ホーローの旅
レポート319 楕円の崑ちゃんに出会った、新潟の旅 前編
2015.5.16
山形県飯豊町~新潟県関川村~村上市~胎内市~新発田市~五泉市~三条市
ホーロー探検を初めて10年目に突入したが、その存在を知っていてもいまだに出会うことができない看板がいくつかある。
一つは「カルピス」の吊看板。ストローを咥えた黒人がデフォルメされた有名なデザインである。
京都の酒屋でお蔵入りになっているという情報をつかんでいるが、自然の状態で店の軒下に揺れている姿は、これまで一度も目にしていない。
そしてもう一つが「オロナミンC」の崑ちゃんがプリントされた楕円形の看板である。
おそらく、大塚グループ傘下となったアース製薬の看板である、由美かおるや水原弘がプリントされた楕円看板が制作された同時期(1970年頃)のものと思われる。
ちなみにアニメのイラストは巨人の星が入っている。 あくまで推測でしかないが、崑ちゃんの楕円バージョンは由美かおるや水原弘を作成した同じ工場で、"ついでに"作られたのではないだろうかと勝手に思っている。
かつては全国の商店で貼られたようだが、ポピュラーな長方形の貼りつけ看板と比較すると、その数は圧倒的に少ない。
近年では香川県で発見例がある他、自然の状態で見つかったということを聞いていない。
2013年に、これも発見困難だったミラーマンがプリントされた看板を撮影できたこともあり、オロナミンCの数あるタイプの中でも最後のターゲットとなった崑ちゃんの楕円看板に、ぜひとも出会いたいと思っていた。
そんな中、看板情報を共有させていただいている新潟のとらのしっぽさんからの情報が届いた。何と、新潟県内でこの看板を発見したという。 まさに青天の霹靂である。
こうなるといても立ってもいられないのが探検隊の性。早速、とらのしっぽさんに連絡を取って新潟に向かうことにした。
▼5月16日
仙台駅前からレンタカーで出発。楕円のオロナミンCはもちろんだが、新潟県内の看板屋敷やレアな看板の情報もたくさんあるので、今回は気合を入れての泊りがけ探検である。
新潟へのアプローチは、いつもの通り山形市から米沢街道を走る。
JR米坂線の沿線にはこれまで何度も足を運んでいたが、今回はできるだけ線路沿いに走ることを目指して小さな集落を拾っていく。
これが功を奏したのか、飯豊町の山中で2枚のクスリ看板が貼られた小屋を発見。
農協ブランドのクスリ看板はタイプも様々だが、この2枚はどちらも初見のデザインだった。
県境を越えて新潟県の関川村に入ると、雲行きも怪しくなって今にも降り出しそうな曇天になった。
関川村は何度も訪ねているので、調べつくしたと思っていたが、うれしいことに崑ちゃんのオロナミンCを発見。
かつては商店だったのだろうか、民家の2階の軒下に貼られていた。かなり高い位置にあるので、頭上の看板まで気づかなかったわけだ。 これに気を良くして、村上市に向かう。
とらのしっぽさんから教えていただいた「千秋の自転車」と「クリームハト」を撮影。どちらも初めて見る看板なので、素直にうれしい。
それとJR羽越本線沿いにある3つの看板屋敷の撮影。これも楽しい。
小雨が降る中、カメラを持って線路沿いをウロウロするのはかなり怪しい人に見えたかもしれないが、それはまったくの杞憂で、誰にも出会わなかったし、望遠レンズを駆使して切り撮ることができた。
特に新発田駅南にあった屋敷は、前回2014年の探検でも見つけることができず、半ばあきらめていた物件であっただけに、桃畑の先にチラリと見えた屋敷を見つけた時には胸が高鳴った。
そして、今回のホーロー旅の最大の目的、楕円形の崑ちゃんである。
夢にまで見た看板はひっそりとたたずむ商店の入口に貼られていた。人も歩いていない集落、持っていけ!!と言わんばかりのまったく無防備な状態である。
撮影許可を取ろうと店の奥に声をかけてみたが、ご主人はおろか誰も現れなかった。
のどかな週末、日本の田舎の風景、そしてゆっくりと流れる時間。
目的の看板を見ることができたのもうれしいかったが、それ以上に優しい時間に触れることができ、満ち足りた気分で店を後にした。
つけ加えておくと、この日は久しぶりの越後の旅だったこともあり、いくつかの酒蔵も訪ねた。
なかでも新発田市の金升酒造は、ちょうど酒蔵フェステバルと銘打ったイベントの真っ最中で、入場料600円を払って、酒蔵の見学や蔵の地下水で淹れたコーヒーを楽しむことができた。
宿がある三条市に向かう途中、果てしなく広がる田園風景に目を奪われた。
田植えが終わったばかりの水田に、音もなく落ちる雨のしずくが小さな波紋を広げていく。
そんな様を黙って観ていると、日頃の仕事でできた眉間のシワが消えていくような、落ち着いた気分になるのであった。 (つづく)
(2015.11.9記)
※画像上/新発田市の金升酒造。創業1822年。ホーロータンクが並ぶ薄暗い蔵に入ると、ピンと張りつめた空気を感じることができた。
※画像中/田植えが終わったばかりの水田が広がる風景。米どころ新潟県を象徴する景色である。三条市付近。
※画像中/JR羽越本線を行くディーゼル車輛。
※画像下/金升酒造の酒蔵見学をした。