ホーローの旅
レポート307 秋どっぷりの新潟ホーロー紀行 前編
2014.10.12
新潟県上越市~燕市~新潟市~山形県南陽市
闇の中にぼんやりと浮かぶ月に向かって、ハンドルを握る。
時間が惜しくて、久しぶりに夜が明けきらぬうちから活動を開始した。
長岡インターから北陸自動車道に乗り、上越市の柿崎インターで下りる。
県道61号線を南下すると、白み始めた山や刈り取りを終えばかりの田んぼが、徐々にオレンジ色のモノゲンロートに染まっていくではないか。ここぞシャッターチャンスとばかりにカメラに収めた。
現在は上越市に併合された旧安塚町に入ると、県道沿いやちょっとした広場に黄色い花が咲き乱れていた。
ヤナギバひまわりという花で、安塚区全体では町おこしもあって、130万本が植えられているという。
目が覚めるような鮮やかなレモン色の可憐な花の列はどこまでも続いており、"ひとり探検隊"の孤独なドライブを癒してくれた。
この日まず目指したのは、山間にある看板商店である。投稿者のとらのしっぽさんに情報をいただいてから、酒看板が何枚か貼られたその商店を、早くこの目で見たくてしかたがなかった。
「勇躍」や「花の友」の組看板が貼られた木造の巨大な商店は堂々とした存在感があり、山の中に突然開けたスペースに忽然と現れたという感じ。
背景の雑木林は黄金色に色づき、素晴らしいロケーションの中にたたずんでいた。
開店休業状態なのだろうか、撮影許可を取るために引き戸を開けようとしても閉ったままだった。店内も気になったがこれではどうしようもない。
こうした"匂う"商店には、間違いなく店内にも宝の山があると思うからだ。 2台のカメラを駆使して思う存分写真を撮ってから、もう一軒の商店に向かう。
山を越えてようやくたどり着いた小さな集落にある商店、これもただならぬ雰囲気があった。
「花の友」の組看板が傾斜がある屋根の角度に合わせて整然と並び、場違いな赤い自販機の横に「清酒妙高山」の短冊看板が貼られていた。
はがきや切手も売っているよろず屋なのだろうか、小さな赤いポストも可愛いい。
そこだけが濃厚な昭和の空気に支配された商店に背を向けて、山を下りる。
エンジンブレーキを効かせながらどんどん標高を下げていき、上信越自動車道の上越高田インターに出た。
地図を眺めて改めて思うが、今回の探検は文字通り広大な新潟県を、端から端まで東奔西走している。
その分、高速道路を駆使することになるが、時間の余裕もない2日間の旅である。欲を出してできるだけたくさん回りたい探検ではやむを得ない。
燕市を抜け新潟市に向かうが、国道の道路情報を流す電光板には、渋滞情報が…。それを確認した途端、あっという間に渋滞に突入。
ちょうどこの日は第32回目を迎える新潟シティマラソンが開催されており、約1万人が参加する大イベントだったようだ。
計画では新潟市内の町名看板や地酒看板を訪ねる予定だったが、市内いたるところで通行止めが発生している状況ではそれもままならず、渋々ルートを変更する羽目になってしまった。
更に、不幸は重なる。新潟市の外れにある小さな集落でも余儀ない迂回に見舞われた。
とにかく"匂う"集落だったが、ちょうど秋祭りの真っ最中で、フーテンの寅さんが口上を垂れていそうな露店が並び、子供たちが引く山車がお囃子を引き連れて行ったり来たり。ここも泣く泣く諦めざる負えなかった。
この日の最後は肥料看板が貼られた木造の商店。引き戸の窓ガラスには内側に白いカーテンが下がり、店内が見えなかった。
おそらく、老夫婦がずっと昔から営んでいる店に違いないと勝手に想像もしたけど、あいにく声をかけても引き戸は開かず、僕の想像の真偽を証明することはできなかった。
さて、誰も待っていない仙台のねぐらまでは、ハンドルを握り続けて4時間の距離である。
目が覚めるような真っ青に晴れ上がった秋空に、遠く飯豊山から下りてくる冷たい風を肌に感じながら、鼻歌を歌いつつのんびりとアクセルを踏んでいく。
病み上がりの、秋にどっぷり浸かった短い旅は、もうすぐ終わる。(おわり)
(2015.4.5記)
※画像上/新潟県上越市郊外で。山に囲まれた小さな集落に霧が立ち込める。空は朝焼けの桜色だ。
※画像中/新潟県上越市柿崎郊外。夜が明けたばかりの風景。遠くに見える山と刈り取られた田んぼがオレンジ色に染まっていた。
※画像中/新潟県上越市安塚区。街の至る所にヤナギバひまわりの群落が咲き乱れる。レモン色の可憐な花に癒される。
※画像下/JR米坂線。新潟県小国町あたり。