ホーローの旅
レポート306 秋どっぷりの新潟ホーロー紀行 前編
2014.10.11
山形県長井市~飯豊町~新潟県関川村~村上市~新発田市~長岡市
生まれて初めての入院手術から1ヶ月。
傷口はまだ少々痛むが、その反面、ホーロー探検の虫がうずいて仕方がない。
身体が快方に向かっているバロメーターは看板探しをすることだと都合よく位置づけし、思い切ってホーローの旅に出ることにした。
目指すは新潟県である。投稿者のとらのしっぽさんからたくさんの情報をいただき、彼の地での探検の期待が大きく膨らんでいる。
新潟に向かうルートはいくつかあるが、今回は山形市から南陽市を経由し、国道113号線を飯豊町から関川村に入るルートをとることにした。
久しぶりの泊り旅なので、秋が深まった越後の風景も一眼デジカメで切り撮りたい。 何はともあれ、出発である。
仙台駅からレンタカーを使い、山形市までは東北自動車道で1時間。更に上山市から南陽市を抜け、仙台を出て2時間後に最初の目的地、JR米坂線今泉駅に到着した。
最近気になっているのが、駅にあるホーロー看板。看板が年々減少していく中、最後に残るのは手厚く保存されている町名看板と駅名看板だと思っているが、駅名看板については、旧国鉄の路線によってもデザインが異なっていたり、その字体も様々で興味が湧く対象である。
JR北海道の駅名看板は、すべての駅に設置されているものが「サッポロビール」のスポンサー入りで統一されているので、駅名が違う以外は面白味がない。
今泉駅には駅名看板はなかったが、レトロなプラットホームには「荒砥方面のりば」と「赤湯方面のりば」の2枚があった。
明朝体の字体もレトロで、この看板を背にしてホームに立つと、まるで昭和30年代に遡ったような錯覚を感じた。
JR米坂線から外れ、田園風景の中にぽつりぽつりと出てくる小さな集落を拾いながらハンドルを握る。こうしたロケーションはホーロー看板が潜んでいる可能性大である。
思った通り、オロナミンCや醤油の看板が迎えてくれた。
季節は秋真っ盛りである。刈り取りが始まったばかりの水田の稲穂は、目が覚めるような黄金色だ。
JR手ノ子駅近くで見つけた看板屋敷は、そんな風景の中で、まるでそこにあるのが当たり前のようにすっぽりと同化していた。
「菅公シャツ」と「サクラ日本学生服」の2枚の看板が、ファインダーの角度を変えるときらりと反射する。
いつまでも残したい日本の原風景…この次に来たとき、また再会できるだろうか。
飯豊町を離れ、県境を越えると関川村。その中心にある下関地区は江戸時代から米沢街道の宿場町として栄え、古い町並みが残るエリアとして観光客を集めている。
2005年に初めて訪ねたが、その時に見つけたホーロー看板をたくさん貼った自転車屋がそのまま残っていたことがうれしかった。
更に、大きな萱葺民家の屋根の上で、職人さんたちが萱葺き作業をしている場面に遭遇。
二人の職人さんはどちらもかなりのお年寄り。
(大丈夫かな?)と内心ハラハラしながら眺めていると、そんな心配はまったくの杞憂だった。
不安定な屋根の上でのテキパキとした連係プレーは見事で、一息も乱れることなく次々に萱を葺いていた。
こうした世界、「需要がなくなる」といえば一言だが、後継者を育てることも含めて、伝統を守る技を続けることが難しい世の中になっていくのだろうか。時代はどんどん進んでいる。
関川村からは国道290号線に入り、山間の集落を訪ねていくが、ホーロー看板の姿を見ることなく日本海に出た。
平成の市町村合併で現在は村上市になったが、旧神林村の塩谷地区は新潟県北部にあっても、見どころがある町の一つだ。
江戸時代に北国街道の宿場町、北前船の寄港地として栄え、古い町並みが連なる通りを歩くと、濃厚なレトロの風を感じる。
クルマが来る気配もないので、ネコがのんびりと通りを横切っている。時間がのんびりと流れるのどかな午後である。 そんな中に「白ダイ」や「マルノ味噌」の看板があった。
2008年に訪ねた時にはこの看板はなかったと思うが、後から貼られたのだろうか。今となっては謎である。
塩谷からはそのまま日本海に沿って南下し、新発田市に入った。
情報を得ていたJR羽越本線沿いにあるという看板屋敷を探したが、どれだけ探しても見つけることができず、情報が新しいものだっただけに納得できないまま新発田を後にした。
今回は1泊の探検ということで、当初は新潟市内で宿泊する計画を考えていたが、翌日に行われる「新潟市民マラソン」と重なってしまい、新潟市内周辺のホテルはどこも満室だった。
仕方なく遠く離れた長岡市に宿を取ることになったが、この選択は間違っていなかったようだった。
往路の途中で、ずっと気になっていたクスリの看板も撮影できたし、何よりも車窓から見る秋の風景が素晴らしかった。
越後平野に揺れるススキ、民家の軒下に吊るされた干し柿、そして、空を真っ赤に染めた夕陽。
深まる秋の一瞬をまぶたに焼き付けて、探検の初日が過ぎていった。(つづく)
(2015.3.8記)
※画像上/新潟県関川村。萱葺き民家の屋根の上で作業をする職人さん。
※画像中/刈り取りを待つばかりの山形県飯豊町の田園風景。
※画像中/新潟県村上市塩谷集落。すっきりと晴れた秋の風景。
※画像中/新潟県長岡市郊外で。民家の軒下につられた干し柿。
※画像下/越後平野の落陽。空を真っ赤に染め上げていました。
※宿泊/ビジネスイン長岡 素泊まり5800円。長岡インター至近のオープンしたばかりのホテル。朝食サービスもなく、価格的にはちょっと高い。☆☆★★★