琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート279 京都へ~仁丹看板を探せ!年末年始編2

2013.1.4-6
京都府京都市


探検レポート279

年が明けた正月4日、いつものようにJR東海道本線金山駅から米原行きの電車に乗りこむ。
正月休み最後の週末とあって、車内は満員の盛況だ。 思ったとおり米原駅からの乗り継ぎは、ほとんどの乗客が隣のホームで待っている西明石行き快速に乗るために猛然と走り出していた。
青春18切符の期間、毎回繰り返される光景だが、いつか怪我人が出るのではとヒヤヒヤする。
と思うのは、五十路の身体に鞭打って、私もイス取りゲームに参加するためにダッシュしているからだ(笑)。
京都駅に着くと、すぐに駅前のレンタサイクルに向かう。
免許証を出して書類に住所氏名を書き込む。すっかり顔なじみになった女性スタッフに見送られて出発。
早朝に自宅を出てからここまではまったくの流れ作業である。 今回の探検は3日間をかけて京都市内を走り回る計画である。
初日の今日は、京都駅から西側のブロック、細かくは堀川通から西大道通のエリアである。
まずはJR東海道本線と京都線に挟まれたポイントに向かうが、風が千切れるように冷たい。

探検レポート279

厚手のダウンジャケットにリュックサックのいつものスタイルだが、あっという間に鼻の頭が凍えてきた。
天気予報では雪が降るということだったが、黒い雪雲が風に乗って流れてくるのを見ると、雪が落ちてくるのも時間の問題だろう。
今年最初の仁丹看板は、いつも電車の窓から見ていた一枚となった。発見リストにマーキングをし、雪雲が迫ってくるのをひしひしと背中に感じながらペダルをこぐ。
初詣の参拝客に晴れ着姿の女性がちらほらと混じる東寺を潜り抜けると、古い町並みが残る一角に出た。
地図にプロットした通りの位置で仁丹看板を発見。ここまでは幸先が良いスタートだったが、3枚目で早くも躓いてしまった。
源町の一枚がどうしても見つからない。路地から路地へ、目を皿のようにしてぐるぐると回る。
気づいたときには同じところを何度も往き来していた。 この間、一時間のロス。
今回の探検では1日平均40枚を目標に探していくので、深追いは致命傷になる。ロスを気にしながら新幹線と東海道本線の高架をくぐり、梅小路から西七条で看板を撮影していく。
JR山陰本線沿いの朱雀から島原といった界隈は、マンションが並ぶ閑静な住宅地の中に、突然雰囲気がある町家が現れたりして、意外性があって興味深いエリアである。
特に島原遊郭があった一角は自転車で一気にすり抜けるのは勿体ないので、自転車を引いてのんびりと歩いてみた。
そんな雰囲気の中にも仁丹看板はあった。面白いのは木造アパートの階段のフェンスや電柱に貼られているものもあり、地域の中で仁丹の町名看板が大切にされていることを改めて再認識できた。
初日の最後は西ノ京エリアの仁丹を探して、四条烏丸にあるホテルに投宿した。強い風に乗って雪が吹きつけてくる寒い日だったが、57枚の仁丹看板を撮ることができたまずまずの一日となった。


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▼1月5日
夜が明けたばかりのホテルを後にする。
とにかく寒いので、自転車の前で肩を回したり屈伸運動をしたり、毎日欠かさないロングブレスダイエットのストレッチをしてから出発した。
まず向かったのが、先斗町にある看板。これはいわゆる『平成版』といわれる町名看板で、平成23年に再生復活されて新たに貼られた10枚のうちの一枚である。
平成版は字体と仮名遣いに特徴があり、「條」が新字の「条」であったり、「下ル」が「下る」となっているので、錆がまったくないことも含めて、素人目でも案外簡単に見分けることができる。
さて、居酒屋の壁に貼られたこの平成版であるが、前夜、先斗町に飲みに出かけて確認しておいたが、人波でごった返していた狭い路地は早朝とあって閑散としており、カラスがゴミ箱を突いていたり、のんびりと猫が横切っていた。
京都の町は何気ない日常の風景も面白い。
町家が並ぶ一角に近代的なマンションが建っていたり、看板を探して偶然入った通りには千本日活という、今時珍しい成人映画の専門の映画館が現れたりする。
カメラを構えていると、コートを着てビジネス鞄を提げたサラリーマン風のおじさんが、映画館の前で立ち止まって、しげしげとポスターを見ている。
覗き見をしている罪悪感があるが、まさに千載一遇のシャッターチャンスだ。昭和の風景とともに切り撮った。
千本丸太町から北上し、北野天満宮までは京都市内でも仁丹看板が多く残るエリアである。

