ホーローの旅
レポート192 新緑の只見へ、GW放浪旅2 新潟北部編
2009.5.3
新潟県長岡市~見附市~三条市~加茂市~五泉市~鹿瀬町~福島県三島町~金山町
薄くなった雲の奥に、初夏の日が透かして見えていた。
琺瑯看板を探す“放浪の旅”2日目は、新潟県長岡市から始まった。
まずは撮り残した2軒の酒蔵に寄り、三条市に向かう。三度目の長岡だがまだまだモレはあるようで、郊外の県道沿いで自転車やナショナルモートルの看板を見つけた。
見附市では「光風自転車」の看板を下げた自転車屋を発見。さっそくカメラを構えたが、店内にいるご主人とばっちり目が合ってしまった。
撮影許可を貰う動作に入る前に、ご主人の顔はすでに赤く染まり、眉間にシワを寄せた臨戦態勢に入っていた。
こんな表情を見たらうまく行くはずもない。これまで何度もトラブルになりかけたことが頭をよぎった。
ご主人の脳裏には「不審者を見たら警察に!」という標語が思い浮かんでいるだろう。ここは逃げるに限る。看板は名残り惜しいが、すごすご退散することにした。
三条市に入り、本町商店街を目指す。ここには燐寸箱を貼った看板商店がある。多くのサイトで取り上げられた看板だが、剥がされることもなく私を待っていてくれた。
マッチ箱のデザインを模った看板にはリアリティが溢れている。これぞホーロー看板の真骨頂というものだ。
クルマは阿賀野市から五泉市に向かう。一昨年の夏の探検と同じルートを走っているが、投稿者の皆さんの情報を拾っての探検である。
このところ、自分で看板を探すというパイオニア精神が欠如し、いただいた情報で看板を探している状況が多くなっている。
これではもともとの主旨である“探検”のポリシーが貫けない体たらくである。 ずっと思っていたが、これからは極力自力で探し、見つけることの喜びを再発見しようと思う。
五泉市からJR磐越西線に沿って走り、県境を越えた。いよいよ福島県、只見に入ったのだ。
阿賀野川の蒼い流れと芽吹いたばかりの新緑の美しさが目にまぶしい。手を伸ばせば届きそうな稜線から谷筋に沿って雪渓も残っていた。この景色を見て心動かぬ旅人はいないだろう。
“青年は荒野を目指す”…私の好きな言葉である。ずっとこの言葉を信じて旅を続けてきた。
道なき山の稜線や人が入ったことがない渓谷、アジアの辺境の山…。
今はカタチこそ違え、ホーロー看板を探す旅を通して、山村や農村、山のヘリにへばりつくような小さな集落を少しでも多く目に焼きつけ、その生活場面に触れてみたいと思っている。
金山町は只見の入口だが、そこにはいかにも山村の雰囲気が漂う素朴な情景があった。
ブナの森にくねくねと続く県道を抜けると、棚田の途中に小さなよろず屋。
軒下のたばこの看板が風に揺れ、虫採りのカゴや捕虫ネットが並んでいる。近くにはとても子供がいる雰囲気はないのに…。
“放浪の旅”2日目の宿は、沼沢湖のキャンプ場で幕営。山上の湖というロケーションの良さもあり、人気のキャンプ場のようだ。さすがに連休とあって混み合っている。
少し離れた台地に二人用の小さなテントを張る。
暮れなずむ湖面を眺めながら、仕入れてきた肴とビールで、一日が終わった。(つづく)
(2009.7.12記)
※画像上/加茂市内の風景。この日はお祭りのようで、加茂川にかかる橋ではたくさんの鯉のぼりが風に揺れていた。
※画像中/雁木がある長岡市内の風景。
※画像下/沼沢湖キャンプ場で幕営。闇の訪れとともに静寂が山を下りる。テント1張1200円。