琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート269 灼熱の九州6日間の旅6 筑豊編

2012.8.2
福岡県大牟田市~みやま市~朝倉市~うきは市~田川市~飯塚市~福岡市


探検レポート269

台風一過の抜けるような青空が広がっている。まるで秋を思わせるような、澄みきった空だ。
6日間をかけた真夏のホーロー旅も今日で終わり。一滴の雨にやられることもなくここまできたのは、酷暑を象徴する今年の夏らしく奇跡的ともいえる。
佐賀市のホテルを後に、朝の渋滞に捉まりながら大牟田市に向かって国道208号線を南下する。
目指すはJR大牟田駅南にある延命公園近くの町名看板である。看板には番地まで書かれているので、ナビに入れた目的地を見間違うはずもない。
クルマから下りて閑静な住宅街をしばらく歩いてみたが、それらしい古い木造家屋を見つけるも看板の姿はなく、すれ違う住人たちにはカメラを提げた私の姿が、どうやら“ヨソ者”か“コソ泥”(笑)に見られている気がして、早々に退散することにした。
町名看板といえども、昨今の看板の消失は加速度的である。
ほんの数ヶ月前の情報でも現地に行ってみたところ消失していたというケースは数多い。“あるべきところにある”看板に遭遇するチャンスはもはや時間との闘いとなっている。
そんな思いのなか、西鉄大牟田線沿いの民家で見つけたコックソースの看板は感動的だった。

探検レポート269

宇宙人を思わせるコックさんのデザインは、以前からカメラに納めたかったアイテムだった。
数年前に投稿者の方から頂いた情報をずっと大事に保管して、この日の対面となったわけだ。
おそらく日本中探してもここにしかないと思うだけに、一枚の看板を求めて遠路はるばるやってきた自分の執念に、ヘンな感動すら覚えるのだった。
さて、朝のすがすがしい青空はいつしか灼熱の炎天に変わり、エアコンを強にしてハンドルを握る。
時間短縮のため大牟田市から九州自動車道に乗り、甘木インターで下りた。
西鉄甘木線と甘木鉄道が乗り入れている甘木の町で町名看板を撮った後、現在はうきは市となった古い町並みが残る吉井町に入るが、7月29日にも訪ねており、ほんの4日しか経ってたっていないのに随分昔のような気がした。
この町では、たばこのイラストが描かれたレアな看板が店内にあるという肥料屋が目当てだったが、目抜き通りにある店は残念なことに今回もシャッターが下りていた。
さて、九州探険もいよいよ終盤である。

探検レポート269

朝倉市から筑豊エリアを北上して博多までのルートは過去に何度も走っているエリアだが、この旅最後のサプライズというか、“ホーローの神様”は私に微笑んでくれたようである。 自販機の飲料を買おうと偶然立ち寄った集落で、木立に囲まれた酒屋の薄暗い店内に、きらりと光るものが目に入ったのだ。
それは資生堂石鹸の看板だった。
店内を覗いてみると、店主らしき女性と近くの農家のおばちゃん風が缶コーヒーを飲みながら井戸端会議の真っ最中。いきなり“ぬうぅぅと”入ってきて、間髪いれずに「看板撮らせて下さい」とお願いする私を見て、二人のおばちゃんの目が点になっていた(笑)。
ともあれ、撮影許可をいただき、日立ランプや塩、マルオー運動靴の看板などを撮らせてもらった。
更に話が弾み、記録紙が和紙でできている大正時代のレジスターや、昭和30年代の菓子の缶が無造作に積まれている博物館状態の店内を見せてもらった。
全くの偶然だったが、こうした看板商店の出遭いは私にとっては至福の瞬間だ。
ささいなことだが、店主との会話も楽しいひと時だ。看板探しをやっていてよかったなぁ、と思わずにいられない。

探検レポート269

看板商店を見つけた反動からか、それ以後の収穫はさっぱりだった。
筑豊三市と呼ばれる田川市から飯塚市を適当に走ってみたが、ほとんど看板を見つけることができなかった。
しかし、五木寛之原作『青春の門』の舞台になった筑豊を象徴する、今は緑の山になったボタ山の景観と、風にそよぐ鮮やかな田園風景を見たとき、6日間のホーロー旅が終わりを告げたことを実感した。
振り返れば、炎天続きだった灼熱の旅も、最後はキラキラと反射しながらやさしく流れる遠賀川に癒されて、幾分涼しく感じる充実した旅に仕上がったと思う。(おわり)
(2012.11.11記)
※画像上/筑豊の風景。抜けるような青空と田園の緑のコントラストが素晴らしい。福岡県飯塚市。
※画像中/キクスイ醤油の醸造元。福岡県田川市。
※画像中/田園風景の中に建つカクイわたが貼られた民家。
※画像下/福岡県朝倉市のレトロな酒屋にあった大正時代のレジスター。記録紙は和紙、実際に昭和の中頃まで使われていたという。



2012年探検レポートへ

Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


琺瑯看板探検隊が行く
SINCE 2005.3.17