琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート266 灼熱の九州6日間の旅3 佐賀県編

2012.7.30
福岡県久留米市~八女市~大木町~佐賀県佐賀市~小城市~江北町~多久市~唐津市~伊万里市~武雄市~鹿島市


探検レポート266

今日も暑くなりそうだ。チェックアウトを済ませ、荷物をクルマに積み込んだだけで汗が吹き出てきた。
ねじり鉢巻きよろしく、汗止めの黄色いタオルを頭に巻くと、人相風体ひっくるめて、テキヤのおやじが出来上がった(笑)。
まず向かったのが象のイラストで有名な「ちからわた」のある屋敷。
2009年の8月に訪ねたときは、軒に下がった洗濯物が看板を隠しており、象のお尻の部分しか見えなかった。
この探険では“象狩り”と称して、「ちからわた」を探していたが、久留米のこの物件は、サバンナの密林で頭だけ隠した象を連想して、銃の引き金代わりのカメラのシャッターを押したことを思い出した。
しかし、今回は象の姿がすべて見えている。再訪してよかった…と、にんまりしながらシャッターを押す。
命中!! 単純なもので、朝一番の満足は今日一日の充実を約束してくれたと、イイように解釈した。

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久留米から八女市に通じる朝の渋滞が始まった県道82号線を南下し、星野村に向かう。
星野川に沿った国道442号線に入ると、ひっきりなしに災害車両のトラックとすれ違った。
車窓から見える河川敷には倒木や瓦礫が埋め尽くし、橋は倒壊し、傾いた家屋もある状態だ。上陽町役場を過ぎると、星野村と繋がる県道52号線と70号線がどちらも全面通行止めとなっていた。
残念だが、ここまでだ。7月の九州北部豪雨の傷痕は想像以上で、被災された方を思うとやりきれない。(象がどうした)と、看板探しに浮かれている自分を恥じるばかりだ。
気持ちが沈むのはこれだけでない。朝から何度も会社のケータイが鳴る。
休暇を取っているのに仕事の電話を受けていること自体情けないが、ケータイやメールにしかり、GPSといった便利なツールがはびこると、管理社会が高じて、“監視社会”になっていく危険と滑稽さが垣間見えるのだ。
計画の変更を余儀なくされたが、旅はようやく中盤に差しかかったばかりだ。
気持ちを切り替えてナビを佐賀市にセットした。 大木町から佐賀市に至る県道では巨大な「かめおわた」の看板を見つけたが、これは手書き製である。
「だるまわた」や「カクイわた」もそうだが、製綿メーカーは昭和30年代の全盛期に、ペンキ職人さんを雇って、大量に貼ったようだ。
絵や文字が不揃いなのもそのためで、看板が巨大になればなるほどホーロー加工が難しいのか、手書き比率が高くなる傾向があるようだ。
亀が描かれた「かめおわた」の手書き看板も今ではほとんど残っていない。大木町で見つけた看板は褪色もひどくなく、亀の絵がはっきりと残っていた。

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佐賀県では情報をいただいた看板を訪ねていくが、自力発見は少なく、小城市、江北町、多久市、武雄市で数枚見つけただけで終わってしまった。
朝一番の「ちからわた」の“命中”で運が尽きたようである。
しかし、いただいた情報で訪ねたとはいえ、すでに廃墟になった「ふくろくわた」のレンガ積みの建物は、遠く微かに聞こえる蝉の合唱と、周りを囲む田園や、サワサワと揺らぐレンコン畑の風景と絶妙に重なり合って、静寂の中にゆっくりと時を刻みながら、溶け込んでいるようだった。
また、「乙女石鹸」があったよろず屋も強く印象に残った。最も後味の悪さで残ってしまったのだが(汗)…。
店主に撮影許可を取る前に、店の外側に貼ってある看板の写真を撮ったことが失敗であった。どうやら私のそんな様子を見ていた店主(女性)が不審者とでも思ったのか、店内にある「神活」や「ロート目薬」を撮影させて欲しいと申し入れた途端、「お断りします!」とけんもほろろに断られてしまった。
こうなると女性は強い!?一瞬、(やはりテキヤ姿がいけなかったのか…)とも思ったが、タオルは外したし、ヒゲもちゃんと剃ってるし、Tシャツも汚れていない…でもよく考えれば、平日の昼間に仕事もせずに看板を撮らせて欲しいということが、女主人にとってはヘンなのだ、非日常なのだ。

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それに気づいた私は、気まずくなった時のために身につけてきた「言い訳・説明・懇願」の返答3点セット…怪しいものではないこと、遠路はるばるやってきたこと、ホーロー看板を探して全国を回っているという…最後の“切り札”を出す気にもなれず、結局、店外の看板を撮らせていただくことのみ許しを得ただけで、店を出るしかなかった。
こうして灼熱の九州の旅、3日目が暮れていった。
鹿島市から国道444号線を南下すると、宿がある長崎県大村市に入った。
すっかり暗くなった頃、宿へ向かう途中で偶然見つけた酒屋の店内に「清酒初日」のホーロー看板。
クルマの窓からちらりと覗くと、苦虫を噛み潰したような頑固一徹に見える店主が…。
うーん、ツイテてない(笑)。(つづく)
(2012.10.7記)
※画像上/ハス畑が一面に広がる小城市芦刈町の風景。サワサワと揺らぐ様は、迷い込んだら抜け出せないような不気味さだ。
※画像中/「ふくろくわた」の工場。すでに操業はしていない。レンガ積みのレトロな建物は、ぺんぺん草やツタに覆われようとしていた。佐賀県小城市芦刈。
※画像中/「ラーメン竹ちゃん」大盛750円。佐賀県三日月町。とんこつスープは超濃厚。スープをすすり終わった後は、唇の周りに糊をつけたようにベトベトになった(笑)。
※画像下/石積みの石垣の上に建てられた小屋に金鳥ペアがあった。
※宿泊/ビジネスホテル花まるみ(長崎県大村市)一泊二食4000円。居酒屋&スナックを併設しているアパートタイプのホテル。朝夕2食ともボリューム、味は申し分ない。部屋にはシャワーのみ。トイレはアウト。この宿に2泊したが、2日目は500円アップで風呂つきの部屋に変更した。☆☆☆☆☆



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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