ホーローの旅
レポート323 マンガと歴史の町、登米へ
2015.6.20
宮城県松島町~美里町~涌谷町~石巻市~登米市~大和町
1月に被災地、石巻を旅した。
駅前から続く『マンガロード』には宮城が生んだ巨匠・石ノ森章太郎のマンガキャラがデザインされたフィギュアがそこかしこにあり、ホーロー探検そっちのけで撮り歩いた。
石ノ森と石巻はよく似ているのでこんがらがってしまうが、石ノ森章太郎の生家は登米市石森にあり、いつかは訪ねたいと思っていた。
登米市は過去の探検でも二回訪れているが、一方の中心地・登米町には藩政時代から明治にかけての歴史的な建物も多く残っており、また、登米市役所がある佐沼と呼ぶ迫町には昭和レトロな町並みもあり、どちらも魅力的な登米の顔となっている。
そんな登米市は仙台からクルマで2時間ほどで行けるだけに、日帰りのホーロー探検にはもってこいのロケーション。
今回の探検ルートは、できるだけ未踏のルートを走りながら登米を目指して折り返すことにした。
いつものように仙台駅でレンタカーを調達。このところ毎週のように借りているので、店の従業員には顔を覚えられてしまった。そのうち「いっそのこと、クルマ買ったら?」と言われそうだ。
まずは松島を目指す。宮城の景勝地、松島を通る国道45号線はいつも渋滞しているので、迷わず三陸自動車道で松島北インターまで乗る。
JR東北本線に沿って北上すると、「まるまん学生服」が貼られた屋敷が目に飛び込んできた。
すでに無人となっているが、看板も保存状態が良く、しかも建物と一体化したように背景の青空に映えている。これぞホーロー看板がある風景である。
登米の方向とは少し道草になるが、JR石巻線に沿って西進。涌谷駅近くで「ムヒ」の看板を撮影した。
この看板は2月に気仙沼の被災地を回る旅をしたときに、車窓から偶然見つけたものだ。
看板が貼られた小屋の前には、座布団を敷いたパイプ椅子に座ったご老人が日向ぼっこをしており、まさに昼寝の真っ最中。そろり、そろりと近づき、お爺さんの眠りを邪魔しないように、そっとカメラに収めた。
涌谷町から美里町を抜け、再び石巻市に入る。JR石巻線は前谷地駅で気仙沼線と別れる。
気仙沼方面に伸びる県道21号線を走ると、「谷風わた」を発見。(なんだか見覚えがあるなぁ…)と思って撮影。
帰宅してから確認してみると、案の定、2007年5月に同じ場所で撮影していたことが分かった。
北上川に沿って北上し、石巻市桃生町から登米市津山町を探検。レトロな町並みが軒を並べ、お宝看板の匂いがプンプンするが、意に反して「ムヒ」とたばこの看板くらいしか見つけることができなかった。
午後も回り、コンビニのおにぎりを頬張りながらハンドルを握り、県道15号線から登米町に入る。
有料公開されている藩政時代の広大な武家屋敷も気になるが、それ以上に石造りの商店や、廃業した木造の商店、無人となった家屋の方が自分にとっては気になる存在。
町を丹念に回るとホーロー看板でおなじみの「ヤマカノ味噌醤油」の醸造元もあって、シャッターを切る対象物には事欠かない。
勘違いしていたが、登米町は「とめ」ではなく、「とまいまち」と読むこともこの町を訪ねて初めて知った。
ホーロー看板の収穫はほとんどなかったが、町歩きを楽しむことができたのは収穫だった。
登米町からは登米街道と呼ぶ迫町佐沼へ向かう県道を北上する。整然と並ぶ水田の稲が目に眩しい。しばらく行くと白い花が咲く蕎麦畑に景色が変わり、目の保養としてもまったく飽きない。
このあたりは広大な田園地帯で、宮城県を代表する米どころである。
佐沼の町は仕事でも訪れたことがあり、古い商店が並ぶ一角もあってホーロー探検にはそそるエリアだと思っていたが、残念ながら収穫はゼロで、これにはがっかりだった。
16時を回り、雲行きも怪しくなってきた…と思ったら、突然の稲光に大粒の雨。ホーロー探検は中断である。
雨は止む気配がなく、今日のもう一つの目的だった登米市石森の「石ノ森章太郎記念館」に立ち寄った時には土砂降りになっていた。
駐車場に止めたクルマから降りることもままならぬ状態だったが、記念館と生家に立ち寄ることができたのはうれしかった。
雨が上がり、帰路は大和町を経由して国道4号線を仙台に戻ったが、途中に立ち寄った醤油醸造元が旅の最後を爽やかに締めくくってくれた。
蔵元に併設している店舗に入ってお目当ての看板を撮影したいと言うと、ご主人のお婆ちゃんは本当にうれしそうな表情で、「どうぞ、どうぞ」と快諾してくれた。
このお婆ちゃん、そこから長々と話が始まり、お礼に醤油を買って店を出るときには、柿の種を紙に包んでくれ、「仙台まで長いから食べながら行きなさいね」と、お駄賃のように手渡してくれた。
私は50を超えているのに、まるで、孫を扱うような言い方(笑)。
思わず自分が子供のころ、こんな風景があったなぁ…と思い出してしまい、思いっきり温かい気持ちになって店を後にした。
人のまごころに触れた、旅の終わりだった。
(2016.1.14記)
※画像上/白い花が咲く蕎麦畑。夏の風景が展開した。登米町。
※画像中/タチアオイが咲く田園風景は、夏の風物詩。
※画像中/登米町の町並み。武家屋敷も良いですが、こうした石造りの建物も昭和レトロを感じて味わいがある。
※画像下/登米市石森にある石ノ森章太郎記念館の入り口にあったサイボーグ009。石巻のマンガロードにあるフィギュアより、こちらのほうが精悍だ。