ホーローの旅
レポート257 OSAKA下町ホーローウォーキング
2012.3.10-11
大阪府高槻市~池田市~松原市~堺市~大阪市
名古屋、東京に続いての“下町ホーローウォーキング”の第三弾は、いよいよ大阪。
といっても、何度も訪ねているエリアなので、それほど新鮮さがあるわけでもないが、溜まった情報の確認とこのところの運動不足を解消する町歩きは、また違った角度で意味がある探検になるだろう。
▼3月10日
米原から京都方面の琵琶湖線への乗り継ぎは、いつものように隣のホームへの猛ダッシュから始まる。
停車している電車にゆっくり乗車しようと思っても、老若男女が一目散に空き座席を目指して走り出すと、それにつられて走ってしまうのが、悲しい性(笑)。
集団心理というのは恐ろしいものだ。何とか座席を確保するも、車内はあっという間に満員状態。
京都まではたっぷり一時間かかるのでまずは一息なのだが、私の前に、右手にスーパーの袋を提げて吊革を掴んでいるお年寄りがいるではないか。
(あちゃ~)と思って隣を見ると、若い女性は目を閉じたままだ。
(寝たふりしてやがる…)と思いつつ、意を決して「どーぞ、どーぞ」といって席を立つ。
お婆さんは、「すぐに降りるから…」と応えつつも、満更じゃないようだった。
数年前に韓国を旅行したとき、地下鉄やバスで、私より若い人たちにやたらと席を譲られて閉口したことがあったが、日本では私はまだ席を譲るほう(年齢)なのだ。
さて、大阪下町ホーローウォーキングは、高槻市の物件から始まる。
摂津富田駅から商店街を南下し、阪急京都線の踏み切りを渡り、看板が貼られた酒蔵を目指す。
すでに昼に近い時刻なので、途中にあった「餃子の王将」をしっかりとインプットしておく。
「酒は國乃長」の看板が貼られた寿酒造㈱は休日とあって門が閉まっていたが、酒蔵特有の黒壁に杉玉が下がり、お酒の甘い香りが漂っていた。
その香りが流れていく方向へ歩いた場所に、清酒と醤油の看板を貼った酒屋さんがあるという情報を仕入れていたが、結局見つけることはできなかった。
そこかしこで宅地工事をしているのを見かけたので、きっと、建て替えで消滅したのだと納得することで諦めることにした。
摂津富田駅から再びJRに乗り、尼崎から宝塚線経由で川西池田駅で下りる。
餃子をたらふく食べたので臭いが気になるが、連れもいない一人旅だ。誰にも迷惑をかけることもない。
池田市の中心部に近い、大衆演劇の小屋や石造りの洋風建築が残る一角に、元禄年間の創業と伝えられる㈱吾春酒造があった。
蔵の板壁にかかっている「清酒呉春」の看板を撮影してから狭い路地に入り、蔵の裏側に出ると、漆喰の白と黒壁のコントラストが圧倒的な威圧感をもってそびえていた。
町並みは正面から見るばかりでなく、角度を変えることで、また違った新しい発見ができる。
池田ではクスリの看板が貼られた小さな集落も訪ねた。
緩やかにカーブする道を登っていくと、菜の花の黄色とレンゲソウのピンクのじゅうたんが目に鮮やかに映った。
吐く息は白かったが、すぐ近くまできている春を実感することができた。
大阪下町ホーローウォーキングの初日は、池田から再び大阪に戻り、更に松原市、堺市と足を伸ばして終えた。
歩数計の表示は27000歩で、これまでの最高を記録した。
最もホーロー探検ばかりでなく、いつものように新今宮の安宿に荷物を置いてから、新世界、天王寺界隈を酔いどれ気分で歩いた数字も、計上されてはいるが(笑)。
▼3月11日
忘れもしない、この日は大震災が襲った日。あれから早くも一年が経ったのか。
こうしてホーロー看板を探している自分は、被災された方からすれば、この上もなく能天気なヤツに映るかもしれぬ。
しかし、これも性。許してほしい。
一様にシャッターが降りたアーケードをくぐりぬけ、早朝のあいりん地区を南海本線のガードに沿って歩く。
放射冷却で気温が下がった今日は人の姿も少ないようだ。“日給10000円”というハリガミをフロントガラスに貼って駐車している軽ワゴンや、激安の自販機が並ぶ通りを急ぐ。
萩ノ茶屋駅から南海本線に乗り、沢ノ町駅で下車。今日のスタートはここから住吉区の看板を訪ね、更に、大阪市内の地下鉄やバスが週末乗り放題の「エンジョイエコカード」を使っての探検につなげる。
住吉大社の周辺には、鍾馗さんが屋根を守る古い民家や木製の牛乳箱がある路地があって、下町の雰囲気を濃厚に残している。
いわくありげな丸窓がついた長屋は元遊郭跡だろうか。
仁丹の町名看板や戦前の自転車看板は、そんな町角にひっそりと隠れていた。
コンビニやマンションの陰に身を潜めるように、お宝たちは長い年月を過ごしてきたかと思うと、実に感慨深い。
大都市のホーロー探検は、現在と過去のそんなギャップを比較する楽しさも、僕の探索意欲をあおるのである。
住吉からは一日600円ぽっきりというエンジョイエコカードを駆使しての町歩きとなった。市バスや地下鉄をうまく使うことで機動力が格段とアップする。
田辺、今里、谷町、千林…と最寄の駅から徒歩に切り替えてお宝たちを探す町歩きは、ワクワクする心の躍動を覚えずにはいられない。
クルマがクラクションを鳴らそうが、堂々と道の真ん中を歩いていくいかにも“大阪のおばちゃん”風の二人連れ。
昼間から酔っているのか、ぶつぶつと独り言を繰り返す自転車に乗ったオヤジ。ネコがのんびりと昼寝している路地。人がすれ違えないような路地の奥にあった小さな祠。
雑多かつ、コテコテの大阪を象徴するディープな真骨頂が下町にはある。
「町内の申合に依り寄附押売一切御断」の看板を見つけたときには、思わずにんまりとした。
こうした看板をいまだに玄関脇に貼っている家があること自体、素晴らしい。
仁丹の町名看板も、運河のほとりの重油の臭いが漂う町工場の脇の家に貼られていたし、ぺんぺん草が屋根に生えている棟続きの家の壁には「ムヒ」の看板があった。
ホーローウォーキングの最後は千林商店街での仁丹看板探索となったが、あいにく見つけ出すことができずに空振りで終わった。
この日の歩数計の表示は31000歩。昨日を更に4000歩更新し、2日間で歩いた歩数は58000歩となった。
文字通り足が棒になるまで歩いた大阪だったが、青春18切符で乗る帰路の快速電車には、満ち足りた気分でボックスシートの人になることができた。
(2012.4.22記)
※画像上/大阪市平野区平野本町界隈。人通りは少ない。新旧が渾然一体となった下町らしい商店街。
※画像中/池田市郊外の風景。
※画像中/大阪市東成区今里から町工場が並ぶ平野川の運河を望む。
※画像下/地下鉄谷町線平野駅の階段。コテコテのいかにも大阪らしい風景。
※宿泊/ビジネスホテル加賀。素泊まり1800円。あいりん地区の激安宿。寝るだけなら許容範囲。入浴は近くの銭湯の利用券が貰える。☆☆☆★★