琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート274 夏の終わりのハーモニー2 岡山編

2012.8.30
兵庫県姫路市~岡山県備前市~倉敷市~真庭市~津山市


探検レポート274

姫路市網干区。早朝の町並みに、雷鳴がとどろく。
ラジオ体操の出席カードを首に下げた少女が、家路に向かって駆けて行く。
その後ろ姿をシャッターチャンスとばかりにカメラを向けた途端、大粒の雨が落ちてきた。
珍しい“朝の夕立”に遭遇した今日は、夜が明けると同時に動き回っている。
他サイトの情報では、姫路城の南にある農人町や吉田町といった古い町並みがある界隈や網干区で、ホーロー製の町名看板が10枚ほど確認されているが、姫路城付近はもとより、網干区に移動しても一枚も見つけることができなかった。
これには朝から上がったテンションが意気消沈。更に追い討ちをかける雷雨である。
2003年の情報を仕入れても、“時すでに遅し”だったようだ。
兵庫県から岡山県に入ると、雨はいつのまにか上がっていた。 邑久町虫明は瀬戸内の海が複雑に入り組んだ地形にあった。
夏の昼下がり、誰もいない路地を、集落の隙間を縫うように歩く。
海風に誘われたのか、どこからともなく風鈴の音がする。路地の先には、迷い込んだ蟹が僕を威嚇するように、小さなハサミを精一杯振り上げていた。
アスファルトの熱がサンダルの底に伝わる道をしばらく歩くと、昭和の初めに建てられた郵便局の先に、ホーロー看板が貼られたよろず屋があった。
竹細工のカゴが吊された店内に声をかけても返事がなく、仕方なく「十一醤油小豆島」と書かれた看板にピントを合わせ、撮り逃げをした。
ほんの一時間の散歩だったが、のどかなひと時を過ごすことができた。

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虫明からは県道39号線を西に進み、旧長船町(現備前市)から倉敷市を目指す。
何度も訪ねている町だが、まだまだ見落としもあり、美観地区にある醤油醸造元の直売所で、念願だった「とら醤油」の看板を撮ることができた。
虎の縞模様のデザインは、どうしてもあの阪神タイガースを連想してしまう。ホーロー看板にはユニークなデザインも多いが、この看板に関しては、その極たるものではないだろうか。
店のご主人と看板にまつわる話をするうちに手ぶらで帰れなくなってしまい、醤油の4合ボトルを2本抱えてクルマに戻ることとなった。
倉敷では玉島地区で「ひなづる味噌」と「ニッサン石鹸」を探した後、今度は岡山県北部の旧勝山町(現真庭市)に向けて北上する。
ナビを勝山に設定し、後は適当に走るだけである。県道から派生する脇道に迷い込んでは行き止まりに嵌まってしまい、何度もUターンを繰り返しながら、2時間後に旧勝山町に着いた。
勝山は江戸時代に出雲街道の要衝として繁栄し、土蔵や白壁、格子窓の古い町並みが残ることから、昭和60年に岡山県初となる「町並み保存地区」に指定されている。
そんな町並みの平日の午後、観光客もいない閑散とした通りをのんびりと歩いてみた。
しかし、東海道の宿場町がある三重県関や山陰の保存地区・島根県津和野、うだつの町で有名な徳島県脇町と同じく、ゴミ一つ落ちていないキレイな石畳と電柱が埋められた町並みは、“ヘンに整頓”されすぎてなんだか落ち着かない。

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「町並み保存地区」に選ばれると、皆一様にこうなってしまうのか。
厚化粧のために景観をヘンに整備するよりも、同じ金をかけるなら、劣化させないことを前面に出して、現状のままを維持するほうに力を入れてはどうだろうか。
まぁ、そんなことを思いながらも…今は、本業の看板探しである。
しかし、やはりというか、こうしたキレイ過ぎる町並みにはホーロー看板が残っているはずもなく、一枚も見つけることができなかった。
勝山から国道313号線を北上し、旧湯原町に向かう。
湯原温泉で有名な町だが、20年前の冬に大山(1729メートル)登山の帰途に訪れたのが最初で、それから目的を変えて幾度となくホーロー探険で訪ねている。
湯原と聞いていつも思い出すのは、初めて訪れたときのことである。
町の中心を流れる旭川の河川敷にテントを張って、夕食後に山仲間と連れ立って川原にある共同浴場に出かけた。
屋根を葺いただけの混浴の露天風呂には先客が大勢いたが、いずれも男性ばかりで地元の人や湯治客のようだった。
しばらくして、なんとそこに素っ裸のオバサンが、鼻歌交じりにタオルを肩にかけて堂々と入ってくるではないか!「怖いものを見た」というのは、まさにこのことだった。
今となっては笑い話だが、あの時は見てはいけないものを見てしまったという衝撃がしばらく頭から離れなかった(純情だったんですね・笑)。

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そんな思い出が尽きない湯原だが、何度も通ったのにどうしても見つけられなかった物件がある。
他サイトでも取り上げられた地酒の看板をずらりと貼った酒屋であるが、投稿者のろんださんから教えていただき、今回の探険でようやくカメラに収めることができた。
さて、探険2日目もそろそろ店じまいである。休暇を取っている身だが、会社の携帯に着信がないことを確認して、西日に背を向けて米子自動車道から中国道に乗り継ぎ、宿がある津山に向かった。
JR津山駅近くのホテルにチェックインした後、ご当地名物のB級グルメ「ひるぜん焼きそば」が食べたくなって、吉井川に反射する月明かりを見ながら橋を渡り、飲み屋街を目指した。(つづく)
(2013.1.21記)
※画像上/昭和5年に建てられた旧虫明郵便局。夏の昼下がり、日傘をさしたオバサンはどこに行くのだろうか。
※画像中/兵庫県姫路市網干区。雷鳴がとどろき、今にも降り出しそうななか、ラジオ体操帰りの少女が家路へと駆けていった。
※画像中/のんびりとしたけだるい午後、眠たそうな表情のネコが路上でぼんやりとしていた。岡山県備前市虫明。
※画像下/岡山県真庭市勝山。町並み保存地区に指定された勝山地区。武家屋敷や石畳もの風景が続く。観光客もまばらで静寂が支配していた。
※宿泊/アルファーワン津山(岡山県津山市)素泊まり5100円。津山市内のホテルは総じて高いです。周りにコンビにもないのが残念。☆☆☆★★



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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