ホーローの旅
レポート300 ぐるり山形、看板屋敷の旅 前編
2014.4.26
山形県山形市~天童市~新庄市~鮫川村~真室川町~金山町~遊佐町~秋田県象潟町
季節はすっかり春真っ盛りである。
仙台はとうに散ってしまったが、各駅停車の車窓に流れる、山形城址のお堀に花びらを落とす桜は満開だった。
微かに漂う桜の甘い香りを感じながら、山形駅前からレンタカーに乗り継ぐ。
最初に向かうのは北山形駅近くにある屋敷。
これまでの山形詣でで「サンスワロー服」の逆三角形の看板を民家の壁に見つけていたが、目星をつけて探してみるも、空振り。しょっぱなから1時間のロスをしてしまった。
ここからは県道22号線を北上していく。天童市に入ると、ちょうどオープンしたばかりのイオンショッピングセンターの渋滞に捕まり、今日の行程を考えて焦ってしまう。
今回のコースは、2月から3月にかけて青春18きっぷで旅した時に見つけた看板屋敷をクルマで拾っていくチャレンジだが、移動距離もあり効率よく回らなければ、宿泊地の鶴岡市に到着するまでにいくつかの物件をパスすることになってしまう。日没までが勝負なのだ。
新庄市に入り、県道を離れて偶然入り込んだ小さな集落で、「庄慶香油」の看板を発見。
1913年創業の仙台市のメーカーだが、現在は不動産業を商っており、もちろんこの商品は今はない。
青地と赤地の2色があり、東北地方でこれまでに3枚見つけている。
これで気を良くして、新庄市の中心部からJR陸羽西線(奥の細道最上川ライン)沿いにハンドルを握る。
無人駅のホームから、ふきのとうが顔を出す踏み跡を辿ると、真っ赤な「ムヒ」の看板が貼られた屋敷が2軒並んで視界に入った。
3月の旅で見つけた物件だが、その時は一面真っ白で、深い雪に埋もれた風景が印象に残っている。
再び新庄駅に戻り、今度はJR奥羽本線に沿って北上していく。 新庄駅から真室川駅の区間は、多くの看板屋敷が残る指折りのエリアだ。
全国でも北海道の旭川~美唄間の函館本線、米原~大津間の琵琶湖線、熊本~八代間の鹿児島本線沿いなど看板屋敷が多く残っている区間は数あるが、東北地方を代表する密度の高さだと思う。
中でもJR陸前豊里駅前にある屋敷は素晴らしい。東北地方では初見の「オゾ」の組看板や、定番の「ボリショイ菅公学生服」の菱形看板等5枚が、横並びの母屋と倉庫に貼られている風景は圧巻である。
また真室川駅近くでは、巨大な山門に大わらじが下がり、青く彩色された仁王像が安置されている正源寺を横目に見て踏切を渡ると、単発ではあるが「菅公」や「ジューキミシン」の看板が狭い区間に連続して貼られていた。
田植え前の水が貼られたばかりの田んぼに頼りなく続くあぜ道を辿り、線路の向こう側に見える一軒、一軒をズームで切り撮った。
真室川駅からは金山町に寄り道した後、鮭川村の羽根沢温泉まで足を延ばした。
ひなびた小さな温泉街を歩くと、昭和の時代に紛れ込んでしまったような錯覚を覚えた。
東北にはそれこそ星の数ほど温泉場があるが、これまでほとんど湯に浸かうこともなく過ごしているのはずい分勿体ない気がする。
東北に来て1年、単身赴任の時間はあっという間に過ぎていきそうだ。
効率よく物件を回りながら走った甲斐があって、鳥海山の雄大な姿を望みながら、日没寸前に県境を越えた秋田県象潟町に入ることができた。
ここにはJR羽越本線の車窓から見つけた金鳥ペア4枚貼りの屋敷があり、今回の旅でどうしても訪ねたかった物件だが、目測を誤ってクルマを置いたスペースから1キロ以上歩いてカメラに収めることになった。
まさに日没との戦いで、西日がまぶしく、更に庭木も邪魔して中途半端なアングルとなってしまった。
雪景色の中で見つけた時は、まるで額の中に収まった一枚の絵のようで感動もしたが、季節が変わるとインパクトも薄れてしまう。
またのリベンジを約束して、ひっきりなしにクルマが通り過ぎていく国道を横目に、帰路の1キロをとぼとぼと戻った。
すっかり暗くなった国道7号線を南下し、酒田市を通り越して、今夜のねぐらの鶴岡市に向かった。
国道沿いとはいえ、信号の明かりしかないような薄暗い郊外にあるホテルが見えてきた頃には、空腹と運転疲れがどっと出てきた。
ドライブ気分はとうに薄れ、カーラジオから流れる懐かしのフォークに合わせてハミングする気力もなくなっていた。(つづく)
(2014.7.12記)
※画像上/JR真室川駅近くにある正源寺。山門には2体の仁王像が安置されている。青く彩色された姿は迫力十分。
※画像中/季節は春真っ盛り。ふきのとうが顔を出していた。※画像中/山形県金山町。山間の町には古い民家や白壁の蔵が軒を並べる。情緒豊かな町である。
※画像下/秋田県象潟町と県境を接する山形県遊佐町は鳥海山のふもとに広がる町。雪を抱いた鳥海山と桜の堤に泳ぐ鯉のぼりが絵になる。
※宿泊/ホテルアルファーワン鶴岡 素泊まり4100円。競合も少ないエリアなのか、パフォーマンス性の割に宿泊料は高い。☆☆★★★