琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート325 真夏の岩手県ワンディ探検

2015.8.1
岩手県紫波町~花巻市~遠野市~奥州市


探検レポート325

三日前に梅雨が明けた東北地方。早朝からうだるような晴天である。
レンタカーを調達した仙台駅前から2時間半、北に向かって岩手を目指す。
ノンストップで東北自動車道を走り続け、紫波インターに到着。
岩手県紫波町は和賀山塊の東側に広がるのどかな町で、すくすくと育った稲が緑に染まり、田園風景が目に鮮やかである。
実はこの紫波町には忘れられない思い出がある。1998年8月、沢登りをする目的で白神山地に向かう東北自動車で、突然にクルマが故障した。
オートマッチクのギアが壊れてしまい、高速道路の途中で止まってしまった。やむなくJAFに牽引されて紫波インターから下車し、そのまま紫波町の自動車修理工場に運ばれることになった。
結果は廃車。10年間乗った愛車をこの地で手放すことになった。
修理費と搬送費を考えると適切な判断だったが、愛着があるクルマだっただけに、今となっては苦い思い出である。
そんないわく付きの紫波町から、今日のホーロー探検がスタートすることになった。 まず目指したのが紫波町北部にある廣田酒造。

探検レポート325

明治36年創業の小さな酒蔵で、のどかな田園風景の中にあった。投稿者のとらのしっぽさんから教えていただいた情報によると、蔵の中に酒看板があるようだ。
ワクワクする気持ちを抑えながら「慶喜」と染め抜かれた大きなのれんをくぐる。玄関を入ってすぐの壁に「銘酒慶喜」の看板があった。
留守なのだろうか。声をかけてみたが誰も出てこない。しばらく待ってみたが、やはり誰もいないようだ。
何だかコソ泥か空き巣になったみたいできまりが悪いが、看板の写真だけを撮らせてもらって失礼することにした。
次に向かうのは同じく紫波町にある月の輪酒造。紫波町から石鳥谷町にかけては南部杜氏の里といわれるだけあって、歴史がある酒蔵が多く残っているエリアだ。
米どころらしく、見渡す限りの田園風景が広がっている。JR東北本線をまたぎ、古舘駅から紫波町高水寺にある月の輪酒造を目指す。
東北本線は東北新幹線と並行して走っているが、出張中の新幹線の車窓から古舘駅近くに「ボリショイ菅公学生服」の看板が貼られた民家を見つけていた。
しかし、いざクルマで探すとなると簡単には見つからず、結局いたずらに時間が過ぎていくばかりだった。
そんな中、偶然にも「サンヨー乾電池」の看板を発見。閉店した商店の軒下に掛かっていた。

探検レポート325

この看板は裏面が「サンヨー電球」になっていたが、帰宅してから調べてみると、「自転車用発電ランプ」になっているものもあるようだ。 おそらく本日一番のお宝になるだろう。
珍しい看板を見つけて、気持ちよく酒蔵に向かう。 明治19年創業の月の輪酒造は堂々たる構えで、販売所の入口にある熊の置物に吊看板が掛かっていた。
情報では店内にも2枚の看板があるということなので、「ごめんください」と挨拶をしながら入店。
しかし、誰も出てこない。本日二度目の空振りである。ここでも決まり悪い思いの中、土間の傘立てにひっかけてあった看板を撮影して店を出た。
この蔵はお嬢さんが杜氏をされているということで、全国的に見ても女性杜氏がいる蔵ということでも有名。ぜひお会いしたかったが、残念である。
太陽は頭上になり、エアコンが効かないほど暑くなってきた。JR東北本線に沿って南下し、出張時に見つけていた看板屋敷に向かう。
「三菱ミシン」や「トヨタ洗濯機」が貼られた屋敷全体を撮るために、線路の反対側から雑草をかき分けて近づくが、これがとんでもなく厄介だった。
棘があるイバラとまとわりつく蜘蛛の巣、そして肌を切るススキの群生。やっとのことで撮影して戻ってくると、半ズボンの脚にはそこらじゅうにひっかき傷ができており、血がにじんでいる。
更に靴下と靴には"ひっつき虫"がびっしりと付いてしまい、痒くてしょうがない。
東北地方には風土病であるツツガムシやマダニの被害も多いので、自分の決死の行為が手痛いしっぺ返しにならないように願うしかなかった。

探検レポート325

看板屋敷を後にして、紫波町南部にある堀の井酒造に向かう。この蔵にはホーロー看板が期待できると思っていたが、門から蔵の中に入ることができず、蔵の外周を徐行するだけで、諦めるしかなかった。
更にJR東北本線をまたいで「清酒南部関」を造る川村酒造に向かう。事前に情報を貰っていたので、予定通り看板を撮影することができた。
酒蔵の看板探しはここで打ち止めとし、旧大迫町(現花巻市)から遠野を目指した。
大迫町の中心部には古い町並みもあって期待が膨らんだが、残念ながら没。更にそこを起点にバス路線が伸びる山奥の集落を丹念に回ってみたが、火の用心と肥料の看板を見つけたのみで終わってしまった。
「日東化学アンモニア化成」の肥料看板は、そのデザインも斬新で見つけた瞬間に胸が躍ったが、帰宅してから調べてみると、10年前の探検ですでに同じ場所で撮影していたことが分かった。
この日の探検は、遠野から奥州市江刺区までを走ったが、結果的にこれも既にトレースしたルート。
手の届かない位置に貼られたオロナミンCやリッカーミシンの看板の生存を確認するのみで終わってしまった。
このままでは不完全燃焼で終わる予感がして、夕暮れが迫るなか、江刺区の山奥の集落に足を延ばしてみた。
最後の勝負が期待に応えてくれたのか、ぽつんと一軒だけ建つ商店にオロナミンCの看板を発見。うれしいことに黄金バットバージョンだった。
この日は、夜になっても30度を割らない暑い一日となった。
汗がとめどなく流れ、ダニにやられたのか身体が痒くて仕方がなかったが、振り返ってみると、蒸せるような夏草の匂いと、肌を焦がす夏の日差しを思う存分感じた探検となったと思う。
(2016.2.8記)
※画像上/花巻市大迫町の町並み。そそる町並みだが残念ながら看板の姿はなかった。
※画像中/気温36度のこの日、秋をほんの少しだけ感じる風景があった。岩手県紫波町。
※画像中/遠野の風景。そろそろ色づき始めた田んぼの脇で、雑草を焼く風景が見られた。
※画像下/石造りの頑丈な建物や木造の重厚な民家、商店が並ぶ一角に立つと、時間が止まった空間に放り込まれたようで、何だかホッとした。奥州市江刺区。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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