ホーローの旅
レポート336 東京ホーローウォーキング 2015師走
2015.12.12-14
東京都世田谷区~目黒区~渋谷区~葛飾区~千葉県松戸市~船橋市~東京都墨田区~葛飾区~中央区
▼12月12日
四日間で17万歩を歩いた残暑のホーローウォーキングから三か月、再び東京に戻ってきた。
両足のマメが潰れ、靴を履くのも辛く、更に全身筋肉痛になって身体を動かすことすら面倒な日々を送ったというのに、その時の辛い経験もすっかり忘れて、再び夜が明けきらぬ新宿の空を見上げている。私を吐き出した夜行バスは、疲れたエンジン音を唸らせて、霧の中に溶けていった。
前回の探検では100枚ほどの町名看板を撮影したが、東京23区だけでも250枚を超える看板が残っていることを考えると、東京でのチャレンジはまだまだ緒についたばかりである。
限られた三日間の日程でどれだけ見つけることができるか分からないが、とにかく歩くだけだ。
新宿駅から小田急小田原線に乗って、まず向かったのが経堂。車窓から見る白み始めた景色は乳白色。濃い霧に閉ざされてしまったのだろうか。12月だというのに気温が高いようだ。
経堂駅にあるマクドナルドで腹ごしらえをしてウォーキング開始。誰も歩いていないすずらん通と呼ばれる商店街を足早に抜けると民家の生垣の金網に本日一枚目の看板を発見。
前回は一枚目から不発だったので、今回は幸先の良いスタートだ。 そのまま住宅街を西に歩き、経堂3丁目→船橋3丁目→2丁目と撮影。
次いで小田急線を跨いで桜が丘1丁目から世田谷1丁目、上馬5丁目、3丁目、2丁目と歩き、最後は三軒茶屋にゴールした。歩数計を見ると、なんと2万歩超え。いきなりのハイスコアだ。
次に目指すのは目黒方面だが、中途半端に電車に乗っても仕方がないので、そのままウォーキングを続けることにする。今のところ足の痛みもなく快調である。
世田谷公園を突っ切って東山2丁目を撮影し、更に3キロの歩を進めて中目黒3丁目を撮った。この看板はストリートビューで事前確認できていなかったのでうれしい誤算だ。
中目黒からは下目黒3丁目の看板を目指して南下していくが、その途中で『目黒寄生虫館』を発見。計画には入れてなかったが、好奇心の虫が動き出し、これを見ないわけにはいかないとばかりに立ち寄ることにした。
実はこの博物館の存在は以前から知っており、ぜひ見学したいと思っていた。というのも、博物館の創立者、亀谷了著『寄生虫館物語』(1994年、文芸春秋)を読んだことが印象に残っていたからだ。
中でも人間の体内から出てきた9㍍もあるサナダ虫の話にはビックリ。ぜひとも実物を見たいと思っていた。
館内を見学して不意に思い出したが、昭和30~40年代の僕が小中学校の頃、学校で「ぎょう虫検査」というのがあった。小学校の頃はマッチ箱のようなに箱にウンチを入れて持って行ったし、中学校の頃は透明の粘着シートを肛門にぺたりと貼りつけて寄生虫の卵の有無を検査していた。
当時はお腹に寄生虫を飼っている生徒はたくさんおり、給食の後には皆が並んで虫下しのクスリを飲む風景があった。
私は寄生虫には縁がなかったが、クスリを飲んだ翌日、回虫が出てきたという話を友達からよく聞いたことを思い出した。
もう一つ、当時大好きだった昆虫採集で「ハラビロカマキリ」という大型のカマキリを捕まえて標本にしようと腹を裂いたとき、中から10センチ以上もある回虫のような虫が飛び出てきて、跳ねるように床を這っていたこともおぞましい経験。
今回の見学で、これはカマキリに寄生する「ハリガネムシ」という寄生虫だということも分かった。遥か遠い昔の思い出だが、寄生虫にまつわる話を今だに覚えていることに我ながら驚く。
さて、この施設。入館無料というのもうれしい。噂には聞いていたが、デートスポットとしても人気があるらしく、カップルの見学者もたくさんいた。 それと、気になっていたサナダ虫だが、あまりの大きさに思わず「ひぇ~」と唸ってしまった(笑)。
思いっきり横道にそれてしまったが、初日の最後は下北沢の町名看板で締めくくった。歩いた歩数は4万3千歩。のんびりと歩いたことで、懸念していたマメが出来ずに済んだのは収穫だった。
