ホーローの旅
レポート189 房総の風に吹かれて 千葉県ホーロー探検
2009.4.4
千葉県佐倉市~成田市~神埼市~茨城県潮来市~千葉県銚子市~東圧町
千葉市内からいくらも走っていないのに、佐倉に向かう道筋には、春の息吹きを感じる田園風景が広がっていた。
昨夜は東京での仕事を終え、千葉駅近くのカプセルホテルに泊まった。二度目の宿泊だが、向かいのカプセルから響く大いびきにどうしても我慢できず、わがままを言ってカプセルを変更してもらった。
しかし、夜中に自分のいびきで目覚めたのは何ともお笑いである。
城下町らしく、小規模ながらも古い町並みが残る佐倉の町にレンタカーを入れる。ホーロー看板ばかりでなく、このところ古い牛乳箱も探しているので、ハンドルを握っていても視線はせわしなく動いている。
佐倉は最近読んだ司馬遼太郎著、「胡蝶の夢」の原作の舞台となった町だ。
幕末、江戸から二十五里も離れた小藩の私塾(佐倉順天堂)から、後の日本の医学界を担う多くの人材が輩出したことは、この地に立ってみて改めて驚く。
それほど、ほのぼのとした田舎らしさが残っている町である。
佐倉では狙いのホーロー看板や牛乳箱はほとんど見つからなかった。わずかに年季が入った金物屋で鎌の看板を見つけただけに留まった。
千葉県は広い…前回、房総半島の先端近くまで走ってみて実感したことだ。夜の新幹線で名古屋まで帰ることを考えると、先を急ぐしかない。
今回の探検では銚子や潮来はどうしても外せないので、“臭う”脇道や集落が出てきても、未練ありげに飛ばしていく(笑)。
成田山新勝寺の参道に入ると、さすがに週末とあってけっこうな賑わいだった。ここには「米屋の栗ようかん」のホーロー看板があることで知られているが、目的のそれは、当の米屋に行ってみても、参道に連なる売店の店先にも見つからなかった。
仕方がないので、米屋の「成田羊羹資料館」に入り、展示してある看板を撮影させてもらった。
成田市からは利根川に沿って神崎町、佐原市(どちらも現在は神崎市に編入)と東進していく。神崎町では偶然通りかかった醤油醸造元で、蔵に貼られていた看板を撮影することができた。ご主人も親切な人で、江戸時代後期にできたという蔵の中を気さくに案内してくれた。
酒蔵もそうだが、こうした蔵に入ると冷んやりとした空気の中に、独特な緊張感が流れていることに気づく。
何百年の重みというのだろうか、歴史の積み重ねが渾然一体となって、五感を刺激するのだろう。
そうした意味では佐原の町も同じだった。「清酒東薫」を造る東薫酒造の蔵の中は、余人を寄せ付けない歴史の重みが、緊張感を醸す空気となって漂っていた。
佐原の町は、日本地図の第一人者、伊能忠敬の出生地として有名であるが、井上ひさし著「四千万歩の男」を読まなければ興味もなかったし、佐原がどこにあるのかも知らなかった。
今回は時間がなくて、伊能忠敬の資料館に足を伸ばすことができなかったが、ずっと以前に、名古屋で伊能忠敬の地図の展覧会を観にいったことがあり、そのときの印象が強烈だったので、再度チャンスがあれば「伊能地図」をもう一度見てみたいと思っている。
さて、夕方までに返却するレンタカーは、潮来から銚子に向かう。
利根川べりの水郷潮来といえば、やっぱり橋幸夫の「潮来笠」。おそらく物心ついて最初に覚えた歌であるが、いまだに歌詞の意味がさっぱり分からないままでいる。
…とはいえ、潮来に来れば、やはりこの歌しかない(笑)。
♪潮来の伊太郎 ちょっと見なれば~
薄情そうな 渡り鳥 それでいいのさ あの移り気な~
風が吹くまま 西東 なのにヨー なぜに眼に浮く 潮来笠
(佐伯孝夫作詞 吉田正作曲 昭和35年)
…こんな古い歌をフルコーラスで口ずさむくらい、私はおっさんなのである。
水郷、潮来の景色はトンチキなおっさんを陽気にさせるほど、どこまでものどかだった。
さてさて、千葉探検の最後を飾るのは銚子である。今更だが、銚子は醤油の町だ。ヤマサとヒゲタという国内を代表する醤油メーカーがあり、中小のメーカーも入れるとかなりの数がこの小さな町にひしめいている。
愛知県半田が“酢の町”とすれば、千葉県銚子はやっぱり“醤油の町”。どこからともなく醤油の香りが漂う風情があった。
お堀のような空間を、ガタゴトとゆっくりと走る銚子電鉄も粋な風物詩だ。駅舎も古いし、電車もなかなかカワイイ。
お宝は少なかったが、町全体がセピア色に染まった懐かしさを感じる風景だった。
雑踏の千葉市内から成田山参道、城下町、水郷、セピア色の町と辿ってきたが、お宝との出逢いが少なくても、中年オヤジひとりの旅を充分に満足できる内容に仕上がった。
欲を言えば、千葉市に向かう高速道路の渋滞がなければ、二重丸の一日だった。
(2009.5.24記)
※画像上/佐原市の酒蔵、馬場本店㈱のれんが煙突。代表銘柄は「佐原ばやし」。2階部分に設置されている。
※画像中/フジハン醤油の蔵の中。江戸時代そのままの空気が漂っていた。 千葉県香取郡神崎町。
※画像下/古い建物が残る佐原市内の風景。