琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート276 諏訪湖から身延山へ~コスモス街道を行く 前編

2012.10.6
長野県岡谷市~諏訪市~原村~富士見町~山梨県北杜市~甲府市


探検レポート276

九州、東北、近畿と精力的に走り回った喧騒の夏が過ぎ、いつのまにか、北アルプスの稜線にも雪が舞う季節となった。
久しぶりの信州である。この夏、相棒となったプリウスに折りたたみ自転車を積み込み、諏訪湖を望む長野県岡谷市にやって来た。
今回の探険は、甲州街道を諏訪から甲府へ辿り、身延に南下し、清水から開通したばかりの新東名で帰還という、どちらかというとドライブの要素が強い“ぐるっと周遊探険”である。
逆コースで過去にもトライしたルートであるが、目的は岡谷市と甲府市に残るナショナルのホーロー製の町名看板を探すことにある。
町名看板に詳しいTMさんのサイト「悠久の思い出」には、岡谷市で2枚、甲府市で28枚の看板が収録されているが、他にも埋もれているものがあるだろうか。
それともホーロー看板を取り巻く全国の状況に比例して、消失の憂き目に遭っていないだろうか…そんなことを思いながら、やってきたのだ。
どんよりとした雲が湖面に映る諏訪湖畔にクルマを置き、組み立てた自転車で市街地へと続く坂道を一直線に登る。

探検レポート276

…はぁはぁ、ぜぇぜぇ。五十路を過ぎた身体には正直言ってしんどい。 まずはこれまでに確認されている2枚を探してみる。
町名看板は文字通り町名から番地まで所在地が明記された看板なので、その情報どおりに「そこに行けばある」はずなのだが、この考えはちょっと甘い。
区画整理によって建物がなくなっていたり、町名や番地の変更もあり、看板が設置されてから周囲の環境が大幅に変わっていることも多く、地図やナビを駆使しても、スムースに看板の前に辿りつけることはかえって少ないくらいだ。
京都や大阪の仁丹町名看板はまさにその典型で、町名に表示された地名は参考程度にしかならない例はいくらでもある。 しかし、岡谷のナショナル看板は設置された歴史も浅いのか、番地どおりの場所で見つかった。
一枚はすでに消失したようで見つけることができなかったが、それ以外に収穫は3枚あった。
その中の一枚、閉店(?)している商店に貼られた看板との出会いはけっこう感動的だった。
何しろ、ペダルをこいで長い下り坂を駆け抜けたゴールの先に、どんぴしゃのタイミングで目に飛び込んできたからだ。
看板に吸い寄せられたという形容がぴったりで、こんなシチュエーションは、してやったりという感じだ。

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結局、岡谷市ではナショナル坊やのイラストが描かれた蛍光灯と電球バージョンの4枚の看板を見つけて、次に向かうことにした。
諏訪湖に沿って南下し、中山道と甲州街道の起点となる下諏訪町を過ぎると、諏訪大社がある上諏訪の町に出た。
ここで自転車屋の軒先に貼られた「丸石自転車」の看板を見つけたが、それ以外にめぼしいものはなく、大社の大鳥居を横目で見て甲州街道の旧道(県道16号線)を東に向かって進むと、すぐに国道20号線にぶつかり途切れてしまった。
国道を延々と走ったところでお宝にめぐり合えるはずもないので、ここからは脇道に逸れて適当に走ることにする。
原村に入ると緩やかに標高を上げ、八ヶ岳が間近に迫ってくる。沿道にはコスモスが咲き乱れ、刈入れで忙しい田園風景が目に鮮やかだ。
そんなロケーションの中にもお宝は眠っており、山間の小さな集落で、「オンセンマルセル石鹸」の看板を見つけたりもした。
更に、ドライブには絶好の季節である。気ままなひとり旅であるから、カーステレオの検索ボタンを山口百恵の曲に合わせても、「古い曲ばかり聴いて」と、カミさんにとやかく言われることもない。
百恵が明菜になって、最後は由紀さおりやキャンディーズ、太田裕美と続く懐メロ合戦である。
鼻歌交じりに山梨県に入り、白洲町台ヶ原の旧道で「清酒七賢」を造る山梨銘醸の蔵を見学し、少し道草になるが、どうしても立ち寄りたかった北杜市にある商店に向かった。
一昨年に続き二度目の訪問となった酒屋の店内には、レアなお宝があちこちに貼られていた。

探検レポート276

店番のお婆ちゃんは、不意の闖入者の私に対して、亡くなったお爺ちゃんと店を大きくしてきたこと、昭和30年代に鉄砲水の被害で2階まで水に浸かったことを話しながら、最後には「そろそろ、店を閉めようかと思っている」と、寂しそうに笑った。
前回ここを訪ねたときは入口が閉まっており、店内はおろか、少し離れた場所にあるずらりと看板を並べた倉庫にも立ち寄ることができず、泣く泣く諦めた経緯があったが、今回はお婆ちゃんとの会話も含め、うれしいリベンジとなった。
これで気をよくして、今日の最終目的地である甲府に向かう。
カーステレオは1970年代の歌謡曲から一転して、甲斐バンドやオフコース、村下孝蔵に変わっていく。
甲府市の県民文化ホールの駐車場にクルマを置き、自転車を組み立てる。
甲府に残るナショナルの町名看板を2日をかけて探すことにするが、初日の今日はJR甲府駅の南側を中心に探すつもりだ。
甲府の町は、大阪や京都のように複雑に狭い路地が入り組んでいるわけでなく、住宅地の道幅も広くすっきりしており、地図にインプットしたTMさんの発見リストを軸に、若松町、青沼、城東、善光寺に範囲を広げ、日が落ちるまでの3時間で、新規発見のものを含めて23枚を見つけることができた。
また、看板にプリントされたナショナルの家電名も、ステレオ、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、ラジオの6アイテムを発見した。
更に、ホーロー製ではないが、東芝の家電(ステレオ、電子ジャー)がスポンサーになっている町名看板も何枚か見つけたが、いずれも錆と褪色がひどく、最初のうちは喜んで写真を撮っていたが、そのうち面倒になってしまった。
秋の日はつるべ落としだ。看板探しに夢中になって、気づいたときはすっかり暗くなっていた。
筋肉痛の身体を労わりながらクルマに戻り、折りたたんだ自転車を荷台に格納したとき、待ってましたとばかりに雨粒が落ちてきた。(つづく)
(2013.2.8記)
※画像上/長野県原村。八ヶ岳を背景に黄金色の田園風景が続く。
※画像中/北杜市白洲町台ヶ原の酒屋さん。なまこ壁の蔵が歴史を物語る。
※画像中/原村の高原地帯を行く。大型コンバインが唸り、刈入れの真っ最中だった。
※画像下/この日の探険ではコスモスがいたるところに咲いていた。まさに“コスモス街道”を行く旅となった。
※宿泊/ホテル昭和(山梨県甲府市)素泊まり4300円。朝食サービスあり。甲府昭和インターより1分。駐車場は無料。天然温泉の大浴場がうれしい。周りにはスーパーやレストランもある。☆☆☆☆★



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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