琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート284 札幌から夕張へ、北の国のワンディ探検

2013.5.18
北海道札幌市~栗山町~夕張市~安平町


探検レポート284

札幌で仕事が終わった週末、レンタカーで夕張を目指すことにした。
つい半年前までは、北海道で再度の看板探しが実現するとは思ってもみなかった。これも仙台への赴任があってのことだ。
担当が広大な東北と北海道でなければ、出張ついでの探検など到底望めなかった。 しかし、それは公私の私。仕事と遊びを使い分けてこそ、身銭を切っての探検が生きるということだ。
まずは札幌市内で町名看板を探すべくハンドルを握った。札幌の道路は一方通行の広い道が碁盤の目に区切られており、目的地を目指しても、通りを一本間違えると結構大変である。
ようやくたどり着いたレトロな商店は、高層のマンションや建物に埋もれるように建っていた。
燃料店のようだが、まだ現役で営業している。「10か月払いの二見屋」がスポンサーになった町名看板は見上げないと確認できない二階の軒下にあった。
「北海道博記念」のロゴが入っていることから、博覧会が開かれた1958年(昭和33年)の看板であると推定できる。
札幌市内には同じデザインの町名看板を見ることができるが、ホーロー看板の歴史を紐解いてもその歴史は新しい。
戦前に貼られた京都の仁丹町名看板とは比べることもできないが、昭和30年代前半から競って町名看板を掲げた東京や名古屋の看板と同じく歴史は浅い。
しかし、その看板も札幌市内では数枚を残すのみとなっている。看板が貼られた建物が次々と消えていき、今では見るからにレトロな、周りから浮いているとしか見えない建物にしか残っていない有様となった。

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そうした意味では貴重な看板といえる。町名看板が無味乾燥なスチールのプレートにとって変わった現在、今は閉じてしまった旅館や小売店のスポンサーが入った看板には、レトロなデザインからくる温かみを感じずにはいられない。
今後も風雪に耐え抜いて残ってほしいと願う。
午後を回り、クルマは札幌を離れて厚別町から栗山町へ向かう。
途中に立ち寄ったJR函館本線厚別駅近くには、「キタニホン毛糸テックス」や「キングトリスガム」の看板が貼られた小屋があった。
よく見ると看板は四方をネジ留めされており、車窓から見えることを意識して一箇所に集めたのではないかと思うが、その真相は分からない。
栗山町に入ると、いかにも北海道だ!!といった広大な風景が広がった。トラクターのわだちの跡が伸びた、開墾されたばかりの畑の彼方には夕張岳の稜線が遠くに霞んでいた。
二度目の訪問となるが、「清酒北の錦」を造る小林酒造に立ち寄ると、ちょうど酒蔵資料館が開放されており、酒蔵内部と併せて、無料で見学することができた。
ここで北海道酒造組合のロゴが入ったベンチや、工場でよく見かける「無断出入を禁ず」と書かれた標語看板をゲットできた。
いつも思うが、酒蔵に立つ時、そのピンと張りつめた空気と、神聖な場所からくる独特な緊張感を感じずにはいられない。繊細な酒造りの工程が、それを醸し出しているのかもしれない。
さて、北海道のワンディ探検もいよいよ終盤である。夕張市に入ると、国道沿いの路肩には雪の残骸が高く積まれていた。
それだけでも寒々しい光景だが、更に追い打ちをかけるような今にも落ちてきそうな曇天と冷たい空気が、ホーロー探検への意気込みを奪ってしまう。

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2007年の財政の経営破たんから6年経っているが、終着駅の夕張駅ではほとんど人を見かけることがなかったし、土曜日だというのに、炭鉱博物館の広い駐車場にはクルマが一台もなかった。
また、うわさに聞いていたシネマロードという町のメインストリートには、あまり上手とはいえない名画の看板が掲げられた建物が並んでいた。いくら町おこしとはいえ、これで人を呼べるとは思えない。
山田洋二監督作品『幸せの黄色いハンカチ』(主演/高倉健 1977年公開)では、炭鉱景気で活気があった夕張の町が描かれており、フィルムのなかには金鳥や東芝ラジオのホーロー看板が映っている屋敷も確認できた。
しかし、映像の記憶をたどって車を走らせてみても、看板を一枚も見つけることができなかった。何よりも迫ってくる閑散とした雰囲気に、ただ唖然とするばかりだった。
夕張市の一端をほんの少し垣間見ただけだったが、ホーロー看板はおろか、何も収穫がないまま、町を後にすることとなった。
夕張からは安平町を経由して千歳空港までの道を走った。途中の国道沿いで、北海道の看板の定番ともいえる「男山」と「オヤコわた」が貼られた屋敷を見つけた。
広大な北海道の景色に、まるでパズルのピースをはめ込んだようにすっぽりと同化していた。
春を待つ灰色の景色が緑一色に染まる夏、夕張への再訪を含めてもう一度訪ねてみたくなった。
(2013.8.14記)
※画像上/栗山町。トラクターのわだちの跡が伸びた、開墾されたばかりの畑の彼方には夕張岳の稜線が遠くに霞んでいた。
※画像中/栗山町。「清酒北の錦」を造る小林酒造。この日はちょうど酒蔵資料館が開放されていた。酒蔵の中にはには酒を蒸留するタンクが置かれていた。
※画像下/夕張市のシネマロード。洋画や邦画のレトロな看板が並ぶ。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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