ホーローの旅
レポート190 サクラ咲く、奥三河探検
2009.4.5
愛知県豊田市~新城市
千葉県のホーロー探検から帰宅した翌日、愛知県奥三河地方へ足を伸ばした。
このところ楽しんで通っている酒蔵取材が目的だが、お宝が見つかれば更に良い。
とはいえ、これまでも何度か訪ねたことがあるエリアなので、お宝は期待できないが、日がな一日、春の香りを楽しむだけでも、心の洗濯ができそうだ。
旧旭町(現・豊田市)にある中垣酒造は、蔵を取り囲む満開の桜に埋もれるように建っていた。時折薄日が射す曇天の空に、薄紅色の桜の花びらが淡く反射している。
微かに流れる花の香りと、目に優しい風景…うーん、春、真っ盛りである。
明治33年(1900年)に出来たこの蔵は、何代にもわたって咲き誇る桜を見てきたのだろう。そんなことを考えると、いつもの酒蔵取材やホーロー探検にも、ほんの少しは詩情が生まれる、というものだ。
豊田市を抜けて足助町に入ると、にわかの渋滞に捉まった。この町の景勝地、香嵐渓の桜がちょうど見どころになっていることもあり、山間の小さな町にクルマの波が四方から押し寄せて来ているようだ。
渋滞を抜け、旧鳳来町に向かう。今は新城市に併合されたが、愛知県下でも一番の山奥である。
小さな集落がぽつりぽつりと現れたり、眼前に棚田の雄大な景色が突然広がったり、自然の中にしっかりと根付いた、人間の営みに感動する風景が展開する。
そんな景色の中に、時間が止まってしまったような素敵な看板商店(酒屋?)を見つけた。
すでに廃業してかなり経っているようだが、軒下に揺れている塩やたばこの看板以外にも、地酒やガムの看板が残っていた。
モノクロームの空間に閉じ込められてしまったような建物は、まるで、古いアルバムの一頁から変色した写真を切り取って見せられたようだ。
戸数6軒ほどの小さな集落だが、往時には子供たちの声がこだますることもあったのだろうか。
山や畑の作業を終えたオヤジ達が、傾いていく陽を見ながらこの商店でいっぱいやることもあったのだろうか。苔むして朽ちていくばかりの建物が、今となっては悲しいばかりである。
さて、そんな斜陽の風景にも、未来が息づく一角があった。桜並木というには大げさだが、緩やかな坂道に続く通学路に、等間隔に植えられた桜の下に、交通安全を祈願した子供たちの手作りの案山子が並んでいた。
散り始めたピンクの花びらが、“へのへのもへじ”と書かれた顔に、はらはらと舞っていた。
…山里にも、春は真っ盛りである。
(2009.6.7記)
※画像上/通学路にこども達や父兄の手作りの案山子がずらりと並んでいた。今時“へのへのもへじ”はないかと思うが、これを作った人はおじいちゃん、おばあちゃんだろうか。案山子の胸の位置に作成者の名札が下がっていた。
※画像下/新城市上島田地区の棚田風景。