ホーローの旅
レポート231 2010年夏、瀬戸内の旅2 しまなみ海道へ
2010.8.8
岡山県倉敷市~金光町~笠岡市~愛媛県今治市~広島県福山市
早朝から入道雲が高く伸びている。今日も暑くなりそうだ。
倉敷市内から国道429号線を西に向かい、玉島市街に入った。何度も訪ねている町だが、同じ倉敷にあっても、どちらかというとこちらのほうが気に入っている。
喧騒の美観地区が“動”なら、玉島は“静”だ。観光客の姿もないし、古い町並みも随所にあり、お宝の匂いがプンプンと漂っている。
静岡のとび丸さんの情報をもとに、酒看板とクスリ看板をゲット。
しかし、「づつうはいたにノーチカ」の看板は、どれだけ探しても見つからない。どうやら消失してしまったようだ。
ほんの数ヶ月前にあった看板も、タイミングを外すとこうなる。お宝はいつまでもあると思ってはいけない。
玉島からは海岸線に沿って金光町を目指す。気温はすでに35度を超えているだろうか、めまいがするほど暑い。
途中で立ち寄った酒蔵(赤沢酒造)は、天を突く煙突が陽炎の中で揺れていた。 蔵の隣は広大な空地で、雑草が生えるままになっていた。おそらく廃業した酔宝酒造の跡地のようだ。
全国的に蔵の廃業が急ピッチで進んでいるが、江戸時代から続いた建物でさえ跡形もなくなってしまうと、そこにはただ静寂があるのみだ。
赤沢酒造も休蔵しているのか、蔵には人気がなく、敷地は雑草に覆われていた。しかし、ラッキーなことに地酒の看板が掛かっていた。
いつまで残ってくれるだろうか。 黒崎から北上し、金光の町に入った。
念願の仁丹看板を撮影するためだ。“念願”と書いたのは、それがリベンジだということと、手前味噌であるが、全国に残された仁丹看板を貼った屋敷を、これで全て訪ねたことになると思ったからだ。
場所は岡山県のJR金光駅の近く。
一回目のチャレンジは、寒風が吹きすさぶ2月。ある情報をもとに山陽本線沿いを探索したが、どうしても見つけ出すことができなかった。 どうやら、クルマで探したことがその敗因みたいだ。
迷路のような集落の中に入ってしまうと、路地や一方通行に阻まれて、目標からどんどん離れてしまう。 …ここは、“みちくさ”の原点に帰るべきだと、意を決して再チャレンジしたのが今回である。
「車窓から見える」という情報だけでは、金光駅から東側か西側なのか分からないし、南北でさえ不明だ。
同じ失敗を繰り返したくないので、今回は電車と徒歩で探すことにした。金光駅から鴨方駅まで切符を買い、普通電車に乗り込む。
車窓から目を皿のようにして流れ行く景色を見ていく。まずは北側だ。 遠くに見える家屋の壁に目をやっても「仁丹」の二文字は現れない。
あっという間に鴨方駅に着いてしまった。北側じゃないようだ…ホームを渡って上り電車に乗車。
今度は南側の風景を見ていく。 ガタゴトと揺れる車両が低速に入り、駅に着くというアナウンスが始まる時、車窓から遥か先の集落に仁丹の特徴的な赤い文字が見えた。
周囲に乗客がいることも構わず「あった!」と、思わず声に出していた。持っていた地図におおよその位置を記して、金光駅で下車した。
ギラつく太陽は真上、吹き出る汗を厭わず歩くこと20分。踏切を渡り、用水路に沿って目星をつけた集落を目指す。
入道雲を背景に、目的の仁丹看板が貼られた屋敷は目の前に聳え立っていた(そんな形容がぴったりなのだ)。
琺瑯看板を見つけることは、砂漠で針を探すようなものだとつくづく思う。今となっては下駄履きで“みちくさ”ついでに見つかるものではなくなった。
情報を駆使して、ようやく出遭える必然的なものになっているのは嘆かわしいが、それでも偶然通りかかった旅先の小さな集落で、珠玉のようなお宝に出遭うこともある。看板探しが楽しいと、素直に思える瞬間だ。
リベンジを果たし、意気揚々と県境を越えて広島県に入った。尾道からしまなみ海道を渡るのだ。今回のホーロー旅のメインともいえる探検が始まる。
とても一日では回れないので、福山を基地に2日間かけて、瀬戸内の島をひとつづつ訪ねてみるつもりだ。
まずは、しまなみ海道で最も大きな島である大三島からスタートする。ぐるりと一周をしてみると、古い町並みも随所に見られ、期待は否応なく高まってきたが、意に反してお宝の収穫は今ひとつだった。
しかし、青い空に映える干潟の景色が絶景で、これを見ただけでも訪ねた甲斐があった。
次に「伯方の塩」で有名な伯方島であるが、今は製塩よりも造船が盛んだという。
ここには島の中心でもある木浦という町並みがあるのだが、訪ねてみると中途半端に新しい商店街で、残念ながらお宝の姿はなかった。
続いて大島であるが、地理的には四国本土の今治市に一番近い島である。この島には味噌や清酒の醸造元もあり、結果的にここが一番収穫が多かった。
特に自転車については「英の自轉車」や「栄興社自転車」といった、これまでの探検でもあまり見つけていないレアな看板があった。
島のよろず屋には醤油の看板が掛かり、のどかでのんびりと時を刻む雰囲気があった。 しまなみ海道を大島で折り返し、尾道までの帰路に生口島、因島と広島県側の島を立ち寄ってみたが、お宝の姿はまったくなかった。
素朴で牧歌的な愛媛県の島と比べると、どこかに都会の風が吹いているような気がした。(つづく)
(2010.12.26記)
※画像上/大三島の海岸線は遠浅の干潟になっていた。青い空と海が、真夏の陽光に輝いていた。
※画像中/セミの抜け殻が風に揺れていた。今治市大島で。
※画像中/昼下がりの大三島を歩く。※画像下/大島の醤油味噌醸造元。
※宿泊/「グリーンビジネスホテル」福山市。☆☆☆☆★ 素泊まり2800円。トイレ・バス共同。この料金では文句はいえない。コストパフォーマンスも含めて、快適な宿。