琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート293 北三陸じぇじぇじぇ~旅 後編

2013.9.8
岩手県久慈市~普代村~田野畑村~山田町~宮古市~岩泉町~盛岡市


探検レポート293

2020年の東京オリンピックの開催が早朝に発表されると聞いて、夜が明けきらぬ時間に目が覚める。
開催が決まった瞬間、誰もいないホテルの部屋でこぶしを突き上げて、思わず「やったー!!」と叫んでしまった。
オリンピックの喜びはともかく、久慈で迎えた朝は、季節外れの冷たい雨が降る空模様だった。
雨具を身に着けた観光客で溢れるロビーを後にする。
おそらく、NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』に便乗したツアー客だろうか。せっかくここまで来たからと、北限の海女の素潜り実演がある袖ヶ浦海岸へ行くことにも食指が動いたが、早朝ということもあり、観光はきっぱりと切り捨て国道を南下することにした。
雨の日の撮影はやっかいである。閉鎖された木造の郵便局に残っていた標語看板や、「コドモわた」の組看板は濡れるのもいとわず素早くシャッターを押した。
レンズに水滴が付き、曇ってしまうと更に面倒だ。撮影してはレンズを拭いていく繰り返し作業となった。
久慈から宮古間の71キロを結ぶ三陸鉄道は2011年の東日本大震災で不通となったが、現在では区間運転が行われている。
リアス式海岸の縁を走っていく、その鉄道を追っかけるように“一人探検隊”のクルマは南下していく。

探検レポート293

北三陸を代表する景勝地である田野畑村の鵜ノ巣断崖は、標高200㍍のリアス式海岸に断崖絶壁が続く景観である。
袖ヶ浦はパスしたが、鵜ノ巣断崖はぜひ訪ねたかった場所である。
誰もいない断崖に立ち、大きく息を吸い込むと、吹き抜ける風に心が透き通っていく。
実は、田野畑村を訪ねるのは二回目だ。大学一年の18才の夏、当時の宮古駅からJR田老線を乗り継ぎ、バスで北三陸を巡った。
今ではすっかり忘れてしまったが、田野畑村の民宿に泊まって海岸の地質調査をしたことを思い出した。
あれから35年以上経っているというのに、北三陸の風景はそんなに変わっていないような気がした。
「虫さされかゆみムヒ」の組看板は、北三陸らしいいかにも寒村といった小さな集落にあった。これまでに何枚も見つけているが、組看板として欠落なく残っているは珍しい。
午後を回り、宮古市を通り抜けJR山田線沿いを更に南下していく。
山田町で折り返して看板を探してみるが、醤油やソースの看板が貼られた商店を見つけただけで空振りに終わった。
山田町には投稿者のゐゑをさんに教えていただいたレアもののクスリ看板があるはずだった。
これはGoogleマップのストリートビューでも確認しており、撮影を楽しみにしていた看板だったが、現地に行ってみると看板が貼られていたはずの民家は跡形もなく消えていた。

海から目と鼻の先の民家があった一角は、震災で根こそぎ津波にもっていかれたようだ。今更ながらに震災被害の甚大さを感じる一コマだった。
山田町から宮古市に戻り、森の中に埋もれているような茂市の町を経由してJR岩泉線に沿って北上していく。
2007年の探検でも訪ねているので土地勘はあるが、探し方が甘かったのかモレがあり、岩泉町の山中の小さな集落で情報を辿って見つけた看板商店は“掃き溜めに鶴”のような存在感があった。

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民宿を兼ねた商店の軒下に、ずらりと並んだ看板はどれもレアモノ揃いで、2006年に廃業した盛岡市の岩手川酒造の「銘酒岩手川や「うまい酒雄渾」「うまい酒勇躍」が貼られていた。
同社が昭和28年から45年まで浜藤酒造と名乗っていた時代の看板であり、ざっと見積もっても40数年前の看板だということが分かる。
また、「流行の店コロンブス靴クリーム」や「ペリカンバケツ」は、ホーロー看板らしいクラッシックなロゴとデザインが素晴らしかった。
おそらく岩手県を代表する看板商店かと思うが、岩手県の山中でこうした店が現役で残っていること自体、まだまだ日本も捨てたもんじゃないと思う。
二日間に渡って岩手県を旅したホーロー探検も、ゴールの盛岡市に入ったときは、突然、喧騒の中に放り込まれた気がした。
北三陸で見た荒々しい景観や、稲穂が垂れ始めた田園風景は何だったんだろう。
ほんの数時間の移動でコンクリートの町に放り込まれ、新幹線に乗り込む自分は、すでに時間を気にして生活する人間に変わっていた。
北三陸の、時計も見ずに過ごした二日間が、実に気持ちの良い二日間になったと思う。(おわり)
(2014.1.26記)
※画像上/田野畑村の「鵜ノ巣断崖」。北三陸を代表する景勝地。駐車場(無料)から徒歩10分ほどで展望台に着く。赤松林の中に遊歩道も整備されている。この日は観光客の姿もなく、貸し切り状態だった。
※画像中/旧新里村(現・宮古市)の風景。山間の土地に小さな田園風景が現れる。
※画像下/田野畑村の中心部の町並み。祭りが近いのだろうか、紅白の垂れ幕が下がっていた。
※宿泊/久慈第一ホテル 素泊まり5300円。競争がないのか、パフォーマンスの割には価格は高い。部屋は清潔だが、近くにコンビニがあればなおいい。☆☆☆★★



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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