琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート287 6月の北海道へ、二つのホーロー探検

2013.6.5、6.9
北海道佐呂間町~遠軽町~上川町、伊達市~洞爺町~八雲町~森町


探検レポート287

▼6月5日/JR石北線に沿って
「ひゃっ、ほっぉぉぉ~」思わず声が出た。
遠軽に向かう国道の、三叉路での出来事である。
突然僕の目に、「ミツカン酢」を筆頭に雑多な看板が貼られた屋敷が飛び込んできたのだ。
これを喜ばずにはいられない! これ以上ないくらい爽やかな6月の一日、出張先の北見市から旭川市まで、会社の同僚が運転するクルマで移動することになった。
その距離、約150キロ。3時間の行程である。
国道242号線を北上し、遠軽からは333号線、そして上川から39号線を経て旭川へ。どこまでも続くJR石北本線に沿って行くルートである。
仕事とはいえ、こうなると気になるのは車窓の風景、いや、ホーロー看板の姿である。もっとも“公私の公”の時間だから、看板を探すのはもってのほか。
でも、偶然目に飛び込んでくる予期せぬお宝たちは仕方がない。悪いのはお宝たちだ(笑)…と、勝手に屁理屈をつけて、ちゃっかりとカメラに収めながらのドライブが始まった。
北見市から約1時間、最初に見つけたのがミツカン酢の看板が貼られた屋敷だった。同僚に断わって、すかさずシャッターを切った。
車内では仕事の話をしていくが、佐呂間町から遠軽町に入り、「富士ヨットトレーニングパンツ」や「横綱印わた」の看板が現れると、しばし中断。

探検レポート287

「ごめん、ちょっと写真撮っていい?」
一瞬の間見せる、(仕方ないなぁ)という彼の表情を僕は見逃さない。
それでもすぐにすぐにうれしそうな顔になる正直者だ。
タバコ好きな彼はクルマを路肩に寄せて、早速、紫煙をくゆらす。彼にとっても、僕の“看板タイム”は、文字通り“一服タイム”になるからまんざらじゃないようだ。
こんな感じで、蛇行を繰り返す黒光りするレールを横目で見ながら、新緑の中を縫うように遠軽から上川に向かって走った。
私の期待に応えるように、無人駅のホームから見える「コドモわた」や「清酒男山」の看板が思い出したように現れては、視界から消えていった。
運転を交代した頃には、仕事の話も切り上げていた。
そして、この春から一緒に仕事をすることになった彼の話にいつしか耳を傾けることになった。
家族のこと、趣味のこと、更に、退職してからの人生設計…。話は尽きることがなかった。
お互いの人生で仕事を通じてのごく短い時間かもしれないが、彼との出会いは決して一期一会にはならないはずだ。
しかし、看板との出会いはいつもこれが最後の見納めと思っている。これまで何度も経験しているが、次に訪れた時には姿を消していることがしばしばだからだ。
一期一会のお宝の姿を、その風景もろとも切り撮って、カメラに収めるのは僕に託された仕事なのだ。
とっぷりと日が暮れた旭川の町に入るまで、一期一会の意味=一生にただ一度の出会いを大切にするべきだという…その意味を改めて考えた。
ほんの短い時間だったが、いつになく満ち足りた旅となった。

探検レポート287

▼6月9日/JR函館本線に沿って
“公私の私”の週末、予てからの計画を実行に移す時が来た。
新千歳空港からレンタカーを駆って森町まで往復する500キロの日帰り旅である。
JR函館本線の車窓から見える看板屋敷はこれまでの函館出張で場所を確認し、すでに地図にプロット済みだ。
あとは現地に行って撮影するだけ…と、計画段階ではうまくいく予定が、結果はさんざんだった。
電車の車窓から確認できた看板が、クルマで探すとなるとなかなかうまくいかない。目的地に着いてるはずが、どうしても見つからない。
広大なトウモロコシ畑で右往左往し、線路脇の立ち入り禁止の金網に阻まれて、どんどん時間が過ぎていく。気持ちは焦るばかりだった。
こんな感じで、伊達市、八雲町、森町の看板屋敷を撮影した。発見することができなかった屋敷を入れると、勝率8割といったところだが、まぁ、これも仕方がない。
そんな中で「真珠漬」が貼られた屋敷は圧巻だった。
「真珠漬」は三重県伊勢市にある真珠漬本舗の銘産品で、おそらく三重県の人で知らない人はいないほど有名だ。
看板は地元三重県を中心に、東海地方、関西、中国地方まで幅広く貼られているが、関東以北ではこれまで見かけたことがない。
そんな商品の看板が、なぜ遥か遠い北海道にあるのか?これだけでもすごいミステリーである。
「伊勢紀州路へどうぞ」というコピーは、北海道からも観光客を集めようとした企業努力の名残りだろうか…そんなことを想像するだけでも、この看板に出会ったことは大きな収穫だった。

探検レポート287

また、函館市に近い森町では、「真珠漬」以外にも3軒の看板屋敷を見つけた。
夏草に埋もれるようにたたずむ孤高の屋敷は、強いオーラを放っていた。
今は朽ちるに任せる無人の屋敷も、往時は旅行く人の目を和ませていたのだろうか?
テレビがまだ普及していない時代から企業の宣伝の一翼を担った看板たちが、今、その使命を終えようとしている。
振り返ると、数枚のお宝を撮影するためひたすらハンドルを握った往復500キロの旅は、腰痛が再発するほどのずいぶん無茶なチャレンジだった。
しかし、自分とっては記憶に残る旅に仕上がったと言っておこう。
(2013.10.19記)
※画像上/JR石北本線旧白滝駅から遠軽方面を望む。一直線に線路が続く寂しげな風景だ。
※画像中/東藻琴芝桜公園に立ち寄る。網走郡大空町東藻琴。
※画像中/JR函館本線に沿って森町に入ると、駒ヶ岳が間近に迫ってきた。
※画像下/森駅名物「いかめし」3個入りで525円。当日限定の商品。新鮮で旨い!



2013年探検レポートへ

Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


琺瑯看板探検隊が行く
SINCE 2005.3.17