琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート327 小さな秋を見つけた、知多半島から伊勢湾岸の旅

2015.8.14
愛知県東浦町~美浜町~南知多町~名古屋市~大治町~蟹江町~津島市~愛西市~三重県桑名市


探検レポート327

近畿のホーローウォーキングから帰還してすぐ、今度は地元の看板探しを決行。
久し振りの帰省なのに、遊び歩いている私を見て、カミさんはあきれ顔だ。
3月に衝動買いしたヴィッツのハンドルを握り、まずは愛知県東浦町を目指す。
東海環状自動車道から伊勢湾岸道に乗り継ぎ、豊明インターで下車。自宅からここまで1時間。
目的の町名看板がある石浜集落まではナビを駆使して小さな集落を拾って進むが、期待に反して何も見つからなかった。
石浜集落の町名看板は黒壁の小屋に貼られていた。カメラを構えてシャッターを押そうとしたその時、「あんた、何しとらっせる?」 怪訝な表情をした、この家のおばあちゃん?に背後から声をかけられた。
ちょうど帰宅の場面だったようだ。すかさず撮影の目的を話すと、「貴重なもんかのぅ…」と、つぶやきながら母屋に入って行った。

探検レポート327

今日の探検はこれまでに集めた情報に沿って回るので、道草もせずに次の目的地に向かう。「ミスダリヤポマード」の看板は潮の匂いが風に乗って漂う、海べりの町にあった。
懐かしい感じがする商店の前に立つと、遠い日の一頁を思い出す。昭和30~40年代に住んでいた我家の前には、軒下に下がったグリコのホーロー看板が風に揺れる駄菓子屋があり、いつも10円を握りしめて通っていた。
くじを引きの景品を当てたくて、スカ(ハズレ)が出るたびに、オマケの駄菓子を貰って肩を落とした。
幼いころのそんな思い出がよぎる商店もずい分少なくなったが、まだこうして残っていたことに拍手を送りたい。
知多半島はさすがに海の町、夏の日差しは強烈で、ジリジリと首筋を焦がしていく。南知多町のお寺に着いた時には、めまいがするほどの気温になっていた。
知多四国八十八箇所の札所があるお寺の境内は、遠くから聞こえる蝉の声以外、静寂の中に埋もれていた。「六〇ハップ」の看板はお堂に続く建物に隠れるように貼られていた。
「六〇ハップ」は名古屋に本社がある武藤鉦製薬(株)が1927年に発売した入浴剤で、名古屋では有名なロングセラーブランド。

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ホーロー看板があったことも驚きだが、何よりもお寺の境内に残っていたことが珍しい。
さてこの看板、撮影しようとカメラを向けた途端、犬に吠えられてしまった。誰もいない境内の静寂を破る鳴声に、慌ててシャッターを切り、そそくさと踵を返すことになった。
知多半島を離れ、いったん名古屋に出てから愛知県西部に向かう。
JR関西本線を走る電車の車窓から、ほんの一瞬見えるという仁丹の看板を撮る。「仁」「丹」の二文字の鉄道系組看板は関西地方を中心に25か所見つけているが、名古屋市内に残っていたこと自体驚きで、これまでまったく気づかなかった。
鮮やかに輝く赤と白の目的の看板は、用水路の脇に建つ民家に貼られていた。ホーロー看板が激減している平成の世に、こうしたインパクトがある風景に出会えただけでもうれしい。
仁丹屋敷を離れ、愛知県西部に広がる水田地帯へ。大治町、蟹江町、愛西市、津島市は海抜ゼロメートル地帯で、起伏が全くない平坦な道を町名看板を探して走る。
愛知県内でもこのエリアには町名看板が比較的残っていおり、ストリートビューが整備された近年、新規の町名看板の発見も相次ぎ、まだまだ埋もれているお宝も期待できそうだ。

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新規発見を期待して、クルマ一台が通り抜けることがやっとなくらい狭い道に分け入り、集落の中で看板を探し回る。
地道な探検だが、苦労の割に結果はついてこず、結局、何も見つけることができなかった。
そのまま木曽三川を超えて三重県に入り、現在は桑名市に併合された多度町で情報を得ていた2枚の町名看板を撮影。この日の唯一の新規発見となったが、倒壊しかけた小屋で、板壁に隠れていた看板を発見したことが収穫だった。
久し振りの地元探検となったこの日の気温は36度超えで、じっとしていても汗が噴き出す始末。
まさに夏真っ盛りなのに、車窓から流れゆく風景には、秋の装いがほんの少し始まっていた。
頭を垂れ始めた田んぼの稲や、穏やかに流れる揖斐川の風景。 背景に迫る養老山脈の稜線にもなんとなく秋の気配を感じた、小さな旅の終わりだった。
(2016.2.20記)
※画像上/三重県桑名市多度町の風景。秋が近づいてきているのか、田んぼの稲は頭を垂れ始めた。
※画像中/愛西市の古い民家が残る旧街道を歩く。
※画像中/知多四国八十八箇所、第42番札所・天龍寺。ここは厄除けのお寺として有名。誰もいない境内を歩いてみると、お堂のような建物があり、赤ちゃんの涎掛けのような衣類がたくさん下がっていた。
※画像下/緩やかに流れる揖斐川。獲物を狙っているか、鵜が水面を見つめていた。三重県桑名市多度町



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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