琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート301 ぐるり山形、看板屋敷の旅 後編

2014.4.27
山形県鶴岡市~西川町~米沢市~高畠町~上山市~山形市


探検レポート301

作家、藤沢周平の小説の舞台になった海坂藩(架空の名称)は、鶴岡市がモデルといわれている。
市内のあちこちには遅咲きの桜が彩を添え、落ち着いた雰囲気を醸している。
藤沢文学の雰囲気を感じながら、随所に古い家屋が残る早朝の城下町をゆっくりと走ってみるが、看板探しは空振り。
唯一、鶴岡市内で醤油や地酒の看板が貼られているという情報を得ていた酒屋も、早朝とあって、残念ながらシャッターが下りていた。
気を取り直して羽前大山駅近くにある酒蔵に向かう。
羽根田酒造㈱は1592年創業の歴史がある蔵で、代表銘柄は「羽前白梅」。
酒蔵の前に立つと、目当ての看板は労せずに見つかった。小さな短冊タイプだが、デザインもシンプルで良い。
羽前大山駅から北に広がるエリアには古い家屋が軒を連ね、ホーロー看板の棲息地としてもそそる雰囲気があるが、木製の牛乳箱を見つけたくらいで収穫はなく、鶴岡市周辺の探検はここで切り上げて、米沢に向かうことにした。
鶴岡からは山間の小さな集落を拾いながら国道112号線を南下していく。

探検レポート301

月山湖から更に南下すると大井沢という小さな集落があり、4月も半ばだというのに深い雪に覆われていた。
標高が高いのだろうか、まだまだあたりは冬の装いであった。期待した看板はなかったが、ここまで訪ねる手間も看板探しの醍醐味である。
また、月山湖から東に入った西岡の集落は満開の桜並木。小高い丘から俯瞰すると、集落全体がピンクの世界に埋もれているように見えた。
更に国道を東に下ると、寒河江川の河岸段丘に広がる西川町の中心部に出たが、ここには規模は小さいながらも酒蔵や商店街があって、なかなかの雰囲気。
民家の倉庫の陰にレアな看板を見つけた。“にきび、吹出物、ただれ”のロコがレトロな「クリームセーフ」の看板は初見。
セーフは赤と黄色の看板を見つけているが、黄色地は2010年に群馬県で見つけて以来である。
米沢市に入ってからは、3月の探検時に車窓から見つけた鉄道沿線の看板屋敷の撮影に切り替えた。
その前に、米沢で有名な看板商店の定点観測をする。 GW前半の休日とあって、商店の前の国道は切れ目がないほどの交通量。クルマの列が途切れるのをひたすら待ってシャッターを押した。
インパクトがある金鳥ペアに、「フマキラー」「アヅマ紙袋」というレアな看板が貼られた商店は雰囲気十分だ。
あいにく休業だったが、前回の訪問時に撮影できなかった店舗の側面にある「蘭月」18枚貼りをカメラに収めることができた。

探検レポート301

さて、ここからは3月の青春18きっぷの旅で下見をしておいた看板屋敷探しである。
まずはJR奥羽本線関根駅付近にある屋敷。「ロックペイント」「ジューキミシン」「赤玉フトン袋」の3枚貼りだが、これは電車の車窓から位置を確認できていたので、すんなりと見つけることができた。
「赤玉フトン袋」はこれまで全国で何枚も見つけているが、ホーロー加工が甘く錆びついたものが多かったが、この屋敷の看板は退色もなく鮮やかに残っていた。
関根駅から大沢駅に向かって南下し、「トーア毛糸」「菅公学生服」「サンスワロー服」が貼られた小屋に向かう。
杉林に続く道から外れると、いきなりぬかるんだ泥に足を取られた。新調したばかりのスニーカーは泥だらけだ。
小屋は3月に車窓から発見した時は豪雪の中に埋もれるように見えていたが、実際に近づいてみると思った以上に小さく、まるでジオラマか箱庭用に作ったミニチュアのようであった。
ここで踵を返し、JR奥羽本線を北上し、高畠駅を目指す。
「ムヒ」「富士ヨット学生服」「ボリショイ菅公学生服」が貼られた屋敷は高畠駅から至近にあった。
当サイトの基準ではメジャー系のホーロー看板が4種類以上貼られている物件を看板屋敷として定義しているが、この屋敷はロケーションもよく、3枚貼りとはいえ、看板屋敷の風格を備えている。
特に「ムヒ」の組看板は欠落もなく貴重だ。こうした屋敷が2014年の今日に残っていること自体が素晴らしいと思う。

探検レポート301

高畠からはJR奥羽本線に沿って北上し、3月の旅で確認していた羽後中山駅付近にある看板屋敷を撮影。
「トーア毛糸」と「トヨタ毛糸編機」がある屋敷はロケーションも素晴らしく、まるで孤高の野武士を見るようであった。
また、すぐ近くにも看板を貼った小屋があり、二人のお年寄りがのんびりと手作業をしていた。
「写真を撮ってもいいですか?」と線路を隔てて声をかけてみたが、僕の声が届かなかったのか、話に夢中のようだった。
2日間にわたって、ぐるりと山形県を一周した探検となったが、季節外れの雪と遅咲きの桜の香りに包まれながら、爽やかな旅に仕上がったと思う。
何より、3月の青春18きっぷの旅で見つけた看板屋敷を1軒づつ訪ね、カメラに収めていくことができたのは、宿題をやり遂げた後のような達成感と爽快感があった。(おわり)
(2014.8.26記)
※画像上/山形県西川町。月山が近くにある町。冬と春が同居した桜と雪山の風景。
※画像中/鶴岡市の町並み。歴史を感じる古い家屋が軒を連ねる。※画像中/月山を望む大井沢という小さな集落の風景。
※画像下/JR奥羽本線羽後中山駅付近。看板屋敷の撮影をしていたらちょうど米沢行きの電車がやってきた。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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