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これまでにも何度も訪ねているが、撮り残しも多く、今回はリストをチェックしながら探していく。しかし、消失?も多くあるようで、なかなかすっきりと見つけることができなかった。
受験シーズン到来もあって観光客でごった返す学問の神様、北野天満宮の喧騒を抜け、紫野と呼ばれる界隈に入ると、人通りも少なくなり、閑静な雰囲気となった。
上柏野町、中柏野町、下柏野町は集中的に仁丹看板が残っているエリアとして報告されているが、私の探索能力が低いのか、数枚しか見つけることができなかった。
この“マイナス傾向”は左京区の松ヶ崎地区に入っても続いてしまい、一枚も見つけることができないまま、ようやく見つけた「山端河岸町」の看板の前で折り返すことになった。
それでもラッキーな出会いもあった。
新聞店の店先にかかっていた「上京区高野玉岡町」(現・左京区)の看板にカメラを向けていると、店主のおじさんが出てきて、「あんたさん、ラッキーやねぇ、この看板、もうすぐしたら仕舞おうと思っとった」。
おじさん曰く、この看板は盗難対策もあって、毎朝出して夕方には店内に仕舞っているのだという。なるほど、針金で吊るされていた訳が分かった。
探検二日目は昨日の天気から打って変って快晴の一日となった。それだけに広範囲に回れた探検となったが、残念ながら消失や見つけることができなかった看板も多く、再訪を考えざるを得ない中途半端な一日となってしまった。
すっかり暗くなった烏丸通を走り、連泊しているホテルに戻る。
マフラーを締め直してひとり連夜の先斗町に向かうと、土地勘のなさで看板を見つけることができなかった結果をすっかり忘れ、もう、いっぱしの“京都通”になったような気がして、思わず苦笑いをするのであった。

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▼1月6日
ホテルの朝食サービスのハンバーグ弁当を掻き込み、薄暗い町に飛び出す。
今日は帰りの電車が15時なので、ピンポイントで効率よく回ることにする。
まずは四条通と五条通に挟まれたエリアであるが、東西に延びる綾小路通、仏光寺通には多くの看板が健在で残っていた。
特に、ホテルやビルの狭間にひっそりと隠れるようにあった匂天神町の路地には、町家の一角に計算されたように毅然とした感じで貼られた看板の姿があった。
また、京阪丸太町駅の南東、二条通と冷泉通に挟まれた新先斗町あたりは、いかにも下町らしく素朴な雰囲気が実によかった。
鍾馗さんが屋根を守っている町家や、そこだけが時間が止まってしまったように感じる雑貨屋があったり、犬の散歩をのんびりとしているご老人、自転車で駆け抜ける野球少年…そんな風景の中に仁丹看板が輝いていた。
さて、京都の旅もそろそろ終わりである。昨年作った探索リストを片手に走り回った三日間となったが、最後に書き留めておきたいことがある。
これまでの我が人生、数々のへまをやって生きてきたが、新しい年が明けたばかりの京都で、忘れられないような失敗をしてしまったのだ。
清水寺から京都駅までの区間で、背負っていたリュックを路上に置き忘れるという、それもリュックサック丸ごとの忘れ物をしてしまった。
レンタサイクルを返しに京都駅に着いたときに、背負っていないことに気づいたというどんクサさなのだ(大汗)。
どこで忘れたのかも思い出せないまま、リュックを背負っていないことにも気づかないまま、祇園で昼飯を食べたあと、ホーロー看板を探して写真を撮りながら、京都駅まで2時間近く走ってきたのだからお笑いである。背中が軽かったのにそれに気づかないなんて、どうしようもない。

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京都駅にある交番で遺失物の届け出をしたときに、内容物を聞かれて、リュックの中身を思い出してみると、着替えとか折りたたみ傘とか、文庫本、メガネ、カメラの充電器くらいだったので、金目のものもないし、まぁ、しゃあないかと思って交番を出たが、電車に乗ってから、会社の携帯電話がリュックの中に入っていたことを思い出した。
一瞬にして真っ青。それからが大変。自宅に帰るなり、電話会社に使用差し止めと遠隔ロックを要請し、会社の管理担当に連絡し、立ち寄ったラーメン屋やコンビニに電話確認したり(いずれもなかったけど)、…へとへと状態に。
あれから二か月が経過したが、警察からは何の連絡もないまま桜の季節を迎えてしまった。
2013年の年の初めのホーロー探検は、後味が悪いスタートとなった。
(2013.3.24記)
※画像上/誰も歩いていない早朝の先斗町。猫がのんびりと路地を横切る。
※画像中/千本日活近くで見つけた街灯。傘のデザインが古都・京都らしくセンスを感じる。
※画像中/京都市下京区松原通藪下あたり。狭い路地の風景。京都独特の長屋がある。
※画像中/千本日活劇場。昭和の匂いが色濃く残る一角に成人映画館があった。モノクロに加工すると、さらに昭和を感じる。
※画像中/上京区で見つけた路傍の大日如来像。
※画像下/東山安井交差点にある「元祖特急ラーメン寛」。麺が柔らかいのが気になるが、それなりに美味。大盛700円
※宿泊/チェックイン四条烏丸 素泊まり3800円。2012年12月にオープンしたばかりのホテルとあって。オープン価格で宿泊できた。朝食サービスあり。☆☆☆☆★



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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