ホーローの旅
レポート297 年の終わりの京都仁丹探検
2013.12.29-30
京都府京都市
きらびやかな正月飾りが構内にディスプレイされた京都駅は、いつもどおりの喧騒と雑踏でごったがえしていた。
レンタサイクル店に向かう道すがら、京都特有の肌を刺すピリッとした冷気に触れると、なんだか自分の古巣に戻ってきたようで、懐かしい気持ちがこみ上げてくる。
仙台に赴任する直前の3月、自分なりに仁丹看板探しの最終章と位置づけ京都を目指したが、結果的には未確認看板を100枚以上残して京都を去ることになってしまった。
こうなると、仙台にいても京都への気持ちが募るばかりで、暇さえあれば地図を開き、まだ見ぬ未発見の仁丹看板情報を集めて来るべきチャンスを待っていた。
▼12月29日
厚手のダウンジャケットと手袋、毛糸の帽子といういつもの“京都バージョン”の出で立ちで、ペダルをこぎだす。
駅前のイオンは年末の買い物客で溢れ、さらに大きなキャリーケースを転がす外国人観光客の間をすり抜けて走る。
まずは下京区九条だが、何度も訪ねているにも関わらず未発見の看板が2枚あり、ずっと気になっていたエリアである。
1年前に作成した未発見リストを開きながら看板に表示されている住所を読み込む。「西九條藤木町」はすんなりと発見、「八條源町」は入り組んだ民家の密集した一角にあった。
ともあれ、積年の宿題を片づけたようで幸先の良いスタートだ。
探検初日の今日は下京区を中心に未発見看板を探すつもりなので、リストを確認しながらピンポイントで看板があるべき場所に向かう。
といっても、目に触れる看板もすべて撮影していくので、時間的な効率は落ちるが、これは看板の生存を確認し記録する作業しても重要である。
消失や流失が加速している京都の仁丹町名看板は、定点観測をすることによって、最小限の“保護活動”に結びつくものだと思っている。
また、仁丹ばかりでなく、京都には「火の用心」や「駐車禁止」といった標語看板も町家の入り口にさりげなく貼られている。
同じ「火の用心」でも微妙に字体が違っており、こうした看板を見つけるのも京都で探検をする楽しみである。
この日は薄暗くなるまでペダルをこぎ続け、その甲斐があってか15枚の未確認看板を見つけた。
また、3枚の看板の消失も確認することができた。黒光りする町家の板壁にある白く残った看板の痕を見ると、残念でならない。
ともあれ、足繁く京都の町に通うことによってこうした変化を見つけることができるのだ。
消失という残念な結果もあるが、「下松屋町通丹波口下ル丹波街道町」のように、リフォームによって貼り直されたのだろうか、以前確認した時よりも看板の位置が微妙にズレている現象も確認している。
ここまで来ると仁丹看板への自身のこだわりも、オタクを通り越してマニアックな域に差し掛かったと自負しないでもない。
いずれにしても京都の仁丹看板は、それだけ奥が深い楽しみだと言っておこう。
▼12月30日
今日も晴天だが、底冷えがきつい。“京都バージョン”の装束に、昨日は使わなかった毛糸のマフラーを追加する。
京都に泊まる場合、いつもはリーズナブルなホテルや町家の旅館と決めているが、ボーナスも出たことだし、今回は少し奮発して四条室町にあるビジネスホテルに泊まった。
また、通りを隔てたホテルの正面の町家には仁丹の町名看板があり、これが未確認モノだからうれしい。
「室町通蛸薬師下ル山伏山町」の看板は過去に何度もこの通りを歩いているのに、私の目をすり抜けてきたいわくつきである。
接近した隣のマンションの外壁と、排水パイプが邪魔しているとはいえ、町家の軒下の看板になぜ気づかなかったのだろう。
決して難易度が高いとは思わないだけに、こうして見つけることができない看板はまだまだたくさんあることを改めて実感した。
さて、二日目の探検は上京区を中心に御所から紫野まで広範囲に回るコースだ。脚は筋肉痛、背中や腰はぎしぎしと悲鳴を上げているが、これも京都探検のセオリーである。
大げさに言えば、生きていることを実感する楽しみなのだ。 仁丹の看板を探すことは、傍から見れば何の足しにもならない行為と映るだろうが、当の本人からすればいたって真面目に楽しく取り組んでいるわけだ。
また、京都で仁丹の看板を撮影していて、これまでに一度も住人から咎められたことがないこともうれしい。
地方の集落や商店では撮影拒否にあったり、怪訝な目で見られた経験をしてきたが、京都ではむしろ好意的に見られることもあるくらいだ。
同好者が多いこともあるが、「どうぞ、どうぞ」と、もちろん、撮影許可もふつうにいただける。
町の歴史と共に、仁丹の看板がそれだけ地域に根差しているからなのだろうと思う。
この日は夕方までに21枚の未確認看板を撮影した。これで、京都市内に残る未確認看板は69枚となった。
消失確認ができていない看板も100枚近くにあり、まだまだ宿題が残る。それだけに次回も京都に行ける楽しみができたと思う。
あと一日で2013年も終わり、そして単身赴任2年目を迎える。
今回は帰省の隙間をぬっての京都だったが、今年最後のチャレンジを楽しく、気持ちよく締めくくることができた旅となった。
(2014.5.18記)
※画像上/下京区本町一丁目あたり。京都らしい町家が並ぶ一角。
※画像中/正月準備の買い物客でにぎわう上京区出町商店街。
※画像中/八坂五重の塔へ向かう途中にある八坂庚申堂。女性の参拝客が多い。
※画像下/『ラーメン横綱五条店』定番のラーメン(大盛750円)は、京都ラーメンの特長を十分備えたスタイル。麺が柔らかいのを除けば、満足のいく一杯。
※宿泊/ヴィアイン四条室町 素泊まり4600円。町家が密集する一角にありますが、仁丹探検の基地としてはうってつけの立地。年末年始キャンペーンで激安だった。☆☆☆☆☆