琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート263 夜行バスで行く、陽炎揺れる新潟の旅

2012.7.15
新潟県新潟市~新津市~田上町~加茂市~三条市~見附市~燕市~長岡市  


探検レポート263

夜行バスが新潟駅前の停留所に滑り込むと、長かった夜が明け始めた。
名古屋から7時間、腰やひざが固まってしまう窮屈な旅がようやく終わった。
そしてこれから始まるのが、待ちに待ったホーローの旅である。 というのも、5月連休に佐渡を訪ねた帰途に、新潟駅から見附駅までの信越本線沿いの看板を車窓から調査したのが事の発端で、それ以来、再び彼の地を訪ねる機会を狙っていたのだ。
駅前にあるホテルの喫茶ルームで時間をつぶし、レンタカーを借りて出発。
最初に向かったのが亀田駅近くにある看板屋敷。5月の調査でダイヤ学生服と金鳥の看板を確認した屋敷である。
しかし、目測を誤ったのか、見当をつけた場所を探してみるもどうしても見つけ出すことができない。半ばあきらめていた頃、庭木が茂った目的の看板屋敷を見つけることができた。
幸先のよいスタートとは言えないが、車窓から確認するのと、クルマや徒歩で実際にその場所にたどり着くのとではかなりの開きがあることを改めて実感することになった。
続く、太陽桜学生服がある民家や、夏草に埋もれてほんの一部分しか顔を出していないトヨタホームポンプがある納屋、更に加茂駅近くにある2件の屋敷などは難易度が低いのか、すんなりと見つけることができた。

探検レポート263

ところが、羽生田駅近くにある加美乃素が貼られた屋敷は容易に発見することができたものの、線路から70~80㍍離れており、更に庭木が邪魔して正面からズームで撮ることもできないロケーションにあった。
看板に近づくために、高架の急な階段を登って線路を渡り、集落の細道を辿り、更に竹やぶの急斜面をジグザグに下降し、汗を滴らせながら目的の看板の前に立って撮影をした。
一枚の看板を撮影するための執念であるが、何事においても淡白になってきている最近の自分を思うと、こんなヤル気がどこから出てくるのか分からず、思わず苦笑していることに気づいて吹き出してしまった。
午後からは三条、帯織と線路伝いに看板の姿を追っかける旅となったが、バケツをひっくり返したような予期せぬ雷雨に遭遇して、コンビ二の駐車場で1時間近くも閉じ込められてしまった。
雨が上がり夏空が広がると、ロスした分を取り戻すべくひたすらハンドルを握る。
オロナミンCやオロナイン軟膏がひっそりと残っている町並みや、小さな集落にある酒屋で見つけた醤油の看板は、偶然に遭遇しただけに素直にうれしい。
深いシワを刻んだご主人は、カメラを構えている僕に対して、「なんか珍しいもんあるんかねぇ」とのんびりした口調で、はにかみながら話しかけてくれた。
「この看板、珍しいですね」と説明しても、どうやら看板を撮るという行為そのものがよく理解できないようで、看板よりも自分の姿を写して欲しいみたいだった。
JR越後線が通る分水町から南下し、長岡市を目指す。キリギリスが鳴く堤防を走り、信濃川を挟んだ東西に点在する町並みを適当に通り過ぎていく。

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これまでの探検で幾度か足を踏み入れたエリアだが、既走したルートを地図に記していないばかりに、過去に通ったことを気づくことも度々だった。
西日の眩しさに目を細めながら長岡駅に着くと、むわっとした暑さの中、雑踏を行く人々やクルマの波が陽炎のように揺れていた。
当初はここでレンタカーを乗り捨て、新潟駅まで信越本線に乗車し、22時40分発の夜行バスで名古屋に帰還という計画だったが、とてもこの暑さの中、長岡で時間を潰す気にもなれず、時間の余裕を計算し、出発店舗のある新潟駅まで戻ることにした。
長岡から新潟までの国道8号線バイパスを、冷たい生ビールでのどを潤す瞬間をひたすら思い浮かべながらハンドルを握った。
すっかり夜の帳(とばり)が下りた新潟の町で、まっしぐらに居酒屋に飛び込んだ。
あとはバスの時刻まで、ひとり手酌でダラダラと飲むばかりである。
(2012.8.18記)
※画像上/JR信越本線帯織駅近くを走る普通電車。以前はこの辺りに何軒かの看板屋敷があったが、今は一軒しか残っていない。
※画像中/見附市で見つけた年季が入った看板商店。
※画像下/田園風景の中に調和する看板屋敷。稲の緑があいにくの曇天に関わらず眩しい。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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