ホーローの旅
レポート272 ごちゃまぜミニ探検16 2012年下半期編
2012.9.8-12.22
大阪府大阪市、愛知県常滑市、名古屋市、豊橋市、刈谷市、東浦町、西尾市、静岡県下田市、岐阜県飛騨市
電車やバス、更にその先からは徒歩というスタイルで、のんびりとホーロー看板を探すのが好きだ。
何時間もかけて、一枚のお宝を求めてようやくめぐり合えた感動は、何と表現したらいいだろうか。
心の中で(やったー!)と快哉を叫び、顔は自然にほころんでくる…とでも言おうか。とにかく嬉しいの一言である。
「ごちゃまぜミニ探険」は、“一日一枚”のお宝を求めて歩いた記録もあれば、出張や旅先での福産物としての、お宝との偶然の出会いの記録というのもあったりする。
つまるところ、乱雑に積み上げて、忘れた頃に一定の量が溜まったところでレポートにしているのが“ごちゃまぜ”たる由縁である。
さて、2012年の下半期も、性懲りもなくこうした探険を楽しく実践してきた。
並べてみると、
9/8 大阪府大阪市…新世界で会社の同僚と飲んだ翌日のミニ探険
9/16 愛知県常滑市…「やきものの散歩道」を歩いたついでに
9/25 愛知県名古屋市~常滑市…情報を貰った看板屋敷と常滑市の古い町並み大野を歩く
11/4 静岡県下田市…結婚記念日にカミさんとの小旅行
12/1 岐阜県飛騨市…雪の国道を富山県との県境までドライブ
12/19 愛知県豊橋市~刈谷市~名古屋市…町名看板を求めて東海道本線ウォーキング
12/22 愛知県東浦町~半田市~美浜町~西尾市…雨が上がった後のミニ探険
出動回数は少なかったが、それぞれにユニークな探険ができたと思う。
中でも、カミさんと行った11月の伊豆の旅が印象に残っている。
晴天に恵まれ、予定通り天城峠から城ヶ崎を抜け、のんびりと温泉宿で過ごして、念願の金目鯛を賞味した。
翌日は下田でペリーロード、歴史資料館を見学し帰途に着いたが、とりわけ圧巻だったのは、下田の古い町並みにある酒屋、土藤(ツチトウ)商店との出逢いである。
この店の存在は以前より知っており、ホーロー看板を小ネタにしたブログ等でも確認していた。
今回初めて訪ねたが、明治20年に創業したという店の歴史もさることながら、気さくな女将さんの説明に耳を傾けるにつれ、この商店がタダモノではないことを改めて実感することになった。
全国には、ホーロー看板を自然のままに朽ちるに任せて軒先にぶら下げている店もあれば、盗難防止策として大切にショーウインドウに入れて保存している店もあり、その取扱いやこだわり方は様々だ。
2006年に訪ねた名古屋の餅菓子店の店主は、「欲しいという人がいっぺいいるけど、ぜったいに譲らんわ」と、ペコちゃんの看板をまるで孫娘のように大事に壁に掛けていたし、岐阜県の食料品店のお婆ちゃんは、「こんなんあったわ」と言いながら、裏の倉庫からホコリとクモの巣にまみれたグリコの看板を出して見せてくれた。
ホーロー看板は関わる人それぞれの価値観の違いで、その取扱いは大きく変わる。
全国を旅してたくさんの看板商店を見てきたが、土藤商店は日本一の看板商店であると思っている。
その姿勢は単なる客寄せのための展示物、飾り物として看板を集めて公開しているのではなく、店で販促宣伝に実際に使っていた看板を大切に保管し、店の歴史を伝えていく資料として公開していく努力に志の高さを感じるのである。
看板の中にはカブトビールや燈臺印石油のようにすでに役目を終えたものもあれば、キリンビールやミツカン酢など今なお現役で店の宣伝に一役買っているものもある。
多くの看板が朽ち果てるまま散逸し、更に売買の対象として業者やコレクターの手に渡り、残されたものは塩やタバコの看板と、酒蔵の地酒看板程度となった今、こうした商店が残っていることは貴重である。
当サイトでは飾り看板や展示モノは取り上げない、自然に残されたものを「写し撮る」ことにこだわる…と明言してきたが、土藤商店の蔵に整理されて並んだ看板は、展示や飾り物の枠を超えて、下田の歴史とともに店が辿ってきた足跡を物語る貴重な“昭和の残像”であると判断した。
興味がある方は、伊豆に残された稀有な看板商店、土藤商店を訪ねることを、ぜひお勧めしたい。
(2012.12.30記)
※画像上/静岡県下田。歴史の町並みが続くペリーロードをのんびりと歩く。
※画像中/大阪府大阪市生田区で。このネコは社の番人(番猫)だろうか。
※画像下/愛知県常滑市大野。古い町並みが残る一角に分け入る。
※土藤商店 静岡県下田市三丁目6番30号