ホーローの旅
レポート334 錦秋の会津ぶらり紀行 後編
2015.10.18
福島県会津若松市~会津美里町~金山町~三島町~西会津町~会津坂下町~会津若松市~湖南町~郡山市~須賀川市
肌を刺す空気の冷たさに、すぐそこまできている冬の扉を感じながら、朝靄が立ち込める会津の町を出た。
会津若松市内から美里町へ向かって起伏がない道をのんびりと走る。早朝とあってすれ違うクルマもほとんどない。
刈取りが終わった田んぼが延々と続く景色に飽きてきたころ、シャッターが下りた商店で醤油味噌の看板を発見。
気づかなければあっという間に通り過ぎてしまうロケーションだが、これはストリートビューの机上探検ですでに確認済の物件である。 そこにあるのが当たり前と思いつつ、初見の看板にも関わらず大した感動もなくカメラに収めた。
改めて思うが、地図の検索機能が一段と発達し、もはや行き当たりばったりの探検は過去のものになってしまった。 予期せぬ遭遇を求めて、まるで宝探しのごとくホーロー探検に明け暮れていた日々が、ほんの数年で過去のものになるとは思いもよらなかった。
もっとも、“偶然”と“心の躍動”を求めるなら、ストリートビューを活用しなければ良いわけだが、その利便性を体感すればするほど誘惑には勝てないから困ったものだ。
京都の仁丹町名看板にしかり、東京の町名看板探しにおいても、今さらながらにその威力は圧倒的である。もはや、“偶然”と“心の躍動”はビューで検索するPCのブラウザに置き換わってしまったといえそうだ。
話が逸れてしまったが、今回の探検もご多分には漏れず、ビューを使っての事前探検を行い、こうしてバス路線でもない集落の道を走っている。
これも事前のリサーチの成果だが、会津美里町の小さな集落で商店の二階壁面に貼られたニッシン飼料の看板を見つけたが、ちょうど、ご主人?が店の前の掃除の真っ最中。
普段なら何も気にせずに声をかけ、写真をとらせてもらうところだが、早朝で、しかも相手が苦虫を噛み潰したような表情のご老体とあれば、気軽に声をかけられない。
小心者の私である(笑)。
過去の経験が蘇えり、トラブルになりそうな予感があるとすれば、ここは行動を起こさないのも手だ。しばし思案してから、店から遠く離れた位置にクルマを止め、ズームでシャッターを切った。
往路も同じルートになるが、金山町のJR見線沿いの酒屋にある『清酒栄川』の酒看板を撮影して踵を返す。
次に目指すのは猪苗代湖だ。福島県のシンボルとされる日本で四番目に広い湖である。ちなみに1~3位は琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖となっている。
磐梯山を背景にJR磐越西線が走る北部と、広大な田園地帯が続く南部とでは湖の表情も違ったものに見えるのもこの湖の特徴だろうか。今回の探検でほぼ一周してみてそう感じた。
さて、私が愛してやまないホーロー看板たちは、湖を取り囲むように貼られていた。思った以上に密度が濃いエリアではないだろうか。『太陽桜学生服』や『菅公学生服』など定番看板もよく残っていた。
目新しいものはなかったが、沿岸近くの小さな集落で、ストリートビューでも確認できなかった錆びたオロナミンCの看板を見つけた時には素直にうれしさがこみ上げてきた。
おそらく、この道を行きかう人のほとんどがこの看板には気づかないだろうなぁ…そんなことを考えて、小さな優越感にしたる自分なのだ。
小市民もここまでくると他愛もないが、ホーロー探検で体感できるささいな至福とでもいおうか。
のんびりとハンドルを握りながら、ぐるりと一周した湖の探検も終わり、二日に渡った錦秋の会津ホーロー探検も終盤である。
猪苗代湖を後に、東北自動車道郡山インターに向かう道すがら、傾きかけた肥料の倉庫の柱に火の用心の標語が入ったクスリの看板を見つけた。「づつうはいたにヅーシ」は初見だった。
もちろん、ビューで事前発見したものではない。 看板はセミのように柱に貼りついて、すでに周りの雰囲気にも同化している。ちっとやそっとでは剥がれないだろう。こうして何十年もの間、風雪に耐えてきたのだ。
秋の日の陽の光に弱く反射する黄色い看板が、とてつもなく愛おしい存在に思え、こんな風景に出会いたくて、私は10年もの間ホーロー探検を続けているのだ。
必然ではなく、偶然の出会いに勝るものはない。 このときめきを求める限り、まだまだ僕のホーロー探検は続くことだろう。 (おわり)
(2016.5.19記)
※画像上/刈り取りが終わった田園風景。会津若松近郊。
※画像中/猪苗代湖を取り巻く森。目が覚めるような錦秋の装いに酔う。
※画像下/猪苗代湖の風景。これ以上ない紅葉を見せてくれた。