ホーローの旅
レポート203 2009年真夏の長期ロード4 象を狩りに編
2009.8.4
大分県大分市~由布市~九重町~玖珠町~日田市~福岡県久留米市~八女市~熊本県玉名市~長洲町
無性に一人になりたことがある。
いつも家族や友人に囲まれ一人じゃないから言える贅沢かもしれないが、一人で旅することは、弱い自分を見つめ直すことのよい機会だと思っている。
よほど辺境の地にでも住んでいない限り、人と会わないことや話しができないことは今の日本ではあまりない。
それとも部屋に引きこもっていれば別だが、私はそこまで人嫌いではない。 私が看板探しに凝っていることを知っている、ごくわずかな人たちから「一人じゃ楽しくないだろう?」とよく聞かれるが、一時期、単独の山登りにのめり込んだ時期もあったし、ホーロー探検も一人に慣れてしまうと、それはそれで楽しいのだ。
暮れなずむ街や山の景色を見ながら、安宿の一室で、あるいはテントの中でぼんやりと酒を片手に過ごす時間はけっこう気に入ってるし、自分にとっても至福のひと時なのだ。
そんなことをぼんやりと思いながら、大分県は湯布院に向かって走っている。
三日で駆け抜けた四国の収穫は今いちだったが、田園の中にぽっかり浮かぶやさしい円錐状の讃岐富士や、早咲きのコスモスに埋もれたような久万高原の町、そして安くて旨いうどんやラーメン…看板ばかりでなく、四国の印象としては確かな手ごたえがあった。
都会の喧騒をそのまま持ってきたような由布院の町は、さらりと流して探検を終えた。
観光客がぞろぞろ歩き、情緒も何もない“創られた街”はホーロー看板にとっては棲みにくい町には違いないだろう。こうした町でお宝を探す気は起こらない。
九重、玖珠、日田市と横断をしていくが、これといったロケーションに出会えぬまま時間が過ぎていった。
10年ほど前に、まったく同じルートで九重山や祖母山を登りに来たことがあったが、あの頃のセピア色の残像はどこにもない。
九州の田舎といえども、国道沿いにはコンビ二やファーストフード店が林立し、古い家屋は壊されて、“にわか都会化”が進んでいる。
さて、探険隊のクルマは日田市から福岡県久留米市に入る。これから“象を狩りに”行くのだ(笑)。
「ちからわた」というインド象のイラストが描かれた綿の看板を撮影するため、久留米に向かっている。
「ちからわた」の看板は前回、前々回の探検でも見つけることが出来なかったいわく付きのターゲットである。
土地勘がない上、闇雲に探していたところで早々見つかるはずもなく、しかも急速に看板消失が目立っている今では、大きな象を見つけるのも、砂漠の中で針を探す行為に近い。
投稿者の皆さんから情報を集め、おそらく九州に残っているのは2頭の象しかいないと勝手に結論付けた。
1頭目の象は交通量が半端ではない十字路に建つ民家にいた。
情報提供者のヴィンちゃんからは「晴れた日には洗濯物が干してあるので、看板が隠れていることがあります」とあった。
うーん、今日は快晴である。不安と期待を胸に渋滞した道を走っていくと、民家の二階に貼られた象が見えた!その瞬間、急激にしぼむ期待感が…(笑)。
象の体半分がしっかりと洗濯物に隠れていた。
動物番組の映像で見た、サバンナの密林に、頭を隠してお尻だけ見えている姿そのものである。
これにはがっかりだったが、雨の日を狙って再度訪ねる悠長なこともできないので、もう1頭が“棲息”する八女市へと向かうことにした。
カーCDからは高橋真梨子の「無伴奏」が流れている。今回の旅で繰り返し聞いているCDである。
彼女の歌はどれも好きだが、特にこれは大好きな一曲。「♪私は無伴奏、ひとりぽっち、頬にかかる雨が似合うの…」というフレーズが気に入っている。
ひとり旅を続けるシャイな私を応援するために、この曲があるのだと勝手に思っている。
八女市に入って看板商店を撮影し、2頭目の“象を狩り”に行く。はたして、象はいるのか?
一枚の看板にこんなにも心の躍動を感じるのは初めてだ。 そして…象はいた!古い民家の手の届かぬ高さの壁に、全身をさらけ出した象がいた。
この感動は何と表現すればいいのだろうか。私の顔は半分ひきつり、きっとニヤケていたに違いない。
この感動、ボンカレーの初期バージョン(松山容子の青着物タイプ)を見つけたとき以来だ。 まったく関心がない人には分からない感動だろうなぁ…と思いながら、ライフル否、カメラを構え、象を狩った。
九州での大きな目標をクリアし、大きな仕事(象狩りである・笑)をしたことへの反動からか、探検もそっちのけで国道をひた走る。
ヤル気の無さからくるバチが当ったのか、熊本県山鹿市で物凄い夕立に遭遇した。しかもこいつは私の進行方向へずっとついてくるから厄介だ。
山鹿では酒蔵の取材を予定していたがとても寄り道できず、ワイパーを最強に走り続けて玉名市の中心に入ったとき、ようやく雷公から逃れることができた。
この日は大分から熊本まで横一直線に九州を横断した。
陽がしっくりと傾きかけた頃、熊本県長洲町の安宿に入った。 ドアを開けると同時に、一瞬目と目が合ったヤモリが畳の上を走り出した。
疲れもいとわず、そいつを追っかけるのに夢中になった一日の終わりだった。(つづく)
(2009.11.14記)
※画像上/大分市からJR九大本線に沿って庄原町を九重高原に向かうと、いかにも九州的なのどかな田舎の風景が展開する。緑と青が眩しい夏の景色だ。
※画像中/大分県大分市今市町の町並み。石畳がおよそ1キロほど続く。クルマでは走りづらくてこの上ない。
※画像中/JR九大本線沿いの看板屋敷。ジオラマのような田舎の風景が素敵だ。
※画像下/大分市の「ラーメンく~た 大在本店」 とんこつラーメン 650円 ☆☆☆☆★ ※ファミリーレストン然のような雰囲気は好きになれないが、大分ラーメンの底力を感じる味。九州のラーメンでは大分のポイントがまた上がった。
※宿泊/「ビジネスインうめさき」 1泊2食3700円。和室6畳、バストイレ共同。何よりも2食付でこの価格は素晴らしい。料理の味もボリュームも申し分ない。☆☆☆☆☆