琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート205 2009年真夏の長期ロード6 山口編

2009.8.6
山口県下関市~長門市~萩市~山口市


探検レポート205

海の下のトンネルを滑るようにくぐると、そこが山口県だった。
四国を3日、九州を2日で走りぬけた距離は2000キロに達していた。
ちょっとヘンだが、本州に上陸したことで、一番西の端にいるにも関わらず、自分の土地に帰ってきたような、妙な安心感を覚えた。
下関港からは国道2号線に沿って、まずは長府の町を目指す。ホーロー看板についての情報はまったくないので、酒蔵をめぐりながら、あわよくば看板を見つけるというスタイルである。
国道491号線に入ると、小月駅の東で看板屋敷を見つけた。線路に近寄ることはできなかったが、いわゆる“ブラザー三兄弟”と呼ばれる、ミシン、編機、洗濯機の3枚の看板と、褪色して微かにしか判読できない「天下一品だるまわた」の看板が貼られていた。
かつて、山陽本線の沿線には看板屋敷が多くあったというが、今ではほとんど残っていない。それだけにこうした屋敷は貴重である。
勢いよく茂る夏草を掻き分けて写した一枚も、貴重な成果なのだ。 小月からはまっすぐ北上し、長門市を目指した。
偶然ではあるが、途中で東行庵という高杉晋作の墓がある寺に立ち寄ることもできた。歴史好きの自分にとってはうれしい時間だった。
また、ホーロー看板はほとんど見つけることができなかったが、緑一色に彩られた目に鮮やかな田園風景に出遭ったり、静けさが沁み込むような木造駅舎を見つけたりもした。

探検レポート205

山陰本線の阿川駅から日本海に面した油谷湾を望む海岸線に出ると、長門市までは直線で20キロほどだが、時間に余裕もあり、油谷の半島をぐるりと一周してみることにした。
結果的にはお宝は一枚も無かったが、予期せぬ棚田の風景に出遭うこともできた。 まぁ、予測はしていたが、山口県の状況は厳しいようだ。
これまでの探検を含めて客観的にみても、他県と比べてホーロー看板の残存数は少ないといえそうだ。
そんな中で、萩市に向かう海岸沿いの集落で、「ユアサランプ」や「ロート目薬」、「ミツワ石鹸」が貼られた商店や、クスリや地酒の看板を貼った民家を見つけたのはラッキーだった。
特に商店のほうは、自転車がすれ違うのがやっとの、いかにも漁村の風景といった緩やかにカーブした狭い路地にあった。
おばあちゃん二人が店のかまちでお茶を飲んでの井戸端会議の真っ最中だったこともあり、小さく目礼して看板を撮らせていただいた。
後で分かったことだが、私の後にこの店を訪れた投稿者のKANKANさんの情報では、店内にも醤油の看板があったようだ。やはり目礼だけではなく、「他にも看板はありませんか?」という、ひと声が必要だったと今更ながらに反省している。

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こうしたケースはいくらでもあり、ひと声かけることにより、倉庫や蔵の中から珍しいお宝を出してきてくれたことを何度も経験している。勇気を出して訊ねてみるのも肝要である。
さて、“ひとり探険隊”のクルマは萩市内に突入し、KANKANさんからいただいた情報をたよりに、ホーロー看板の中でもレアものの代表格である「美空ひばりの金鳥」の看板をカメラに収めるべく、目的地に向かった。
しかし、結果は…唖然である。あるべきところに看板がない!残っているのは看板が貼られた痕跡の白い跡だけである。
口惜しいことに、対で貼られていたキンチョールの看板は残っていたが、肝心の美空ひばりが消失しいた。 正直言って、これには言葉も出なかった。
おそらく価値を知っているホーロー狩りの仕業だと思うが、今となってはどうすることもできない。
この日の探検は、収穫も少ないうえ、美空ひばりの撮りそこねと続き、更に追い討ちをかけるように、宿泊先の山口市に向かう道すがらで物凄い雷雨に遭った。
取材予定の酒蔵の前に立ってもクルマから下りることもできなかった。 重ねて間の悪いことに、夕食用にスーパーで買った見切りのお惣菜が見事に的中して、一晩中、トイレを往復するハメになった。
振り返ってみれば、長旅の疲れを癒してくれるような田園風景や棚田の景色に心が和んだが、それは束の間の出来事で、その後がいけなかった。(つづく)
(2009.12.11記)
※画像上/熊本県山鹿市の千代の園酒造。酒蔵を中心に古い町並みが続く。まるで明治時代にタイムスリップしたようだ。明治29年(1896年)創業。
※画像中/長門市油谷立石の棚田の風景。棚田の背景は鉛色をした海だ。海風が吹く棚田にしっかりと稲が根付いていた。
※画像下/萩市内の町並み風景。 
※宿泊/「ホテルアルファーワン山口インター」 1泊朝食付き5000円。僕のホーロー探検ではこのプライスが上限か。部屋は清潔で快適。大浴場が完備されているのがうれしい。☆☆☆☆☆ 



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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