琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート215 2010年厳冬 岡山県ホーローの旅

2010.1.30-31
岡山県津山市~鏡野町~真庭市~高梁市~総社市~矢掛町~笠岡市~倉敷市~玉野市~岡山市


探検レポート215

毛穴を無理やり広げるような、鋭利な風が抜けていく。
寒気にさらされた肌は、風に負けぬように更に縮こまる。自宅を出て5時間、夜が明けたばかりの津山市内を歩いている。
蛇行しながら続く古い町並みの酒屋の前に立つと、そこには、とうに変わってしまった風景があった。
思い起こせば2005年の春、この店の前で、ご主人(若奥さん)と看板談義をした…あれから5年、あったはずの3枚の地酒看板が跡形もなく消えていた。
更に追い討ちをかけるかのように、もう一軒の酒屋でも看板が消えていた。最近の探検では、再訪再撮影も多くなっているが、それと同じくらい、消失したお宝を確認することが重なってきた。
もはや、諦めの境地はとっくに超えた。
今年で6年目に入ったホーロー探検だが、この遊び、いつまでやれるだろうか。
津山市からは気を取り直して、国道189号線と並行する旧道を院庄、鏡野町と回る。
狙いの看板は少なくとも、酒蔵や牛乳箱の撮影に忙しいから、飽くことはない。
鏡野町から旧・富村(現・鏡野町)は、のどかな山村の風景が広がり、寝不足のドライブも更にのんびりしたものになった。

探検レポート215

とっくに廃業した食料品店や酒屋の軒下にお宝を探しても、薄く変色した痕跡のみがついているだけだった。
最も、今回の探検では初見のお宝が1枚でも見つかれば上出来なので、こうした光景に出遭ってもそれほど焦りはない。
最近の探検では一日回っても、収穫がほんの数枚程度という状況が当たり前だからだ。
旧有漢町(現・高梁市)に入り、国道313号線を南下する。この道は以前探検したことがあるが、撮り逃しのターゲットがたくさんある。
というのも、投稿者のろんださんに教えていただいて判明したのだが、お宝に気づかずに通り過ぎてしまったことが原因なのだ。
2年前に辿った同じ道を、時間をかけて再度走っていることも間抜けだが、二度目ともなると心にゆとりが生まれるのか、転がり落ちそうな山の斜面にへばりつくように建っている集落を見つけ、クルマを止めて眺めたりもした。
岡山県の探検は通算で9回目だが、いつも新しい発見があるので気に入っている。
今回も例外ではなく、高梁川の堤防から脇道に逸れた小さな集落で、初見の地酒看板を見つけた。
“お宝の匂いに吸い寄せられて”とでも言おうか、廃業した酒屋の軒下には「酒は酔寶」と「清酒金光賀眞」の2枚がひっそりと残っていた。
どれだけの人がこの存在に気づくだろうか。第六感が働く…こんな出遭いこそが、ホーロー探検冥利に尽きるというものだ。

探検レポート215

夕刻が近づき、笠岡市から倉敷市へ繋ぐ道を急ぐ。まるで、番兵のように立ちはだかった土蔵には、「宝酢」の鮮やかな看板が貼られていた。
“身を切るような”という形容がぴったりくるような寒い一日だったが、元気で頑張っているお宝たちに出遭えたことがうれしかった。

翌朝、大粒の雨が落ちる倉敷駅前を後にした。
最初に目指すのは、今のところ岡山県内では一番のパフォーマンスを誇ると思われる看板屋敷だ。
山陽本線沿いの看板屋敷は激減しているが、目的の屋敷は健在だった。屋敷の前に建つ家が死角となって、おそらく車窓からは一瞬しか見えないだろう。
そんな物件であるが、壁一面に14枚の看板が貼られた様は驚きを通り越して、神々しいほどだ。
更に、ここに人が住んでいるということも凄い。細かく住所を説明しなくても、“看板がたくさん貼ってある家”で充分通用するんじゃないだろうか。
久々の看板屋敷に満足して、雨がフロントガラスを叩く中、倉敷市内を玉島方面へ向かった。
玉島は酒蔵や醤油蔵が多く残っている土地だが、観光地然としている倉敷とはまた違った雰囲気があり、私にとってはお気入りのエリアだ。
古い町並みも多く残っているだけに、看板ばかりでなく、牛乳箱や酒蔵の撮影も楽しい。
玉島から玉野市に向かう途中に立ち寄った呼松の町並みで、地酒の看板を貼った酒屋を見つけた。
水島港から引き込んだ運河に沿って、クルマがようやく通れるような狭い道に、古い家屋が軒を並べていた。
半円筒状のモダンな建物は、昭和10年に建てられた郵便局で、今も現役だ。呼松は昔は商業港として栄えたという。
看板が貼られた酒屋さんのご主人と話をすると、酒造を行っていた頃は、この港から千石船のような帆船で、広島県の鞆の浦へ酒を運んでいたということだった。
看板を探して全国を回っているという私の話に興味を持ったのか、話し好きのご主人はなかなか私を離してくれなかった。

探検レポート215

そのうち、店の中に声をかけ、奥さんまで呼び出す始末。その奥さんが更に話好きだから困ってしまった。
夫婦で喋るわ、喋るわ…私はただ相槌を打つばかりだった。
クルマがすれ違えないような狭い街道は、往時は行きかう人で賑わっていたようだ。荷を積んだ馬も通ったという。
今ではすっかり寂びれ、当時の面影はどこにもないと嘆いておられたが、いつまでもお元気に、店を切り盛りされることを願った。
立ち話で小一時間を過ごした後、昔、帆船に付けていた大漁旗まで見せていただいて、ようやく解放してもらえたが、こんな出会いもまた楽しい思い出になるだろう。
凍てつくような寒空から、一転して冷たい雨という二日間だったが、久しぶりに訪ねた岡山は、裏切ることなく、思ったとおり魅力的な体験をさせてくれた。
そこに住まう人たちも親切だった。
雨音だけが響く、静けさに包まれた呼松の酒屋で出会った老夫婦や、玉島の酒蔵の前で道を教えてくれたタクシーの運転手…やさしく語りかける、お国言葉が心に響いたホーローの旅だった。
(2010.2.21記)
※画像上/津山市勝間田の苅田酒造㈱の酒蔵。レンガ煙突に朝日が反射した。代表銘柄は「諸白」
※画像中/閉店した商店。自販機の横に醤油の看板が一枚。懐かしい雰囲気が漂っていた。
※画像中/岡山市西大寺の古い町並みを歩く。
※画像下/総社市清音のヨイキゲン(株)の看板。ネーミングが素晴らしい。
※宿泊/「ホテル1-2-3倉敷」 ☆☆☆★★ 朝食付き4200円。朝食サービスはパンとコーヒー程度。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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