琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート221 花冷えの霞ケ浦、レンコン街道を行く

2010.4.4
茨城県かすみがうら市~行方市~鉾田市~大洗町~茨城町~小美玉市~土浦市


探検レポート221

どんよりとした鉛色の雲と、境目がはっきりしない同じ色の湖面に、小さな波が立っている。
春とも思えない凍えそうな冷気の中、土浦駅から県道118号を東に進み、霞ヶ浦が眼前に広がる集落の前に立った。
驚いたことに、小さなボートを浮かべた横で、ゴム長の胸まで水に浸かりながら一心不乱に泥の中で格闘している人たちがいた。
レンコンの収穫作業だ。
それにしてもこの寒さ、見ているこちらまで身震いしそうだ。
霞ヶ浦の名産であるレンコンの収穫時期は、こんな天気でも当たり前のように、帽子代わりのタオルを被った若い男性が泥だらけになりながら、刈り取ったレンコンを沼に浮かんだボートに放り投げていた。
茨城県でホーロー探検をするのは5回目だが、霞ヶ浦の沿岸に点在する小さな集落を巡るのはこれが初めてである。
どこまでも続くレンコン畑に気を取られて、あやうく見逃すところだったが、倒壊寸前の商店の軒下に、鮮やかな赤地の看板を目で捕らえた。

探検レポート221

「頭痛神経痛にズバリ」と読める。ラッキーなことに初見の看板だ。
これまで岩手県や福井県で短冊形を見つけているが、大型看板は初めてである。
今でこそ倒壊した屋根のおかげで全体が見えない状態だが、往時はきっと、霞ヶ浦を航行する漁船からでも望めたことだろう。
午後を回り、霞ヶ浦の湖面に沿って行方市に向かう。時折、強風に乗った雨粒がフロントガラスを叩く。
行方市の商店街を外れると、木造家屋が並んだ一角に「大黒綿」の看板があった。
製造元だろうか、立派な門構えの家屋だ。綿の看板は、酒や醤油と並んで、アイテムも多いカテゴリーだが、追跡調査をしてもメーカー名が判らないものが多い。
この看板も帰宅してから調べてみたが、ご他聞に洩れずだった。
行方からは北浦に沿って北上し、鉾田市と大洗町を目指した。鉛色の空が更に暗くなり、何とも憂鬱である。
小学校の校庭の満開の桜の煌びやかさも、まるで灰色の泥壁に塗り込められてしまったようで、くすんだ色に同化している。
看板を見つけてクルマから下り、シャッターを押す…大した動作でもないのに、クルマに戻るときには指先がかじかみ、鼻の頭が冷たくなっている。

探検レポート221

強風、降ったりやんだりの雨、こんな日のホーロー探検は、気持ちがめげるばかりで、早く切り上げて暖かい部屋に帰ることばかり考えてしまう。
期待していた大洗町では、これといった収穫もないまま折り返すことになった。
投稿者のウシ君さんから教えていただいたリヤカーの看板は、あるべき場所から姿を消していた。
カメラに収めたかったお宝だけに、柱に残る白い跡を指でなぞると、どっと失望感がこみ上げるのだった。
最後まで花冷えの一日だったが、土浦市に戻る途中に立ち寄った清酒醸造元で、初見の地酒看板を見つけたのはラッキーだった。
すぐ近くにはしめ縄を巻かれた老木が、今が盛りの桜色に染まっていた。
(2010.5.29記)
※画像上/レンコン畑の風景。鉛色の雲が重く垂れ込め、霞ヶ浦の旅を更に憂鬱にしてくれた。かすみがうら市。
※画像中/小美玉市の古い町並みが続く県道を行く。
※画像下/土浦市の桜の老木。今が盛りの満開だった。



2010年探検レポートへ

Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


琺瑯看板探検隊が行く
SINCE 2005.3.17