琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート239 天狗の里から、冬の京都を歩く

2010.12.18-19
滋賀県彦根市~京都府京都市


探検レポート239

京都を歩くのは、冬と決めている。
フードがついたパーカーを着込み、手袋にマフラー、ディパックを背負ってのんびりと歩くのが僕の京都での町歩きスタイルだ。
ちょうど青春18切符も発売され、(さて、どこへ行こうか?)と考えたときに、真っ先に浮かんだのが京都だった。
吐く息が白くなるほどピンと張り詰めた空気に、どこからともなく漂ってくる香の匂い。古びた町家に貼られた仁丹の町名看板…そんなイメージを膨らませると、矢も盾もたまらなくなった。
こうなるとすぐに計画である。今回は“天狗の里”鞍馬から、京都市内を巡るホーロー旅に出ることにした。
青春18切符の旅だから、快速電車の乗り継ぎからスタートする。
米原からJR琵琶湖線の普通電車に乗り換え、無人駅の稲枝駅で下車。まずはホームから見える仁丹の看板を撮った。
国内24箇所目の仁丹屋敷ゲットである。
手前味噌だが、5年間のこれまでのホーロー旅で、全国に散らばる(といっても、静岡県から岡山県まで)仁丹屋敷の全てを撮影したと思い込んでいたが、実際にはまだモレがあったようで、群馬県在住の琺瑯マニアのTMさんから埼玉県内にも看板屋敷があるという情報をいただいた。

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更に10月になって琵琶湖線沿線を再調査したときに、車窓から新たに見つけたのが稲枝駅のこの物件だった。
看板を隠していた建物が撤去されて更地になったことにより、仁丹の看板が浮かび上がったのだ。残念ながら「仁」の文字が欠落していたが、私にとってはうれしい1枚だった。
稲枝駅では他にも4枚の看板が貼られた屋敷を撮影した。これも仁丹と同じく、建物が撤去されたことにより発見できた屋敷だ。
また、5年前に撮った「ヒヅル自転車」の看板が残っていたことにも感動した。
青春18切符は何度でも途中下車ができるのが魅力だ。京都までの道中でこんなふうに車窓から見つけた看板を撮っていくのも楽しい。
旅はまだ始まったばかりだ。京都駅からは京阪電車の七条駅まで歩き、出町柳へ。更に叡山電鉄に乗り換え、終点の鞍馬駅までは車中の人となる。
鞍馬が近づくと、鬱蒼とした山の中に迷い込んでしまう錯覚があったが、実際に駅を下りてみると、のどかな街道沿いに集落が寄せ合うように軒を並べた風景があった。
鞍馬で連想するのはなんといっても「鞍馬天狗」だろうか。天狗伝説の土地柄だけあって、駅前のみやげ物店には天狗のお面がにぎやかに入口を飾っていた。

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そんな風景を見ながら街道を歩いていくと、ますますひなびた集落となって、やがて人家が途絶えた。
ホーロー看板の収穫は、情報を得ていた目当てのクスリの看板1枚のみだったが、どっしりとした古い民家の屋根の上には、決まって守り神の鍾馗さんが空を睨んでちょこんと立っていた。こんな風景も京都ならではだろうか。
さて、鞍馬を訪ねたほとんどの人が鞍馬寺を目指すが、私はそれに背を向けて、貴船口まで断続的に現れる古い町並みを歩いてみた。
ホーロー看板は1枚も見つからなかったが、遠い昔に、行者や巡礼の旅人が辿った道をテクテクと歩くのもなかなか良かった。
この日は鞍馬から出町柳駅に戻り、再び歩いた。今度は仁丹の町名看板を探すゲームだ。
京都市内に700枚あるといわれている仁丹看板を探すことは愛好者も多いだけに、ネット上で看板のある場所を記したマップも情報公開されているくらいだ。
しかし、マップに頼らずに自力で探しだすことも、ゲーム感覚の楽しい作業である。
この日は出町柳駅から宿がある七条河原町までの約5キロの道中で、暗くなるまでに18枚の仁丹町名看板を見つけた。
ずい分見落としもあったと思うが、ホーロー探検の原点に戻った作業は楽しく夢中になれた。
京都でのホーロー旅の初日はこうして終わったが、ちょっとしたサプライズもあった。
5年ぶりに会った昔の山仲間と四条河原町で遅くまで飲んだのだ。
彼は、京都の魅力に取り付かれて永住覚悟で引っ越したという曰くつきの“京都狂い”。
「京都のお寺のお坊さんと間違われるよ~」と言いつつ、ビールを片手に、そしてツルツルに剃りあげた頭をなでながら、祇園祭や四季折々の風景を撮ったアルバムを開いて、熱っぽく京都を語っていたのが印象的だった。

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翌日は京都駅でレンタサイクルを借り、徒歩から自転車に切り替えた。
今度は昨日と違って、仁丹の町名看板を無駄なくできるだけたくさん見つけ出そうというのが狙いだから、情報公開されているマップを積極活用しての探検だ。
自転車だと一気に行動半径も広がるので、東山七条から出町柳、同志社から御所をぐるりと回るルートを走った。
仁丹看板ばかりでなく、過去に見つけた「羽車印度カレー」や「レート白粉」、「泉川清酢」などの“お宝”の無事も確認したし、お気に入りのラーメン店にも立ち寄った。
マップの情報が功を奏して、この日の仁丹看板の収穫は91枚にもなった。
これまで幾度も京都を訪ね仁丹の町名看板を撮ってきたが、発見した看板は300枚にも満たない。
まだまだ400枚もの看板が僕に見つけ出されることを待っていると思うと、これからの探検に弾みがつくというものだ。
青春18切符はまだ残っている。そして、京都の冬は始まったばかりだ。
パーカーの襟を立て、毛糸の手袋とマフラー、ディパックを背負う次の旅を、すぐにでも計画したくなった。
(2011.3.9記)
※画像上/鞍馬寺の門前町のみやげ物屋に並ぶ天狗のお面。鞍馬山には天狗伝説がある。
※画像中/夕闇が迫る鞍馬の町を歩く。
※画像中/先斗町近く。いかにも京都といった風景だ。
※画像下/下京区大黒町辺りで見つけた路地。路地の入口の低い天井には住人の表札が並ぶ。軒先がくっつくほどの狭さに感動。
※宿泊/旅館千鳥(京都市下京区七条河原町)素泊まり4000円 ☆☆☆☆★ 四畳半。清潔で静かな宿です。京都にあってはリーズナブル。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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