ホーローの旅
レポート224 発作的フォッサマグナホーローの旅 後編
2010.5.5
新潟県糸魚川市~富山県入善町~黒部市~滑川市~富山市
糸魚川での宿は、農家民宿という一風変わったところにした。
泊り客は私ひとりで、お酒を傾けながら話をすると、50年配のご主人は会社を早期退職して脱サラで民宿を始めた元エリート社員だった。
サラリーマン時代は出張も多く、家族団らんなど望むべくもなかったが、今では奥様と2人で、気ままな田舎暮らしが楽しめることに感謝しているということだった。
日本ミツバチという純粋な日本産の蜂を飼って、自家製の蜂蜜を作っているという興味深い話を伺うこともできた。
自分の知らない世界の話を聞くことができただけでも収穫だった。更に、私一人のために遅くまで酒に付き合い、食べきれない山菜や魚料理を出してもらって、久しぶりに心地よく酔った夜となった。
翌朝、ヒスイ色をしたニワトリ(烏骨鶏)の卵を土産に貰い、ご夫婦に見送られてまずは山(海谷山塊)を目指した。
5月だと言うのに、残雪が多いこと。半端ではない。
周りは雪の山、田植えを待つばかりの水を張った田んぼが広がる殺風景な集落でクスリの看板を見つけた。幸先のよいスタートだ。
県道を更に奥に進んだどん詰まりの集落で、今度は地酒の看板。
運が悪いことに隣の民家は葬儀の真っ最中で、私が弔問客だと勘違いしたのか、礼服を着た人にクルマを駐車場へ誘導されそうになって、焦ってしまった。
クルマを民家が見える路肩に止めて、そそくさとカメラを向ける。何だか隠し撮りをしているような後ろめたさを感じつつ、早々に退散することとなった。
再び来た道を戻り、糸魚川市内の探検に時間をかける。ホーロー探検日和を絵に描いたような、まばゆいばかりの5月の陽光が背景である。
思惑通り、酒蔵ではいくつかの看板を見つけた。投稿者のKANKANさんに教えていただいた看板以外では自力発見は少なかったが、“そそる”古い町並みが残る糸魚川は、なんとも優しく、癒される雰囲気が濃厚な町だった。
さて、浜松市からフォッサマグナに沿って北上してきたホーロー旅もいよいよ終盤である。
午後を回り、日本海に沿って富山市を目指した。何度も探検に訪れているエリアだが、辿るべく道を変えると、新たなお宝は見つかるものだ。 こ
の日も例外ではなく、入善駅近くの北陸本線沿いでちょっとした看板屋敷を見つけた。
「ジューキミシン」と「富士ヨット学生服」の看板が木造の屋敷に整然と貼られていた。こうした出遭いは素直にうれしい。
ファインダーを覗くと、存在感がぐっと迫ってくるような屋敷だった。
その前を、金沢行きの鈍行電車がゆっくりと過ぎていった。
そろそろ季節は初夏である。(おわり)
(2010.8.15記)
※画像上/糸魚川市の中心部から山に向かって南下すると、海谷山塊と呼ぶ残雪を抱いた山が間近に迫ってきた。水を引いたばかりの田んぼにも雪の塊が転がっていた。
※画像下/古い家屋が軒を並べる糸魚川市内を歩く
※宿泊/「農家民宿はちみつの木」糸魚川市 ☆☆☆☆☆ 一泊二食6000円。料理もおいしく、何よりも静かな宿。ぜひリピートしたい。