琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート335 晩秋の津軽にホーローの輝きをもとめて

2015.11.1
青森県青森市~黒石市~田舎館村~弘前市~板柳町


探検レポート335

青く輝く看板が、赤や橙に染まるツタの中に埋もれていた。
廃工場の壁面に見つけたカゴメソースの看板は、まるで僕が来るの待っていたかのように輝いていた。
今年二回目の青森での看板探し。秋がいよいよ深まり、紅葉の中に映えるホーローの輝きも更に増している。
青森市から弘前市へ向かうほんの数時間の小さな旅でこんな風景にいくつ出会えるだろうか。
新青森駅で調達したレンタカーで青森市内を抜け、黒石市へ向かう。何度も走っているルートだが、見落としがあったよだ。真っ赤な果実をたわわに実らせたリンゴ畑から外れた集落で、『ダンロップタイヤ』の看板が貼られた自転車店を見つけた。
日曜日なのでてっきり休業かと思っていたが、カメラを向けると、ガラス越しの店内で背中を丸めて作業をしているご主人と目が合ってしまった。 何とも決まり悪いが、目礼してシャッターを押した。
古い町並みと酒蔵、こみせ通りで有名な黒石市はこれまで何度も訪ねているが、同好者のゐゑをさんからの情報を含めて新たな発見も多かった。

探検レポート335

一方通行の黒石市内を丹念に走って見つけた『銘酒清の松松嵐』の看板は、一番搾りの提灯が下った居酒屋にあった。よくある演出だが、建物も古く、昔からそこにあったようにも見えなくはない。
カメラを構えてシャッターを押そうとしたところ、ドンピシャのタイミングで入口からご主人が顔を出した。
怪訝な表情のご主人に事情を説明して撮影許可を貰い、事の真相を聞いた。結果は思ったとおり演出のために購入したものと分かったが、看板は地元黒石市の宇野酒造場(廃業)の銘柄だけに、黒石のお宝としての価値は十分。大切にして欲しいことを伝え、居酒屋を後にした。
午後を回ったので昼食を摂ることにした。いつもならコンビニのサンドイッチで済ませるとこだが、そんなに焦っても仕方がない。今夜中に仙台に戻ればいいのだ。
黒石市といえば今年のB1グランプリにも参戦した「つゆ焼きそば」。青森県黒石市のご当地グルメとして、すっかり有名になったのは記憶に新しいところ。
『やきそば』と白抜きされた風にたなびくのれんに誘われて、古びた食堂に入った。 メニューは焼きそばとつゆ焼きそばのみ。レトロな店内に入ると、狭いスペースにパイプ椅子とテーブル。懐かしい昭和の香りが、そこにあった。
注文したのはつゆ焼きそばと焼きそばのハーフセット。どちらの味も楽しめて、なかなかのアイデアである。
つゆ焼きそばは和風ベースにソースが混ざった味が新鮮だった。それにしても可笑しかったのは、その食べ方だろうか。つゆ焼きそばを主食に、焼きそばをおかずとして食べているという、変な錯覚を感じた(笑)。

探検レポート335

テーブルで食べているのは私一人だったが、その間にテイクアウトのお客さんがひっきりなしに出入りして、優しい津軽弁が飛び交う店内に、何とも言えない心地よさを感じることができた。
さて、後半戦のホーロー探検は、黒石市から弘前市へのルートである。黒石の中心部から県道268号線をまたいだところでのどかな駅を発見。
『田舎館駅』は田舎館村にある広南鉄道広南線の無人駅で、開業は昭和25年(1950)。
誰もいないことをいいことにホームに立ったり、錆びた線路に触れてみたりした。薄暗い駅舎に入ると、ほっとさせてくれる癒しの時間を感じた。 ホーロー看板を探す旅をまろやかにする要素は、案外こうした風景との出会いなのかもしれない。
ひたすらハンドルを握り、古びた建物に貼りついた看板を探すために、目を皿のようにして流れる景色を凝視していくのは思った以上に疲れる。
たくさんの癒しの風景と、地元の人々とのちょっとした交流が小さなホーローの旅をまろやかなものにしてくれると思っている。
弘前市では味噌醤油の醸造元を再訪した。前回訪ねたのは2008年だが、記憶の糸を手繰ってみると、新たな看板が増えていたり、吊り下げられた酒やみその看板の位置が変わっているのに気付いた。
これまでにもこうした変化を確認した物件はあるが、いずれにしても看板を大切にしていることの表れではないだろうか。
この日の探検は弘前市から板柳町を抜けて、新青森駅にゴールした。 弘前市の山中では、どんどん狭くなっていく道の先にあった小さな集落で『づつうはいた神経痛にズバリ』の看板を見つけた。
民家の土壁にしがみついたように貼られた赤い看板は、本州最北を弱く照らす晩秋の陽光に反射していた。
おそらく50年以上もの時を、人知れず、風雪に耐えてきたに違いない。
(2016.6.12記)
※画像上/赤や橙のツタに埋もれるようにカゴメソースの看板が貼られていた。
※画像中/広南鉄道広南線田舎館駅。田舎じみた駅名もなかなか。待合室に入ると癒しの空間があった。
※画像下/神社の境内には目が覚めるほど黄色く色づいたイチョウがあった。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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