▼12月13日
東京の探検では定宿になりつつある、山谷に近い南千住の安宿で目覚める。外はあいにくの雨だ。
JR常磐線の金町駅で下車し、前回見落とした駅から南側に広がる金町エリアの看板をカメラに収めていく。
ストリートビューで確認できなかった新規の町名看板を見つけることができたのは収穫だったが、反面、看板が貼られていた家屋が解体されて更地になっている場面にも遭遇し、一喜一憂することになった。
雨が激しくなり、折りたたみ傘の骨が折れるくらいの風が出てきた。師走の冷たい雨は容赦なく戦意を失くしてくれる。
ずぶ濡れになりながら金町駅に戻り、コーヒーを飲んだり、床屋に行ったりしてしばらく様子を見た。
2時間ほど時間を潰し、雨が小降りになったのを見計らって、新松戸に向かう。清水町2丁目と小金の2枚の看板はすんなりと見つけることができた。
JR松戸駅に戻り、京成電鉄に乗り換えて常盤平で下車。降り止まぬ雨の中で1枚撮影し、この日の最後の目的地である船橋に向かう。
京成電鉄西船駅周辺には比較的たくさんの町名看板が残っており、7枚の看板を撮影することができた。
時間切れで訪ねることができなかったが、このエリアではJR船橋駅と京成船橋競馬場駅近くにも町名看板があり、次回の宿題に残しておくことにした。
想定外の雨にやられて中途半端なホーローウォーキングとなってしまったが、安宿に戻って缶ビールで一人乾杯すると、疲れがどっと出てしまい、そんなことはどうでも良い気分になるのだった
。
▼12月14日
昨日とは打って変わって、快晴の朝を迎えた。最終日の今日は墨田区を中心に歩く計画である。
スタートは押上駅。スカイツリーを間近に見ながらの探検が始まった。
東武伊勢崎線の押上から曳舟、そして小さな町工場が並ぶ八広へのルートはそそる町並みや路地がたくさんあって飽きることがない。東京23区にあっても下町情緒を感じるエリアではないだろうか。
高いビルやマンションなどの建物も少ないので、空間が開けた分、スカイツリーはどこにいても見ることができ、楽しい町歩きとなった。
八広からは荒川に架かる四つ木橋を渡り、堤防をのんびりと歩きながら葛飾区の新小岩駅へ。ブロック塀に貼りついた町名看板を撮影してこのエリアの探検を終えた。
東京駅八重洲口から出る17時発の仙台行き高速バスに乗ることを考えると、時間がぎりぎりだったが、最後の仕上げとして、撮り残していた月島の看板2枚を撮影し、三日間のホーローウォーキングの総仕上げとなった。
今回撮影できた看板は44枚というスコアになったが、ストリートビューで事前確認していたにも関わらず、消失確認した看板も多くあり、残念な結果となった。
思った以上に都内の看板消失に加速度がついているようである。そのスピードは京都の仁丹看板の比ではないように思える。
この目で確認し、記録に残していくことを考えると一刻の猶予もないだろうと思う。
とはいえ、東京の町名看板の魅力は決して色褪せることはない。網の目のように生活密度がぎっしり詰まった都内だからこそ、クルマを使わないロースピードのホーローウォーキングは理に適っている。
更に健康的で、何よりもその風景の中に自分自身を置くことによって、町の雰囲気に同化できるのが醍醐味である。
足にマメができようが、全身筋肉痛になろうが、機会を得て、三度目のホーローウォーキングを計画してみたくなった。
(2016.6.24記)
※画像上/街角で見つけた八百屋。墨田区郷平付近。まだこうした下町風景がある。
※画像中/押上から曳舟へ。下町の工場が並ぶ一角に入ってもスカイツリーは見えている。
※画像中/目黒寄生虫館。入場無料というのもうれしい。おぞましい寄生虫もじっくり見ると愛らしくなる。
※画像中/墨田区八広付近。町工場が並ぶ風景はモノクロに見える。
※画像下/墨田区立花から見るスカイツリー。巨大な建造物である。
※宿泊/『ほていや』素泊まり2800円。南千住駅から徒歩10分のいわゆる山谷にある。旅慣れた人には申し分ない宿。東京探検の定宿。☆☆☆☆★