けども行けども店がない!
和歌山駅の近くでようやくローソンを見つけた。ホテルまでの15分を、足元もよく見えない暗い街灯が灯る中、ぶらぶらと歩いた。
ひとりで過ごす和歌山の夜は、一段と寂しくなりそうだった。
(2008.11.24記)
※画像上/和歌山県かつらぎ町。紀の川に沿ったJR和歌山線沿線の町にはまだまだこうした古い町並みが残っている。
※画像中/大阪府岬町の風景。刈り取りがされたばかりの田んぼに秋の花が風に揺れていた。
※画像中/和歌山市。見事に並んだレア物殺虫剤。キング香もハエナックスも和歌山県内でしか見ることができない。
※画像下/「丸高オロチ本店」の中華そば 並600円、早すし100円。和歌山ラーメンの人気店であるが、とんこつ醤油の濃厚スープについては好き嫌いに分かれそうだ。
※宿泊/「ビジネスホテルみやま」 和歌山市 ☆☆★★★ 素泊まり3800円。トイレ、バスは共同。4.5畳和室。この価格だったらまぁ、こんなものだろうか。寝るだけだったら申し分ない。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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